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2003年5月

2003年5月30日 (金)

「まだ見ぬホテルへ」 稲葉なおと 

まだ見ぬホテルへ (新潮文庫)

まだ見ぬホテルへ

稲葉なをと

新潮文庫 2003.4  

建築家である著者が世界中のホテルを旅して書いたエッセイ。

カラー写真が豊富で綺麗な風景を堪能できる上に、エッセイの方もなかなか良くできているので満足度の高い本。ちなみに、この本の解説を書いているのはB’zの稲葉さんでして、どういうつながりかと思えば、著者と従兄弟らしい。何気に本編よりも驚愕の内容が解説に含まれていて結構びっくりだった。

このホテルエッセイシリーズは多数出版されているようで、紀行文の賞も受賞したとのこと。

紀行文といえば、「深夜特急」と「ももこの世界あっちこっちめぐり」が個人的にはすきなのだが、「ホテル」という点に焦点をあて、ときには建築家ならではの視点も加わるということで、このシリーズも今後ちょっと注目しようと思う。

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2003年5月18日 (日)

「完訳 ナンセンスの絵本」 エドワード・リア 柳瀬尚紀訳

完訳 ナンセンスの絵本 (岩波文庫)

ナンセンスの絵本
books of nonsense

エドワード・リア
Edward Lear

柳瀬尚紀訳

岩波文庫 2003.5  

19世紀のイギリス詩人の書いた作品。定番と言えば定番ですね。語尾がaabbaの形で押韻する5行詩で、ほとんどを"There was a person of ~"という形式で書き初めて、詩自体の内容はその題の示す通りナンセンスなものになっている。さらに特徴的なのは、総ての詩に作者自身によるそのナンセンスな世界を描いたかなりシュールなタッチの挿絵がつけられている点。

この翻訳版、訳者が柳瀬尚紀というところがかなりポイント。

ナンセンスな英文学を翻訳させたら彼はトップクラス。「不思議の国のアリス」もちくま文庫の彼の翻訳したバージョンは傑出した名訳。原文の内容を残して、日本語にも原文と同じ形式を持たせると言う技が冴える訳なのだ。

この「ナンセンスの絵本」でも、原文の5行詩で、aabbaと押韻するというルールを日本語に残し、さらに意味も割りと正確に翻訳していてかなり好印象。まぁ、押韻の仕方に関してはちょいと無理が感じられるのがあるといえばありますけど。

じっくりと読むのではなく、一日2,3篇を軽く味わうという読み方が適していると思います。原文と訳文が挿絵をはさんで同じページに並べられているという構成もかなり好印象な1冊。

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2003年5月17日 (土)

「カカシの夏休み」 重松清

カカシの夏休み (文春文庫)

カカシの夏休み

重松清

文春文庫 2003.5  

今月の新刊です。重松作品の文庫化は来月に「ビタミンF」と連続するのでちょっと嬉しいです。最近作品の発表ペースが早くなってきたのはいいけど(去年は恐らく月1ペースくらいで新刊が出てた)、質が落ちないかどうかが気になるところです。はやく「流星ワゴン」が文庫化してほしいけどきっと2,3年後だろうなぁ。

で、この作品。重松作品にはもはやある一定の品質が保証されてますね。とりあえず外れはないですけどその分より多くを求めてしまうので満足感を得るのが難しくなってきた感じもします。いつもながらドラマ化したらどれも佳品になりそうな作品ばかり。この中編集のテーマは重たい過去を引きずる主人公達の旅立ちというところか。

表題作「カカシの夏休み」は、中学時代の同級生の死をきかっけに22年ぶりに同級生と連絡をとることになる小学校教師が、自身の抱える過去のコンプレックスに悩み、受け持ちの生徒の抱える問題とそれを対照させて描いた作品。もう少し年をとったらもっと感情移入できるのかなぁというのが率直な感想。

一番印象的だったのは3作目の「未来」。かつて同級生が自殺し、その過去を引きずり社会に復帰できないでいる主人公。その弟の同級生が遺書に弟の名を残して自殺。重松お得意のイジメ系作品かと思いきや、こちらはいじめた側に焦点を当てて、その過去を抱えて、いかに「未来」へと自立して行くのかを描いていて、イジメそのものは背景にあるだけ。収録の3作品中では一番重い内容なのだが、静かな感動を呼ぶと言うか、最後に何かが残る作品。主人公と自分の年齢が一番近いからなのかもしれないけど。

他に、「ライオン先生」という長髪のカツラをつけた中年高校教師を描いた作品が収められていて、これもなかなか好感。

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2003年5月13日 (火)

「ダロウェイ夫人」 ヴァージニア・ウルフ

ダロウェイ夫人 (角川文庫)

ダロウェイ夫人
Mrs. Dalloway

ヴァージニア・ウルフ
Virginia Wolf

角川文庫 2003.4  

今週末から公開の「めぐりあう時間たち」のテーマの基になっている作品です。この映画はアメリカで公開される前の予告を見て以来ずーっと気になっているので公開が楽しみ。

で、この作品は、かつてイギリスに旅行した際にロンドンが舞台の作品を読もうと原書で買っていたものの、内容と英語の難しさにギブアップしていたもの。映画の公開に合わせて翻訳が復刊されたので早速購入。その結果、原書でギブアップしたのは英語の問題よりも内容の問題であったことが発覚。日本語で読んでも難しい。

内容は、「意識の流れ」と呼ばれる手法を完成させた記念碑的作品で、6月のとある日に、ホームパーティーを開くことになった初老のダロウェイ夫人が、その準備のために街へ買い物に行った午前中から、パーティーを開くまでの半日くらいを描いたもの。

面白いのは、作品の進行が全て登場人物の考えていることだけで展開されるということ。街を歩く老婦人の脳裏に浮かぶ過去の思い出、街角で公園で出会ったかつての恋人、友人との思い出や、それに関する自分の見解などのみで構成されており、それがダロウェイ夫人のみならず、全ての登場人物の視点から次々と折りたたむように挿入されて最後まで続くのである。

ストーリーは全体として、とある6月の昼下がりの中にダロウェイ夫人を囲む人々の交友関係(ウルフならではの同性愛まである。)の歴史を一気に凝縮させると言う大胆なもの。この手の作品はついていくのが結構大変なので読むのが難しいが、この手法が面白いのでなんとか最後までたどり着いた感じ。最後まで読んだら、今度ロンドンに行く機会があったら片手に持って舞台を探訪したくなった。

ちなみに「意識の流れ」と言えば、フォークナーの「響きと怒り」は何度トライしても最後まで読めない。こちらは飛び飛びの時代の4日間の出来事を通して、ある家族の人々が考えたことを連ねていく作品なのだが、その登場人物の大半が精神的に問題ありという設定を持っているので正確に何が起こっているのかを把握するのが難しいのだ。

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「神様」 川上弘美 

神様 (中公文庫)

神様

川上弘美

中公文庫 2001.10  

半年くらい前に「蛇を踏む」(芥川賞受賞作・文春文庫)というのを読んだのですが、この作者の本の2冊目です。彼女のデビュー作を含む短編集になってます。続き物もあれば単独のものもあるのですが、全体を通して不可思議な夢の世界が描かれて個性溢れる短編集に仕上がってます。

表題作の1話目の冒頭の文章がいきなりツボにはまったのですが、「くまにさそわれて散歩にでる。」ですよ。さらには「くまは雄の成熟したくまで、だからとても大きい。3つ隣の三〇五号室に最近引っ越してきた。」と物語が展開。あまりにもシュールな書き出しだが、その後もこのペースでフワフワした感じのまさしく「夢」の世界が描かれていた。

一番印象に残ったのは2話目の「夏休み」というもので、都会での生活に違和感を感じていた1人の女性が梨園で働く一夏のできごとを描いているのだが、梨園でとある生物に出会うという展開。そして、文章でここまでその生物の愛おしさを描ききったところが上手いと思う。文章ながら本当にかわいい。そして、その女性の心境の変化をその中に織り込んだこの作品は奥が深くい。

他に印象的だったのは、亡くなった叔父が自分の前に現れるというお話。全体にやさしい文章が溢れていてなかなかホロリとさせられた。川上弘美さん、結構要チェックかも。

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2003年5月 8日 (木)

「カエルの城」 ヨースタイン・ゴルデル

カエルの城

カエルの城
froskeslottet

ヨースタイン・ゴルデル
Jostein Gaarder

NHK出版 1998.11  

先日、友人から「ゴルデル作品でも屈指のもの」というお墨付きをもらったのを受けて読んでみた。これまで、「児童書」というカテゴリーの棚に置かれ、挿絵が豊富な装丁なためにちょっと敬遠していた一冊なのだが、読んでみたら確かに面白い。自分の読んだゴルデル作品の順位としては、1位「カードミステリー」(これは半端じゃなく面白い。読んだ人は皆そう言ってるように思う。)、2位「カエルの城」、3位「ソフィーの世界」というところだろうか。「アドヴェントカレンダー」などはあまり好きじゃなかったのでゴルデル作品も当たり外れが大きそうだ。

これは祖父を亡くしたばかりの少年が森の中で妖精に導かれてとあるお城に行き、そこで不可思議な体験をするというファンタジー。お城の場面などは「不思議の国のアリス」を思わせるような不条理でドタバタと展開して行って、そうした場面の合間にゴルデルならではの哲学的な側面もちらほらと現れる感じの物語。

アリスにとても良く似た構成をしている反面、この作品にはそれとは全く異なった側面があり、そこが結構興味深い。主人公の少年の現実世界での体験、思いがファンタジーの中に交錯して、物語を通して、少年の現実世界での心理状態を示唆していくという構成が秀逸。

この本の最大の欠点は、挿絵です。あまりにもお子様向けの挿絵で、電車の中で恥ずかしかった。翻訳の文章なんかは割りと大人向けのものにルビを入れているような感じで、明らかに挿絵によって「児童書」というカテゴリーに無理に押し込められているなぁと思った。

物語の途中にサンショウウオが大きくなりすぎて檻から出られないという下りがあるのだが、井伏鱒二を思い出さずにはいられませんよね。

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