「少年時代」 ロバート・マキャモン
少年時代 ロバート・マキャモン 文春文庫 1999.2 |
前々から気になっていたけれど、タイトルのくささからためらっていた一冊をついに手にしてみた。もっと前から読んでれば良かったです。
純粋に面白い本だったので、「少年時代」という蓋をしたくなるようなタイトルも許してあげます。物語を読む楽しさを思う存分に味わわせてくれるような1冊です。キングの「スタンド・バイ・ミー」といい、ホラー作家の書くの少年時代ものは妙によくできていると思います。ちなみにマキャモンはこの作品から「脱ホラー宣言」をしていますけど。
ストーリーは1960年代のアメリカ南部の小さな町を舞台に、父親と殺人事件を目撃してしまった少年の1年間を描いたもので、最終的には事件の謎の解決に至るものの、物語の大半を占めているのは、30ページほどの読みきりエピソードで描かれた少年の身の回りで起こる様々なできごと(野球天才少年現るとか、サーカスがくるとか、宗教行事に参加するとか)。そして、アメリカの社会問題や宗教的な問題、哲学、文学論的なものまで盛り込まれているので内容もかなり重みがあります。映像化するならば絶対にドラマにして、一つ一つのエピソードをじっくりと描いてもらいような作品でした。
日本では推理協会の賞をとっていたり、アメリカでは世界幻想文学大賞(この賞は基準がいまいち不明だけど)を受賞していたりして、はっきり言ってジャンルが不明です。でも、この本をミステリーとして紹介している日本の立場は本質を見抜いていないと思います。ストーリーは確かに少年が遭遇した不可解な殺人事件の謎が大きな縦軸になっていますけど、この本は「少年時代は誰もが魔法を持っている」ということを言いたいのであって、この縦軸よりも、随所にちりばめられた一つ一つのエピソードの方がずっとメインであるはずなんです。ジャンルの枠を超えた1冊であることは間違いなしです。
全部で1000ページ近い大作だったんですけど、本当に面白くてあっという間に読み終わってしまいました。読んでいると、その物語世界に入ることができるという「読書の醍醐味」を嫌というほど感じました。読書好きなら絶対読むべしです。99年の刊行なので手に入りにくいでしょうけど。
<追記>
2005年にソニーマガジンズから新版の文庫が発売になりました。これで、この作品がまた世間に広まってくれればかなり嬉しいんですけどね。
上記の記事は2003年に書いた日記からの抜粋なんですけど、時間が経過してからも、この物語を読んだ興奮は忘れられません。むしろ、時を経て、作品のことを思い返すと、評価は上がる一方です。まさに「魔法」に溢れた名作、傑作だったと思います。
(2005年夏)
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