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2003年7月29日 (火)

「犬婿入り」 多和田葉子 

犬婿入り (講談社文庫)

犬婿入り

多和田葉子

講談社文庫 1998.10  

近頃ちょっとマイブームな芥川賞作品シリーズ。これは93年の受賞作。作者はドイツで文学活動をしているそうで、割と権威のある「シャミッソー文学賞」も受賞しているそうだ。この本には2作品収められているのだが、やはり芥川賞受賞作のほうが圧倒的によくできていたと思う。

ストーリーは、川べりの団地の近くで学習塾を開く北村先生のもとに、ある日突然、まるで犬のような「太郎」という男がきて同棲を始めるというもの。都市を舞台に民話的世界を構築していて確かに上手いと思う。さらには作者の独特の文体がかなり顕著に見られ、たとえば冒頭で「午後二時」を表現するために以下のように表現している。

「昼下がりの光が縦横に並ぶ洗濯物にまっしろく張りついて、公団住宅の風のない七月の息苦しい湿気の中をたったひとり歩いていた年寄りも、道の真ん中でふいに立ち止まり、(中略)、遠くから低い唸りが聞こえてくる他は静まりかえった午後二時」

ここで「中略」となっている部分がかなり長く、午後二時を修飾する要素は6行にもわたって続く。他にも10行ほどある一文などが多用されており、慣れるまではやや読みづらい。しかもこの長さで体言止めを多用するので文の落ち着きが悪いのもしばしばなのだが、おそらく意図的になされているのだろう。

川上弘美や先日の笙野頼子とはまた違ったタイプの不思議ワールド。こちらのほうは「夢世界」ではなくあくまでも現実性を帯びた書き方をしているのでより一般的なのかもしれない。やけに艶かしい部分もあったし。でも、作中で書かれているように子供が捉えるような「汚い=エロ」という種類で書かれた艶かしさなので食事中などは決して読まないほうがよいと思う。

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コメント

こんばんみ、ぶーもこネエです。多和田葉子は、生きている日本人作家では、一番好きです。自分のなかの「考えていること」と「言語化すること(記号化といいましょうか)」の齟齬やひっかかりに徹底的にこだわった人だと思います。自分の発する記号が、独りでに自分から離れて意味をもっていくその「瞬間」を集めたような言葉達、そんな表現をしたくなる作家さん。

投稿: | 2006年10月24日 (火) 23時23分

コメントどうもありがとうございます。
本当に稚拙なレビューなのでお恥ずかしい限りです・・・。

多和田さんは、芥川賞受賞作品を立て続けに読んでいたときに
出会いました。外国で文学活動をしているということも理由だとは思うんですけど、日本語をとても大切にしているというか、言葉の使い方が好きな作家です。

投稿: ANDRE | 2006年10月25日 (水) 18時52分

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