「ねじの回転・デイジーミラー」 ヘンリー・ジェイムス
ねじの回転・デイジー・ミラー ヘンリー・ジェイムズ 岩波文庫 2003.6 |
最近、読書運が良い。読んだ本が比較的当たり続きで、面白い本はスイスイ読めてしまうので読書量がかなり増えている。
この作品は19世紀のアメリカ出身でその後イギリスに帰化した作家ヘンリー・ジェイムスの代表的な中篇2つを収めた今月の新刊。「ねじの回転」は新潮文庫版を持っていたが訳が好きになれず挫折。今度の新訳は相性がよく最後まで読めそうだ。で、そのうちの1篇を読んだ感想である。ジェイムスといえば、映画化した「ある貴婦人の肖像」や「鳩の翼」が有名だが、この中篇2つが最も有名なのは間違いないだろう。
「デイジー・ミラー」
「デイジー・ミラー」というのはこの小説の主人公が恋をする女性の名前で、ストーリーはヨーロッパに滞在するアメリカ人たちを描いたもの。いかにもアメリカンな自由奔放なデイジーと、そんな彼女を快く思わない「ヨーロッパ」を強く意識して変に上流ぶる夫人たち、長期の欧州滞在で欧・米の中間的な視点を持つ主人公が描かれる。
デイジーは、伝統としきたりが残る19世紀のヨーロッパ社会の中を本当に「自由」に動き、その社交界を揺さぶる。同じアメリカ人として彼女に思いを寄せる主人公も、彼女がヨーロッパの貴公子と仲むつまじくなると一気にそれを批判する立場へ。
面白いのは、ヨーロッパに負けまいと上流風をふかす夫人たちの姿。この作品のテーマは「アメリカ」VS「ヨーロッパ」だそうで、1人の青年の固定した視点からだけで描いているにも関わらずそれが本当に上手く表現されていて面白かった。19世紀のヨーロッパの社交界は自由恋愛がまだ認められていなかったらしいですよ。
「ねじの回転」
新潮版は最後まで読めなかったけど今回は無事読了。
家庭教師が子供達を悪へと誘う霊の存在に気づくという内容で、ジェイムズといえば、純文学のカテゴリに入ると思うが、これも幽霊小説という形をとりながらもなかなか奥深い。
解説によると、ここに現れる幽霊を家庭教師の幻影だとする説と本当に現れているという説とが対立しているそうだ。個人的には家庭教師幻影説も可能性大だと思った。霊が出という場面における家庭教師の精神的な高揚状態はかなり異常であるように見受けられ、それに対して霊によって手なづけられているとされる子供達の描き方も如何様にもとれるものの割りとあさっりして感じが強いので、妄想説が有力なのかもしれない。解釈がどのようであれ、これは「名作」であることは間違いないです。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 「足音がやってくる」マーガレット・マーヒー(2013.05.30)
- 「SOSの猿」伊坂幸太郎(2013.05.05)
- 「死美人辻馬車」北原尚彦(2013.05.16)
- 「俺の職歴」ミハイル・ゾーシチェンコ(2013.04.01)
- 「エムズワース卿の受難録」ウッドハウス(2013.03.24)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント