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2003年12月

2003年12月24日 (水)

映画「アイリス」 

アイリス

iris

2001年

イギリス

イギリスの国民的作家であり哲学者でもあるアイリス・マードックがアルツハイマーになってしまい、文学者である夫がそれを支えるという実話を基にした作品。

2人の若き日のエピソードを随所に織り込むことで夫婦間の絆や愛の歴史が語られ、アルツハイマーに襲われる現在の状況が際立つというかなり秀逸な構成。

この映画若き日の2人、現在の2人の4人のうち3人がアカデミー賞にノミネートされ、現在の夫を演じたジム・ブロードベントが受賞していて、演技のぶつかり合いが感じられる見事な作品でした。ジム・ブロードベントは「ムーラン・ルージュ」の支配人と同一人物とは思えないほどの健気で静かな夫を好演していました。

そして若き日のアイリスを演じるケイト・ウィンスレットは先日見た「ハムレット」での演技を遥かに超えて見ごたえがあり、「乙女の祈り」を思い出させてくれました。自由奔放なアイリスをセクシーシーンまで披露しながらとても生き生きと演じていました。こんなに脱いで良いの!?って感じもしましたが。

そしてもっとも重要なアルツハイマーになってしまう現在のアイリスを演じたジュディ・ディンチは見事な演技でそれを体現していました。「恍惚の人」の森重氏の持つ現実味のある迫力はありませんでしたけど。でもとても「綺麗」にアルツハイマーを演じていて本当に見とれてしまいました。

若き日の2人は、常に一歩を前をリードするアイリスを夫が追いかけるだけという関係で、彼は、頭もよく、数多の男を手玉にとり、秘密で多い尽くされた彼女の頭の中に自分がどれだけ入っていけるのかを常に心配しながら彼女とつきあっていた。その彼女が、最も得意とする言葉の世界を失っていき、予測不可能な行動を繰り返すようになるのを、夫は見守り、そしてまた自分の手の届かない世界に行こうとしているアイリスを前にして昔の自分を思い返す。

90分ほどの短い作品ながら、過不足ない演出と演技で、静かに、美しい映像で2人を描いていて心が洗われるような作品でした。イチオシです。

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2003年12月23日 (火)

映画「ぼくの神さま」

ぼくの神さま デラックス完全版

edges of the lord

2001年

アメリカ

「A.I.」のオスメント君主演の第2次大戦のユダヤ人迫害問題をキリスト教との関係と絡めた映画。宗教的な解釈が多い作品なので自分の乏しい知識では理解し切れていないかも。

ストーリーは、オスメント君演じるポーランドのユダヤ人の少年が、1人田舎の農場の家に預けられ、そこで周囲の子供たち(キリスト教徒)と関わりあいながら生き延びていくという内容。

周囲で多くの大人たちが殺されていき、農家の子供のトロ君が「神様ごっこ」にはまり、自分が皆を救うんだと言って自らを磔にしようとしたり、ユダヤとしてのアイデンティティに揺れるオスメント君がいたりで、戦争の生んだ不条理に振り回される子供たちが印象的でした。

でもここで描かれるのは純真無垢な子供(1人だけそうなのだが)ではなく、とても「人間的」な感情で行動してしまう子供たちであるのが他のこの手の映画との違いでしょうか。

オスメント君はただの客寄せの看板で、この映画の本当の主役はトロ君を演じる少年でした。オスメント君はむしろこの映画には必要ないんじゃないかとも思えるような感じ。

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2003年12月20日 (土)

映画「タイムライン」 @試写会

タイムライン

timelinre

2003年

アメリカ

公開は来年の1月中旬のようです。

マイケル・クライトン(「ジュラシックパーク」、ドラマ「ER」の原作者)のベストセラーが原作の超大作SFアドベンチャー。

14世紀のフランスの遺跡を発掘している現場で、遺跡の中から2日前から姿を消した教授の筆跡による「Help me」のメッセージが発見され、主人公たちが発掘の出資をしている会社に呼ばれることに。その会社の開発したタイムマシン(原理はFAXと同じらしい)で先に行ったまま帰れなくなってしまった教授を救うために6時間のタイムリミットで百年戦争の真っ只中の14世紀フランスへ行くというストーリー。

SFと言いつつほとんど14世紀の世界での冒険なので史劇要素も強いです。無名俳優ばかりなのでほとんど全てのキャラに感情移入できるようになってました。主人公がいっぱいいる感じの映画です。女性キャラも大活躍なので「百年戦争」とはいえ男臭さもほとんどありませんでした。SF作品ながら、14世紀のシーンは建物や生身の人間の戦闘シーンではCGをあまり使用していないようでなかなか迫力のある映画でした。

内容的には、1時間半ほどで6時間のタイムリミットを描くのでかなりの展開の速さで、あれよあれよという間に最後まで駆け抜けるという感じ。最後のほうは映画と実時間がほとんど同じで進んで手に汗握る展開(少なくとも製作者はそれを狙っている)。「ジュラシックパーク」と同じ原作者であることが納得できるような内容で、まさに「百年戦争ワールド」といった趣。

つまらなくはないのだが、この手のタイムスリップものとしてはちょっと見飽きたような展開も様々。伏線が伏線になっていないところもあったし。製作者が狙いすぎてるのかも。ツッコミどころを探しながら見るのも楽しいかもしれません。

メインの音楽が「パイレーツオブカリビアン」と酷似しているのが面白かった。音楽で必死に盛り上げようとしてるのも。

個人的にはフランソワというキャラがかなりツボでした。あと、ANDREっていうキャラが最高に良い活躍をするので嬉しかった。一箇所だけ激しく突っ込まさせていただくと、14世紀のイギリス人と現代のアメリカ人が普通にコミニュケーション取れるのかよ!ってことですかね。君の英語は少し変だねの問に対して「スコットランド生まれなので」という理由で済まされる程度の違いではないはずだぞ。

SF&アクション好きなら見てみても良いかもしれません。娯楽大作であることは間違いないです。映画館で見たほうが絶対面白いと思います

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2003年12月19日 (金)

「郊外へ」 堀江敏幸 

郊外へ (白水Uブックス―エッセイの小径)

郊外へ

堀江敏幸

白水Uブックス 2000.7  

2年前に重松が直木賞だったときの芥川賞を受賞した明大の助教授である作者のデビュー作。

「エッセイの小径」というシリーズの1つで、パリ郊外に焦点を当てて、フランスの文学作品や映画などと郊外での体験を絡めた13篇を収録。

蚤の市で見つけたタイプライターや、偶然通りかかった本屋で見つけた本、都市の中に現れた取り残されたような洋館など印象深いエッセイが詰まっていました。マニアックに作品紹介にならないのも好印象。

あとがきを見てビックリ、作者は雑誌にエッセイの連載を頼まれてこの作品を書いたそうだが、実は全てフィクションなのだそうだ。ここで初めて芥川賞とつながりました。

作中で紹介される文学作品はかなりマニアックで僕の知ってるのはカフカ(これはドイツ文学ですけど)とモディアノくらいでした。以前受講していた大学の一般教養の「フランス文学入門」を髣髴とさせるような内容でした。

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2003年12月13日 (土)

映画「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」

ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ

Rosencrantz & Guildenstern are dead

1990年

アメリカ

このタイトルを見てピーンときたあなたは相当な「ハムレット」通ですね。監督、脚本は「恋に落ちたシェークスピア」の脚本でアカデミー賞を受賞したトム・ストッパード。

ストーリーは、「ハムレット」の中で、かなり脇役として登場し、一番最後に「Rosencrantz and Guildenstern are Dead」という台詞とともに、本編のストーリーとはほとんど関係ない部分で殺されてしまう2人にスポットライトを当てて、2人の視点から「ハムレット」を描くというもの。

様子がおかしいハムレットの身に何があったのかを探るために王によって召集されたハムレットの学生時代の友人である2人は、ハムレットから話を聞きだそうとはりきるのだが、劇団の一座を除いて、ほぼ全ての登場人物に無視されまくり、挙句の果てに自分たちも悲劇の一部に巻き込まれていくまでをかなりコミカルに描いていました。

「ハムレット」の本編に関わる部分はすべてシェークスピアの原典の台詞を使用し、「ハムレット」のストーリーもしっかりと全体を捉えていました。本を2回くらい読んでて、映画とかでストーリーをちゃんと把握していれば抱腹絶倒&興味津々間違いなしの1本。反対に、「ハムレット」の知識がない人には、淡々としているところもあるし、全く面白くない作品かもしれません。

面白かったのは、2人のキャラクター。

ハムレットに会う前に予行演習をするくだりはかなり良い感じ。確率の法則、万有引力、運動量保存の法則、蒸気機関、飛行機のモデルなどを直感的に次々に発見していくローゼンクランツに対して、理論家で考えてばかりで彼の発見をガン無視のギルデンスターンのボケ&ツッコミにも似たやりとりもかなり笑えます。

ローゼンクランツを演じるゲイリー・オールドマンが「レオン」とかでお馴染みのキレた役ではなく、普通にコメディ俳優なギャップも良い感じ。

喜劇ではあるものの、旅の劇団員のリチャード・ドレイファスは、しきりに2人に運命や死について語りかけ、「ハムレット」という物語の中で初めから定められいる2人の死の持つ意味を問いかけたり、2人に劇中劇を見せるあたりはかなり深い内容でした。

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2003年12月11日 (木)

「高慢と偏見」 ジェーン・オースティン 

高慢と偏見〈上〉 (岩波文庫)

高慢と偏見
(pride and prejudice)

ジェーン・オースティン
(Jane Austen)

岩波文庫 1994.11  

最初に買ったのは3年位前で、このたび最初から読み直して、ようやく下巻に達することができて読了できました。オースティンといえば映画「いつか晴れた日に」の原作で有名な19世紀イギリスの女流作家。かの辛口読書家の夏目漱石が大絶賛したことでも知られています。

彼女の作品はいわゆるジェントリー階級の優雅な恋愛模様を描いていて、推理小説のような緻密な計算の上に成り立っている恋愛小説がウリです。「いつか晴れた日に」を初めとして「エマ」など映画化された作品もかなり面白くて予てからファンでした。

さてこの作品は、新しいところだと、「ブリジット・ジョーンズ」のネタの原作になっていたり、BBC製作の6時間に及ぶドラマがあったりして本国イギリスではかなりポピュラーな古典となっています。BBCのドラマは高校のときにBSでやっていて、かなりはまりました。無茶苦茶よくできている傑作ドラマだと思います。

ストーリーは5人姉妹を持った、男子がいなくて財産の相続問題を抱えたベネット家の物語。近所に引っ越してきた独身の資産家の友人である、高慢な男(これが「ブリジット・ジョーンズ」の物語のモデル)とベネット家の次女との恋愛模様を中心に娘たちの恋愛を描いていました。

たしかに良くできたプロットで面白いのですが、こういう甘い物語は映像化したものは見られても、活字で読むのは結構苦手かも。ねぇ。作者の処女作ということで、これを書いたときは21歳だったそうだ。21歳くらいの娘さんの頭の中で繰り広げられていた世界と思えばなかなか楽しいかもしれない。19世紀イギリスファンとしてはこういう金持ちの社交界の話なんかは興味津々のネタも多くてその点は楽しめました。

気になった箇所。風邪をひいたからって隣の家(といっても馬車で行くのだが)で何週間もお世話になるのは当時は当たり前だったのでしょうか。ドラマを見たときも気になりました。あと、「23歳で結婚できないなんてオールドミスだ」のような台詞があったのがとても印象的でした。そうか、自分の歳で「オールドミス」になってしまう時代もあったのかぁ。

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2003年12月 9日 (火)

「Ken's Bar」 平井堅

「Ken's Bar」 平井堅

今年の1月のアルバムに続くアルバムが発売になりました。最近、色々なCMで平井堅が英語の曲をカバーしているので、カバーアルバムを出すのかなと思っていたら案の定と言ったところでしょうか。彼が行ってきた「Ken's Bar」というミニライブの5周年を記念してそこで歌われてきた洋楽を中心としたカバー曲をまとめたものだそうです。

ジャケットが紙でできていて、さらに、CDが紙と紙の間に円形の薄いビニールに包まれて入っていました。レコードをかなり意識していて、CD自体もレコードのようなテイストで黒塗り。内容もそれらしくノイズを入れてる箇所もあって随所にこだわりを感じる1枚。最初に街の雑踏からBarに入ってくる音が収録されてて、数曲演奏された後に、インタミがあってBarの中のざわめきが収録、そして最後に再び店を出て街の雑踏に帰っていくというストーリー性をもった構成。さらに、CDをかけてから歌が入るまで5分ほどあって、「焦らす」感じがバーラウンジでライブを聞いている臨場感を感じさせます。全体にピアノのみ、ギターのみ、ジャズバンドのみとアコースティックで、ジャズテイストの曲も多く大人向けのしっとりとした1枚でした。選曲も「What a wonderful world」などのジャズのスタンダード、「星に願いを」(ジャズバンドつきで軽快なアレンジ)、「The Rose」(ベッド・ミドラーのカバー。「おもひでぽろぽろ」のテーマ曲だった曲)などのスタンダードから、「Don't know why」(今年のグラミー。ノラ・ジョーンズ)といった最新の曲まで含めたバラエティに富んだ内容で楽しめる1枚でした。しっとりとしたいときにBGMとかにすると良さそう。あと、面白かったのは「見上げてごらん~」で坂本九の音源を用いて2人でデュエットしているかのようにしてそれとハモッていたところですね。

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2003年12月 2日 (火)

映画「チョコレート」 

チョコレート

monster's ball

2001年

アメリカ

ハル・ベリーがアカデミー賞主演女優賞を受賞した作品です。この授賞式のとき、リアルタイムでアメリカ旅行中だったのでとりわけよく覚えています。ハル・ベリーさんかなり綺麗ですね。見とれてしまいました。

刑務所で死刑の執行を行う男と夫が死刑になった女の物語。互いの素性も知らぬに惹かれあう2人を描きます。死刑で終わる映画は多数あったけれど、死刑から物語が始まるというところがなかなか新鮮です。黒人差別主義者の男(アメリカって未だにこういう差別が根強く残ってるんですね)と黒人である女はともに心に深い痛手を負って、孤独の中でひかれあっていきます。

ここで思い返されたのが谷川俊太郎の詩でした。

万有引力とは引き合う孤独の力である 

宇宙はひずんでいる それ故 みんなはもとめあう 

宇宙はどんどん膨らんでゆく それ故 みんなは不安である 

(谷川俊太郎『二十億光年の孤独』より)

まさにこの詩で言わんとしていることを映像化した作品ではないでしょうか。この映画の全てを語っていると思います。でも「引き合う」のも限度ありますけど。この映画、知らなかったんですけどR18指定だったんですね。冒頭のシーンにも驚きましたが、終盤の激しい場面はいきなりだったので面食らってしまいました。しかも1度ならずですし。こりゃ主演女優賞もらわないとやっていけませんね。でも、この激しい場面もこの映画では、やらしさを全く感じさせません。むしろ辛さすら感じさせるシーンで、映画の中ではかなり重要な位置づけだったと思います。

ラストのなんともいえない余韻がとても印象的でした。はぁ。でも名画であることは間違いありません。淡々としている分、リアルに迫ってくる感情と、先が読めているストーリーなのに続きが気になってしまう展開の仕方であっという間の2時間。アカデミー作品賞とってもおかしくなかったのでは?

あと、珍しく秀逸な邦題のついた映画です。現代は「MONSTER’S BALL」というものでこのままカタカナにしたらホラー映画ではないかと思わせるようなものなのですが、「チョコレート」というタイトルは映画のテーマを示し、ハル・ベリーの美しい肌の色も示していましてとても上手いタイトルのつけ方だと感心しました。

最後にどうしても突っ込みたかったこと。あの子供は絶対ハル・ベリーからは生まれないぞ!!!!!

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「オルガニスト」 山之口洋

オルガニスト (新潮文庫)

オルガニスト

山之口洋

新潮文庫 2001.8  

解説が瀬名秀明という理由だけで買ってみました。こういう本の買い方は結構珍しいです。第10回日本ファンタジーノベル大賞受賞ということです。

ストーリー。ドイツの音楽大学に勤める主人公のもとに南米で収録したという1枚のMDが持ち込まれる。そこには天才的なオルガンの演奏が収められていた。やがてこれをきっかけとして事件が起こる。これとともに、主人公の学生時代におきた事件が語られ、現在の事件とそれが絡まっていく・・・。

この小説はとにかく「バッハ」と「オルガン」が重大なテーマとなっています。どうやらこの作者は相当のバッハ通で、オルガンというモチーフを見事に小説に持ち込んでいます。この作品は「バッハ」である必然性があります。印象派などもって来ようものならストーリーは台無しです。「オルガン」の意味も最後にきてニヤリとさせられました。そして東大工学部出身の作者ならではのかなり理系な展開も。

「ファンタジー大賞」を受賞した理由が分かるのは物語が4分の3を過ぎたくらいから。それまでは、「音楽をテーマにした学生もの」という印象が強く、突然「ミステリー」に急変して、気づいたら「SF」で、「ホラー」の余韻も感じたみたいな不思議なお話でした。感想とかストーリーとか全てネタバレになってしまうような作品で、作者の発想力はお見事でした。

「アマデウス」を思い出させるような作品でした。音楽好き、とくにバッハ好きなら読んでみると面白いかもしれません。外国で映画化してもらいたいですね。

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