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2003年10月

2003年10月27日 (月)

「リビング」 重松清

リビング (中公文庫)

リビング

重松清

中公文庫 2003.10  

婦人公論に連載した作品を集めた短編集。4月~3月までの12話で構成されていて、雑誌のその月の特集と連動したテーマで書かれたという一風変わった背景をもつ作品。

12話のうち4話は、同じ家族の4季を描いた連作になっていて、他の8話は独立した短編となっている。

いつもの重松節炸裂でした。個人的に一番よかったのは親が離婚して名字の変わることになった少年を描いた「モッチンさいごの一日」。あとは、日常から抜け出したくなって故郷に戻り、つい旧姓を名乗ってしまった主婦を描いた「一泊ふつつか」も良い感じでした。この作品もそうですが、「千代に八千代に」とか「分家レボリューション」とかいつもどおりのタイトルのネーミングのセンスが光ります。

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2003年10月23日 (木)

「予告された殺人の記録」 ガルシア・マルケス

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

予告された殺人の記録
(Crónica de una muerte anunciada)

ガルシア・マルケス
(Garcia Marquez)

新潮文庫 1997.11  

スペイン語文学の最高峰と言われる「百年の孤独」の作者でノーベル賞受賞者であるマルケスの中篇。実際にマルケスの身近に起きた殺人事件をベースに、南米コロンビアのある町で起きた殺人事件を人々の証言からルポ風に伝える作品。

冒頭で殺人事件の発生を描き、その後、過去に戻って、なぜその事件が起きることになったのかを、主人公である「わたし」が色々な人の話を聞いてまとめたと言う形式で、作品全体には芥川の「藪の中」に近い空気が流れていた。あと、カミュの「異邦人」にも似たような印象も。結局殺人が起こる過程には何らかの不条理な力が働いていたり、幻想的な空気が流れていたりするのでしょう。

淡々と事件の経過や背景を述べていくだけなのになんともいえない力強さを感じる作品でした。町という1つの閉鎖された共同体の中でうずまく民族間の抗争や独特の祭事の空気、そしてそこに1人のよそ者が現れたのを機に事件への歯車が回り始める様子を描いていて、一見するとノンフィクションのような形をとりつつもよく錬られたかなり深いテーマが根付いている感じがした。

タイトル通り「予告された殺人」であり、周囲の人々は殺人が起こるということを知っていながらも、何故それを止めなかったのか。このテーマからしてそうですけど、小説ならではの手法を用いて、このような心に深い余韻を残す傑作を書くことのできたマルケスは「ノーベル賞」にふさわしい作家だと納得できました。

眠いから変な文章になってしまってごめんなさい・・・。とにかく面白かったんですよ。

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2003年10月20日 (月)

映画「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」

キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン

catch me if you can

2002年

アメリカ

今年の春にヒットした映画。実話に基づいた実在した詐欺師のお話。

小切手を偽造して、パイロットや医者になりすまして詐欺を続けた高校生とそれを追うFBIというどこにでもありそうなストーリーをスピルバーグが久々に普通の現代娯楽劇として作っていました。テーマはスピルバーグ作品ではすっかりお馴染みとなった家族愛というところでしょうか。モデルとなっている原作者が存命中なので、悪く描けるはずもなく、主人公は犯罪者なのにも関わらず、同情を誘うような内容になっていました。

さて、この映画で何よりも一番良かったのはオープニングのアニメーション。本編も面白かったんですけど、このアニメーションの音楽とユーモアあふれるスタイリッシュなイラストがこれから始まる映画への期待感を大いに盛り上げてくれました。最近の映画でこういうオープニングがあるのって珍しいですよね。こういうところも60年代を舞台にしてるだけあって憎い演出でした。

ディカプリオが若作りとはいえ16歳はちょっと無理がある感じだっけれど、久々に演技派ディカプリオが帰ってきましたね。嬉しい。背伸びして周りの大人を騙し続ける中にチラリと見せる子供の顔がとてもよかったです。ラスト近くでクリスマスをやっている家の中を窓越しに見るシーンがとても印象的でした。トム・ハンクスはちょっと太りましたね。もっとルパンばりのコミカル追いかけっこかと思っていましたが、クールな捜査官でした。

スピルバーグは「A.I.」みたいに変に凝ったことしなくても同様のテーマでもっと面白い作品が作れることを証明しましたね。どうせなら最後に見てる人があっというような仕掛けがあったらサービス精神旺盛だったかも。サービスといえば、ジェームズ・ボンドにあこがれた主人公の使った偽名が「フレミング」(007の原作者)だったのに笑いました。

これって結局今みたいにコンピューターが全てを管理したりしていなかったから可能だった物語ですよね。「え~、こんなのできすぎだよ~」と思っても「実話です。」と言われてしまったら何も言い返せないようなできごとの連続。周囲の皆さんはもうちょっと調べましょうよ・・・。頭が良い人は色々できるんですね~。

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2003年10月18日 (土)

「12 memories」 TRAVIS

「12 memories」 TRAVIS

UKのロックグループの4thアルバム。前作は2001年の夏で、イギリスを旅行したときに街中でかかってました。あのときはイギリス旅行前に3rdを買っていて結構聞いていたので、「イギリスで今流行ってる曲をすでに口ずさめる自分がいる!」という感動を味わったものです。で、今作なんですけど、帯に「『3年ぶり』の新作」という致命的なミスがありました。2年ぶり。

今回はいつもながらの叙情サウンドがさらに進んだって感じで、倦怠感溢れるサウンドに仕上がってました。歌詞の感じもかなり社会的な感じになってます。でもやっぱりTRAVISではあるんですけど。前作同様、聞いていると、いつの間にか耳に馴染んできてはまってしまう作品かな。ヒット路線を全く意識せずに自分たちの音楽を作り続ける姿勢が相変わらず◎です。じっくりと聞いてはまることにします。

注文をつけるならですね、日本版のみのボーナストラックは必要ありませんでした。浮いてます。しかもこのアルバムはタイトルの通りに12曲で構成されるべきなのでは。オリジナルで12曲目が隠しトラックとしてトラックナンバーがついていなくて、11曲目が終わったあとに1分後くらいに流れ始めるというかなり凝った構成(タイトルから12曲目があることが予想されるんですね。)で、12曲目は歌詞カードに歌詞も掲載されてません。日本版のボーナストラックはさらにその12曲目が終わった後に1分くらいのブランクの後に収録されてて、日本版では11トラック目が全部で15分くらいになってました。こういう製作者が意図的に凝った作り方をしているCDにはボーナストラックとか入れないほうがいいと思うんですけどねぇ。

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2003年10月16日 (木)

「どん底の人びと ロンドン1902」 ジャック・ロンドン 

どん底の人びと ロンドン1902
(the people of the abyss)

ジャック・ロンドン
Jack London

岩波文庫 1995.10  

ジャック・ロンドンといえば、アラスカを舞台にした自然もの小説で有名で、僕も幼少の頃に「白い牙」などを愛読したものです。そんなロンドンが自分自身最も思い入れのある作品だと言っているのがこの作品。

これはノンフィクションで、アメリカ人である作者が、変装をして、ロンドンの貧民街であるイーストエンドに潜入しそこで生活した記録です。このときの経験があまりにも衝撃的だったために作者自身の思い入れが一番強くなったようです。

作中でも言及されていますが、貧民街の調査といって公務員などが出向いていっても、そこに本当の姿が映し出されるはずもなく、こういう体当たりのルポによって初めて浮き彫りにされる「生の声」があるのだと思います。19世紀後半ロンドンをこよなく愛するものとしては見逃せない一冊です。

当時のロンドンは急激な都市化、産業化によって貧富の差が急激に拡大していまして、大都市ロンドンでは日雇いの労働でまさにその日暮の生活をしている下層階級の人々はイーストエンドと呼ばれる都市の東側へと追いやられていました。

当時のイーストエンドでは「切り裂きジャック」の事件などが起こり、それはそれは治安も悪く、一定の階級以上の人々は決して近づかないような有様。ディケンズの小説などでも言及されてますよね。で、「イーストエンドには行かないほういいですよ」と皆が口をそろえるその場所の実態がどうなっているのかは大変気になるところでして、ロンドンの命がけの調査が始まったわけです。

そこで彼が見たのは想像を絶する光景でして、硬いパンと少量のスープのみの食事で日々を過ごし、仕事がなければ救貧院の世話になり、ひとつの部屋に10人近い人が寝泊りし、路上での生活を強いられるも警察のやっかいなったりと言った姿が本当に生々しく描かれています。ロンドンは救貧院のみならず浮浪者収容所なる施設にまで潜入していきます。

そんな中でもっとも印象に残ったのが、ロンドンがある若者と会話をするところで、その若者は、人生について熱く語り、家族なんてものがあればその分生活が圧迫されるだけなので結婚などあり得ない話しだと力説し、日雇いで働いて、その金で酒を飲んで死ねればそれで幸せと説くのだが、彼が22歳だと書かれているのです。自分と同じ歳の若者のこうした視点が本当にショックで心に残りました。

さて、そんな彼の衝撃のルポですが、どうやってしめられるのかなぁと思っていたら、最後の章になって、ロンドンは全てをイギリス政府の管理体制の悪さの引きこした大失敗の政治の結果だと結論づけていました。アメリカにはそれはないという点を強調しつつ、「国による管理の大切さ」を問うあたりは社会主義者としてのロンドンの姿勢が強くうかがえました。

ロンドンさんに1つクレームをつけるなら、数十年前まで奴隷制があり、かなり強烈な人種差別が成されていたはずの時代のアメリカの現実を棚に上げて、低い階層の人々は家畜以下の暮らしをしてるなどと言ってここまでイギリス社会を批判できるのもすごいなぁということです。もしかしたら有色人種は「国民」「人間」とさえ認識していなかったのかもしれませんけど。

結局そういう本だったのかぁとちょっと残念な感じもしたんですけど、最終章以外は「夜と霧」のように人として読んでおかなければいけないような内容だったように感じました。

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2003年10月 5日 (日)

「怪人二十面相」江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第10巻 大暗室 (光文社文庫)

「怪人二十面相」

江戸川乱歩

光文社文庫江戸川乱歩全集「大暗室」収録 

2003.8  

先日刊行が開始された乱歩全集から。昔読んだんですけど、かなり久々に読みました。

その頃、東京中の町という町、家という家では、二人以上の人が顔を合わせさえすれば、まるでお天気の挨拶でもするように、怪人「二十面相」の噂をしていました。

この冒頭だけで、ワクワクがはじまって、ストーリーとか分かるけど、やっぱり楽しめました。

子度向きに書いてあるので、ミステリーのトリックなんかは、かなりバレバレなんですけど、軽快な語り口がいい感じです。一昔前のちょっと丁寧な表現が満載なのもレトロでいいですね。

乱歩は日本を舞台に「浪漫」という形容が似合いそうな作品を残しているので、結構好きです。

で、この本の全集としての特徴がありまして、戦前に刊行されたオリジナルが、戦後の改訂版でいかに変わったのかが巻末に記されているんです。この本はオリジナルを掲載しているので、むかし読んだポプラ社版とは異なる表記が色々あったようです。

たとえば、「満州」という表記は全て「外国」に変えられたようですし、「数百万円」は「数十億円」になったようです。あとは、地名とかも時代に合わせて変更したり、軍関係の用語を全てなくしたりしたようですね。子供向けということで常に時代に合わせて変化をとげる作品だったとは知りませんでした。

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2003年10月 3日 (金)

「スティル・ライフ」 池澤夏樹 

スティル・ライフ (中公文庫)

スティル・ライフ

池澤夏樹

中公文庫 1991.12  

芥川賞受賞作である表題作は、ちょっと前に話題だったニュートリノの話なんかも出てくる作品で、どうやら世間では「理系文学」などと認識されているようです。

フリーターの主人公が、バイト先で1人の男と知り合い、バーでちょっと知的なトークを「たまたま歩いて見かけた蝶の話をする」ようにさりげなく繰り広げます。そして、ある日、彼からある計画に協力して欲しいと依頼されるというのがストーリー。

なにやら、文系の人(自分もそうだけど)には、ちょっととっつきにくい「理科系トーク」が新鮮なんでしょうか。別に特筆するほどの理系の内容でもないと思うんですけど。むしろその題材をうまく使った軽快な語り口に溢れる文系トークですよ。この本はとにかく素敵な言葉いっぱいでした。

アウトローな話でもあるんですけど、不思議な安心感に包まれていました。

「ヤー・チャイカ」 池澤夏樹 中公文庫 (「スティルライフ」に収録)

で、表題作よりもこっちの方が数倍、いや、数十倍にお気に入りでした。この作品に出会えて嬉しいです。何度も読み返したくなるような作品です。なのであえて別立てで書くことにしました。

父子家庭の父娘とひょんなところで知り合ったソ連からきた男の話。題名の「ヤー・チャイカ」は初の女性宇宙飛行士のテレシコワさんが言ったという「わたしはカモメ」のロシア語です。で、このタイトルが示すように、遠く宇宙に離れていくように少しずつ娘が成長していく姿や、巨大国家ソ連が滅びようとしている様子を比喩したような逸話の挿入。ほほえましい日常風景、ちょっとした不思議体験など色々な要素がちりばめられていました。

特筆すべくは本編とは全く関係のなさそうな「恐龍を飼う少女」の話が全編を通してときおり顔を出すことです。この作品によって本当に伝えようとしていることを探るためには何度か読み返す必要がありそうな本ですが、何度でも読みたいと思わせるような不思議なパワーを持った作品でした。

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