「残像に口紅を」 筒井康隆
残像に口紅を 筒井康隆 中公文庫 1995.4 |
この本は実験小説なので内容はほとんどない。300ページ以上あるのに全く内容はない。でもかなり面白い。どのように実験小説なのかと言うと、使うことのできる音が各章ごとに減っていくのだ。
分かりやすく言うと、冒頭に「世界から言葉が消えていく」とあり、第一章では「あ」が消えている。「アイス」や「あなた」などの単語が使えなくなるのだ。で、50音全てと濁音、半濁音など日本語の全ての音が消えるまで70章弱。
中盤までは半分の音がなくても日本語ってかなり使うことができるのだと実感。終盤は作者もかなり頑張りを見せている。そう言えば、これと似たようなものがかつて「幽○白書」にあったっけ筒井氏の方が先だろうけど。
で、この作品の面白いところをもう一つ。主人公が自分が物語の登場人物であることと、この小説の置かれている状況を理解していると言う点。話の中盤では主人公自らが、この言葉が限られた状況下で情事をするとどう表現されるのかなどと自ら実験的に行動に出たりするのだ。
言葉が消えるとその言葉で表現できる物体も世界から消えてしまう。全ての音を消していくので、7,8ページくらいで一つの章が終わり、次の章ではまた一つの音が使われなくっているので次の7,8ページで現れる新しい世界を読みたくなり読む手が止まらなくなる作品。
物語としては主人公のなんともない日常があるだけで全くストーリー性はないがここまで読ませた作者の発想に脱帽ですね。英語でやるならアルファベットが1つづつ消えていって全26章といったところでしょうか。
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