映画「ケス」
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KES 1969年 イギリス |
前からずっと見たかったイギリス映画界の巨匠ケン・ローチ監督の「ケス」をついに見ました。噂に違わず名作でした。イギリスの映画協会の「英国映画ベスト100」でも7位とかでかなり上位の作品です。
炭鉱の町を舞台に、家庭でも学校でもほとんど存在価値が感じられない少年が、ふとしたことでタカを飼い始めることで生きる喜びを噛み締めるといったようなストーリーです。ハッピーエンドではないんですけどね。
で、この映画は「フル・モンティ」(正確には鉄鋼ですが)や「ブラス!」、「リトル・ダンサー」などの炭鉱の町を舞台にした映画のまさに元祖です。
「フル・モンティ」の冒頭で、「さぁ、みんなでここで働こう!」のような古い広告CMが出てきますが、そのようなCMで描かれた炭鉱産業の町は労働者階級にとってはまさに夢の国だったんですけど、「ケス」では、現実問題としてどうだったのかが描かれています。そして、この状況はやがてサッチャー政策の犠牲となって大量の失業者を生み出すこととなります。失業者たちの生活は90年代に多くの映画で描かれましたね。
で、「ケス」です。
「ケス」で描かれる生活は決して「夢のような暮らし」ではありません。労働者階級の暮らしとしては、「土曜の夜、日曜の朝」(1960)と比べてもむしろ悪くなっているように感じます。とりわけ、60年代イギリスの徹底した管理教育の様子は目を見張るものがありました。そして、この少年も、将来は炭鉱に勤めることになるであろうわけで、小学生にして就職に関する面接までがなされています。一方、家庭では、父が蒸発し、兄と母は夜中にクラブ(パブ?)で遊び、家にはいつも1人と言う状況です。
この作品では、たった10ポンドのお金が大事件を引き起こすような生活を見事に切り取ってフィルムに抑えていました。1つのドキュメンタリーを見るような感じで見入ることのできる作品です。そして、そんな人々の生活とは対照的に空を飛び回るタカの姿が本当に美しいです。
それにしてもイギリスの空ってなんでこんなにいつも曇ってるんでしょう。この曇り空が、イギリス映画の重くのしかかるような雰囲気ととても合ってるんですよね。昨日の「ニューイヤーズデイ」もこんな空でした。
というわけで学科のイギリスに関する授業をとりまくったおかげで、「知ったかぶり映画に描かれたイギリス社会の知識」があったので、普通に見るよりもずっと深く堪能できたのでした。この辺の作品はいくつか見比べると本当に面白い事実がいっぱい見えてきますよん。
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コメント
英会話の先生(スコットランド人)から、「イギリス英語がひとつではないことを体感したいならこの映画」と言って紹介されました。全編ヨークシャー訛りで、先生自身も字幕が必要な部分があるそうです。
>たった10ポンドのお金が大事件を引き起こすような生活
おっしゃるとおりですね。「たった10ポンド」のことなのに、悲しい結末です。
「ニュー・イヤーズ・デイ 約束の日」、「土曜の夜と日曜の朝」も興味を持ちました。週末に見てみたいと思います。ご紹介に感謝です。
投稿: ETCマンツーマン英会話 | 2014年9月 5日 (金) 13時10分