映画「彼女を見ればわかること」
things you can tell just by looking at her 2000年 アメリカ |
ロス郊外を舞台に7人の女性の日常を切り取った5話からなるオムニバス。それぞれは独立したストーリーを持ちながらも、1つのストーリーの登場人物が他の物語に脇役で登場し、その後の姿を垣間見せたりする。また、1つのエピソードとして語られることはないが、映画の冒頭で登場する死んだ女性が、全てのエピソードで顔を見せ、「すれ違う全ての人々に物語がある」というようなことを感じさせるよくできた構成でした。
監督・脚本はノーベル賞作家ガルシア・マルケスの息子で、作中に「百年の孤独」がちらりと登場するというサービスも。そして、「蛙の子は蛙」ではないが、この映画は5つのストーリーがどれも上質の短編小説のような仕上がりになっていました。
アメリカ映画にしては多くを語らない演出と脚本で、それぞれのストーリーも見る側が行間を埋めていって初めて意味が現れるような内容になっていました。この映画かなり好きかも。超豪華キャストによる女優たちの競演も見逃せません。この映画では、男性はかなり脇の存在として扱われています。では1つずつ感想を。
「キーナー医師の場合」
年老いた母を介護する女性(グレン・クローズ)が自分の人生を占い師にみてもらう。ストーリーは本当にこれだけです。しかしながら、ぼくは全ての中でこれが一番好きでした。グレン・クローズの演技が光ってました。そして、台詞として語られることのない1人の女性の気持ちが表情や画面を通して静かに描かれていて心に残りました。
「レベッカへの贈り物」
不倫関係にある男の子を妊娠した銀行支店長(ホリー・ハンター)がホームレスの女性から助言を受ける。これもホリー・ハンターの演技が光ってます。彼女も「コピー・キャット」のときは可愛らしさが感じられたのに、段々と老けてきましたね。あと、このエピソードは何気に他のストーリーとのリンク率が高かったですね。
「ローズのための誰か」
隣の引っ越してきた小人症の男性が気になる女性(キャシー・ベイカー)が2人で暮らす15歳の思春期の息子の成長に戸惑う。このエピソードは全5話終了後に描かれるエピローグがとても素敵でした。5話中唯一コメディ要素のある作品。息子の告白には僕も驚いた。
「おやすみリリー、クリスティーン」
第1話の占い師(キャリスタ・フロックハート)とその恋人である死の病に臥す女性の対話。女性のオムニバスドラマということだったので同性愛ものがあるかもしれないと思っていたら案の定でした。「アリー」が同性愛というのもなかなか面白い。5話中もっとも静かで暗い作品でした。
「キャシーを待つ恋」
自殺の調査をする刑事の姉と盲目の妹(キャメロン・ディアス)の物語。自らの容姿に誇りを持ち、自由に生きる妹と仕事に励む孤独な姉の対立、そして、妹に訪れる不幸を描いています。最終話ということもあって、これまでのキャラクターが色々出てきます。脇役で。キャメロンの演技が光ってました。とりわけ、目の見えない女性がエレベーターの中に残された臭いに気づく瞬間の演技はすばらしかったと思います。
第5話の最後、キャメロンが自殺した女性の物語を語ります。1話~5話まで、色々な形で登場していた彼女を思い出していくと、その身におきたことが、ひとつにつながり、エンディングを迎えるという構成がお見事!でした。
それぞれの人生のそれぞれの分岐点に立っている人々が、お互いに顔も知らず、街中ですれ違う。向こうから来る人を見て「あぁ、あの人、幸せそうだな」と感じても、実際にはそれぞれが孤独を感じ、苦しい現実を抱えている。
様々な年代の女性の目を通して、ドキュメンタリーのような静かで優しい視点からそんな人生の姿を描いているように感じました。もう少し明るくてもいいのかもしれませんけれど、この静かさがこの映画のいいところではないでしょうか。
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