「前日島 上・下」 ウンベルト・エーコ
前日島 ウンベルト・エーコ 文春文庫 2003.11 |
イタリアの記号論学者であり、大作家であるエーコの作品です。4年前のハードカバーの発売以来ずっと読みたいと思っていた作品。
「フーコの振り子」は何度も挫折しましたが、これはかなり読みやすくて無事に最後まで読了できました。
17世紀、海で遭難した男がたどり着いた一隻の船。人の姿が全く見当たらない船だったのだが、誰かが船に潜んでいる気配が感じられた。やがて男は船に潜んでいた神父に出会い、船から見える「島」の話を聞く。その船は子午線のすぐ近くに停泊していて、島は子午線を越えた向こう側にある。つまり、その島は船から見て常に「一日前」に存在していることになる。
メインのストーリーは船にいる主人公がこの島に行こうとするというものと、それに平行して彼の過去が語られるという2本立て。過去の物語は三十年戦争やら、大航海時代やらの中世ヨーロッパ色が満載の内容。当時、各国が子午線の確定をするために激しい競争をしていたことなどがあります。マザランなどの懐かしい名前も大量に登場します。
エーコの書く作品はとにかく「薀蓄」というか、中世ヨーロッパの哲学やら宗教やら科学やら社会やらに関するネタがとにかく、こと細かく書かれているのが特徴で、それがために非常に読みづらいのだ。そしてそこに、「記号論学者」ならではの「モノの名前」と「その意味」との間の哲学的なコメントかなり登場する。挙句の果てには、それ自体が小説にもかかわらず「小説とは何か」などの文学の本質的な問題にもも立ち入る始末。
彼の作品は、「薔薇の名前」などは、それを全て理解するための解説が書かれた副読本が10冊近く出版されていることからも分かるように、作品の全貌を理解するためには、とにかく背景となる知識が百科事典並に要求されるのだ。
この「前日島」もその系統の物語だったのだが、「フーコ~」に比べると物語の部分がかなり面白かったので、非常に読みやすかった。分からない部分も大量にあったのだが、そういうところは読み飛ばしていって純粋に楽しめる一冊でした。
ラストのほう、幻想世界が広がるくだりは圧巻でした。
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