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2003年2月

2003年2月28日 (金)

映画「戦場のピアニスト」

戦場のピアニスト

the pianist

2002年

ポーランド フランス

ショパンのノクターンとやたらと褒めまくるCMでお馴染みのカンヌを制覇しアカデミー賞も制覇しそうな勢いの話題作。2時間半以上の大作にも関わらずしっかりと見られるところ、やっぱりよく出来た映画なのだと思う。

ストーリーはナチスによるユダヤ人迫害が過熱する中、第2次大戦を必死に生き抜くワルシャワのユダヤ人ピアニストを描くもの。完全な実話とのこと。

監督のロマンポランスキーと言えば、グロくてしょうがない「マクベス」の映画の印象が強いが、彼の描いたユダヤ人迫害の場面は「マクベス」に匹敵する強烈さだった。この監督ってわざわざ映さなくてもいいものをしっかりと撮るんですよね。「マクベス」では断頭台から転がるものを普通に映していたが、今回も銃声だけにするなどの配慮は一切なしだったり、おいおいそんなシーンしっかり映すなよ。みたいなのが多い。これを見ていると、「シンドラーのリスト」の白黒はかなり観客への配慮がなされていると感じる。カラーだときついっす。

そもそもこの監督、「ローズマリーの赤ちゃん」などホラー系が得意っぽいし。過去に某お宅で見た意味の良く分からない「ナインズゲート」もこの監督ですね。ちなみに、同監督のハーディ原作の文藝大作「テス」はかなり綺麗な映画でしたけど。「マクベス」と「テス」はビデオにとって持っているのだ。

ユダヤ人迫害のワンシーンで主人公が公園に誘われるのを断るシーンがあるのだが(30秒くらいネタバレになってしまったかも)、この場面は「あの頃はフリードリヒがいた」を激しく思い出させました。「ベンチ」というタイトルのついているエピソードです。他にもアンネの日記風エピソード、「ライフイズビューティフル」を思い出させるシーンなどもあり、それらが頭を交錯する為にかなり胸に迫るシーンが多い映画です。

あと、この映画、使われているピアノは全てショパンの曲でポーランド人としての誇りがかなり表されていて、さらにはドイツ人が弾いた曲がベートーベンという超凝った設定(実話なのかもしれないけど)も見られ一人でおぉっと思って見ていました。最終的な感想はピアノが上手いことはいいことだってことですね。

最後に、見ている最中に後ろの席のおっさんが「おぉ、こいつ撃たれるぞ」とかコメントしててかなり気になりましたとさ。

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2003年2月 6日 (木)

「残像に口紅を」 筒井康隆 

残像に口紅を

筒井康隆

中公文庫 1995.4  

この本は実験小説なので内容はほとんどない。300ページ以上あるのに全く内容はない。でもかなり面白い。どのように実験小説なのかと言うと、使うことのできる音が各章ごとに減っていくのだ。

分かりやすく言うと、冒頭に「世界から言葉が消えていく」とあり、第一章では「あ」が消えている。「アイス」や「あなた」などの単語が使えなくなるのだ。で、50音全てと濁音、半濁音など日本語の全ての音が消えるまで70章弱。

中盤までは半分の音がなくても日本語ってかなり使うことができるのだと実感。終盤は作者もかなり頑張りを見せている。そう言えば、これと似たようなものがかつて「幽○白書」にあったっけ筒井氏の方が先だろうけど。

で、この作品の面白いところをもう一つ。主人公が自分が物語の登場人物であることと、この小説の置かれている状況を理解していると言う点。話の中盤では主人公自らが、この言葉が限られた状況下で情事をするとどう表現されるのかなどと自ら実験的に行動に出たりするのだ。

言葉が消えるとその言葉で表現できる物体も世界から消えてしまう。全ての音を消していくので、7,8ページくらいで一つの章が終わり、次の章ではまた一つの音が使われなくっているので次の7,8ページで現れる新しい世界を読みたくなり読む手が止まらなくなる作品。

物語としては主人公のなんともない日常があるだけで全くストーリー性はないがここまで読ませた作者の発想に脱帽ですね。英語でやるならアルファベットが1つづつ消えていって全26章といったところでしょうか。

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2003年2月 4日 (火)

「巫女」 ラーゲルクヴィスト 

巫女 (岩波文庫)

巫女
sibiyllan

ペール・ラーゲルクヴィスト
Par Lagerkvist

岩波文庫 2002.12

久々の海外文学でクリティカルヒットって感じの当たり。この作者名はあまり馴染みがないですけど、何気に1951年にノーベル文学賞を受賞しています。スウェーデンの作家です。代表作「バラバ」は映画化もされているようです。

デルフォイを見下ろす山に白痴の息子と2人で暮らす老婆。長い間外界との接触を一切絶った生活をしている。ある日、そこに1人の男がやって来る。彼は自分にかけられた呪いのことを訊きたくデルフォイの巫女を訪ねたが答えが得られず噂で聞いたこの老婆の元へとやってきたのだ。彼の呪いは、後に「神の子」と呼ばれる罪人が十字を背負って街を歩き磔刑される際に、自宅の壁にもたれて休もうとしたのを拒否した際にかけられたものである。この話をきいた老婆は、自身の数奇な運命を語り始める。

この作品のテーマはズバリ「神とは何か」なのだが、男が遭遇した罪人は明らかにキリストであり、老婆の暮らすデルフォイでの神はアポロンである。この作品で描かれるのは特定の宗教にこだわらない人間の信仰心そのものであり、神という全て(宗教の枠までも)を超越した存在が持つ意味を厳しく問い掛けてくる。

前半3/4くらいまでは、民話や神話のような出来事が淡々と語られ(決してファンタジーではないが)、その意味が後半1/4で明かされ、作者の神に対する強いメッセージがあられる。1,2日で読めるライトさの中に深い意味がつまった名作だと思います。

神は邪悪だ。(中略)残忍で無慈悲だ。神は人間なんぞお構いなしだ。御自らを構われるのみ。そして神は決して許さない。

あの方は悪でも善でも、光でも闇でもあるし、無意味であるかと思えば、わしらには皆目理解できんが、思い煩うべき意味に満ちてもおられる。解かれるために存在するんじゃなくて、存在するために存在する謎じゃよ。いつもわしらのために存在するために。いつもわしらを悩ませるためにのう。

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