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2004年1月

2004年1月29日 (木)

「掌の中の小鳥」 加納朋子

掌の中の小鳥 (創元推理文庫)

掌の中の小鳥

加納朋子

創元推理文庫 2001.2.  

近頃すっかり加納ファンになってしまいました。今回もいつもながらの連作短編の形をとりつつ全体が長編としても読める構造。もはやこのスタイルで書かせたら右に出るものはいないのでは?

ストーリーはミステリーなので多くは語れないのだが、ふとしたことで真っ赤なワンピースをきた天使のような女性とであった主人公が、彼女と付き合い始めて、行きつけのバーで日常の中で起こった不思議な事件の謎解きをするというような感じ。ミステリーとは言え、警察が動くような事件ではなく、本当に日常に根付いたできごとなので、ほのぼのとした爽やかな空気が流れてます。

この作者は処女作「ななつのこ」を越える作品を書くのは相当難しいと思うのですが、キャラクター作りなどがかなり上手くなってきていて、ますます好印象。

作品は、謎について語る部分と謎解きの部分との境で区切りがついているので、読者も一緒に謎解きに参加ができるようになってます。実際、本当に小さな一文が謎解きの核心になっていたりして、作者の伏線の張り方に脱帽なのですが、この作品を読むに当たっては、謎解きに参加するのではなく、ただ素直に作者が答えを提示するのを見て、その場面を読み返してみて、「あ~やられた」と思っちゃったほうが断然楽しめます。作者もそれを意図しているのだと思いますし。この作家、そろそろ直木賞候補になっても良い頃ではないでしょうか。

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2004年1月28日 (水)

映画「めぐりあう時間たち」

めぐりあう時間たち DTSスペシャルエディション (初回限定2枚組)

the hours

2002年

アメリカ

一昨年の製作発表のときからずーっと見たかった映画をついに見ました。この映画のためにダロウェイ夫人&ヴァージニア・ウルフ伝記もしっかりと予習済み。

いやぁ~、予習した甲斐ありましたね。この映画、「ダロウェイ」とヴァージニアの伝記を知ると知らないとで理解度が全く変わるんでしょうね。かなり楽しめました。ピュリッツァー賞受賞の原作も読んでみたいです。

イギリスの女流作家ヴァージニア・ウルフの「ダロウェイ夫人」をモチーフにして、「ダロウェイ夫人」を執筆中のウルフ(1923年)、「ダロウェイ夫人」を愛読する主婦(1951年)、「ダロウェイ夫人」と同じクラリッサという名の女性(2001年)の3人の女性のある1日を描いた作品。

もともとの「ダロウェイ夫人」が6月のとある1日を舞台に、初老の夫人がホームパーティーの準備のために買い物にでかけて昔の恋人のことなどの様々なことを思い出して、その1日を通して彼女の人生の全てを描き出すというようなスタイルの作品で、この映画もそれに倣って3人の女性の1日を描きつつ、色々な感情を交錯させて奥深いドラマを作っていました。

初めはバラバラに並列して描かれる3つの物語がパズルのピースのようにつながっていく展開がお見事!全く違うストーリーにも関わらず「ダロウェイ夫人」もパズルのごとくバラバラのピースに分解されて完全映画化された形でした。

ひとことで言えば、満たされているはずなのに、これまでの人生にふと疑問を感じてしまい、逃げ出してしまいたくなるという状況になったときにあなたはどうしますか?というお話。

ウルフ自身が「ダロウェイ夫人」のラストを書き換えたという実話があって、この映画でもこの選択が重要なテーマとなってました。3つのストーリーでは、ジュリアン・ムーアの演じた1952年のストーリーが一番印象的で考えさせるものでした。メリル・ストリープの2001年のストーリーは「ダロウェイ夫人」そのものになってますね。同性愛、精神錯乱などのウルフを語るを上でははずすこのできないテーマもしっかりと登場してました。

3つの時間の場面転換のさせかたがとても上手く、冒頭の花のシーンなんかは背筋がゾクゾクしました。この映画かなり好きです。と思っていたら、監督さんがあの傑作「リトル・ダンサー」と同じではないですか。ヤバイです。好きな監督は?と聞かれたときの答えにスティーブン・ダルドリーを加えるようにします。

最後にこの映画最大のつっこみ。チョコ地に青いクリームのケーキが究極に不味そう・・・。

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2004年1月26日 (月)

「The Red Notebook - true stories - 」 Paul Auster

The Red Notebook: True Stories (New Directions Paperbook)

teh red notebook  - true stories

Paul Auster

今月末に邦訳の出るオースターのエッセイ集(?)の原書です。この本、存在は知ってましたが小説なのか、エッセイなのか、評論なのか全く分からないし、本屋にも置いてなくて内容を覗き見ることもできずにいて買うのを控えていたのですが、今月末の邦訳出版に際しての紹介文を読んで購入を決意。

この本はオースターの小説の最も重要なテーマといえる「偶然」に関して、彼がこれまで見聞きした「偶然」を感じるエピソードを綴った4つのエッセイ(書かれた時期に結構幅がある)を1冊にまとめたもの。例えば、台湾のホテルにて、たまたま出会った人と話をしていたら、お互い妹同士が同じマンションの同じフロアに住んでたとかそういうエピソードが沢山詰まっています。

大体1エピソードが2~7ページくらいで100ページくらいの本なので、全部で30くらいのエピソードが載ってます。彼の作品のモチーフとなっているエピソードの寄せ集めなのでオースター作品の理解には欠かせない1冊かもしれません。

似たような趣旨の1冊の「孤独の発明」はオースターの作品のエッセンスが全て詰め込まれていて抽象的なイメージも多かったのですが、この本は単純明快なノンフィクションばかりが集まっているので非常に楽しめました。

これほどまでに偶然の一致が身の回りに起こること自体が運命的だと思ってしまいますが、オースターが「偶然」をモチーフにした作品を書いているのはもはや運命なのかもしれません。それとも、我々が気に留めないだけで偶然の一致は常に身の回りに存在しているのかも。

多数の偶然の一致エピソードの中でも印象的なのは、著者が作家となるきっかけを作ったとも言える野球場のエピソードです。憧れのスター選手に会えたのに周囲にいる誰もが筆記用具を持っていなかったのでサインをもらい損ねたということ経験して、それ以降彼は常に鉛筆を携帯するようになったとのこと。ものを書くという職業に就く直接のきかっけとなるエピソードとして紹介しています。こんな話が読めるだけでオースターファンは唸りますよ。洋書だったのにあっという間に読んでしまいました。

そもそも僕は「偶然」が好きでした。小学校のときに「偶然の一致」ばかりを集めたマニアックな新書(最後のほうはユングについて解説してあった)があってそれをかなり愛読していました。可愛くない子供だ。偶然って時として本当に恐ろしいほどに存在しますよね。非科学的な力って絶対に何らかの形で存在しているんだと強く感じます。

ちなみにこの本は英語が分かりやすいので、この中の1エピソードを高校の教科書とかに載せても良いかもしれません。

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2004年1月25日 (日)

映画「点子ちゃんとアントン」

点子ちゃんとアントン スペシャル・コレクターズ・エディション

punktchen und anton

1999年

ドイツ

先日恵比寿で見てきた「飛ぶ教室」と同じケストナー原作の映画。ケストナー作品の舞台を現代に置き換えての映画化シリーズの第1弾となった作品。第2弾の「エーミールと探偵たち」は未公開。残念です。

さて、実はこの原作は読んでいません。岩波少年文庫の裏側のケストナー全集の広告を見て「点子ちゃん」というネーミングが幼心にやたらとインパクトがあったのを覚えています。そしてその奇抜なネーミングから読むのを敬遠していました。「点子」っていうのは少女のニックネームでドイツ語でも本当に「点子」になるようですね。「ちびまるこちゃん」みたいなもんでしょう。すると、「ちびまるこ」が英訳されたとして「little rounded girl」となっていたような感じなのでしょう。こりゃ幼心ならずともインパクト大ですね。

こんな話はさておき、この映画とてもよくできていました。

オープニングのトランポリンから、音楽も良いし、ちょっと凝ったタイトルの出し方で、とてもワクワクさせてくれます。ちなみに、このちょっと軽快な感じのBGMはその後もずっと心地よかったです。

子供にしては妙にイケメン少年のアントンは小さなアパートに病気の母と2人で暮らし、夜はバイトして貧しいながらも母親からの愛情をたっぷり受けて暮らしている。一方の点子ちゃんは、外科医の父、慈善活動にいそしむセレブな母とともに豪邸に住み、欲しい物はすべて与えられ、使用人に大切にされながらも親からの愛には飢えている女の子。なぜだか分からないが点子ちゃんは公立の学校に通っていてアントンくんと大親友。お金があれば母親を空気の綺麗な海辺の保養地で休ませたいというアントンくんの願いを助けようと点子ちゃんが大奮闘といった物語。

出てくるキャラクター、エピソードにぬかりがなくて、音楽も良い感じで、主役2人がやたらと可愛くてこの映画が苦手だなんていう人はもう一回子供時代から出直して来い!と言いたくなるような作品でしたね~。2人で買い物するシーンなんかとても微笑ましいんです。

アントンくんが出来心から犯してしまった過ちは「お母さんのため」などという理由では片付けられず、「悪いことは悪い」ともっと咎めなければいけなかったのかもしれないし、点子ちゃんだって「夜の一人歩きは危険」だともっと咎められるべきなのかもしれません。しかし、この映画は「大人から子供への愛」と「大人にこそ思い出してほしい子供時代」に満ち溢れていまして、そんなちょっと気になる展開も許せてしまいます。

あと、点子ちゃんのアイスの歌は映画史に残る名場面ですよ!!

でもって何よりもアントン君のお母さんが最高!病身ながらもフラフープ、影絵と子供を悲しませないように一生懸命な姿が印象的でした。そして下手をすれば退屈になりそうなこうした場面が圧倒的に美しい映画でした。

全体的に「飛ぶ教室」よりも完成度はずっと高いと思います。見終わった後はとにかく「胸がいっぱい」なのです。

それにしても点子さん、あなたは恵まれすぎてます。ここまで恵まれててなぜ公立校?そしてアントンの家(1DK)に行って、「居間はどこ?」と素で地雷を踏む天然さがツボにはまりました。

ちなみに、この場面で「アントーン」と階下で叫んでカメラがググッとひく場面もお気に入りです。

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2004年1月17日 (土)

映画「飛ぶ教室」 

飛ぶ教室

das fliegende klassenzimmer

2003年

ドイツ

「飛ぶ教室」って知ってますか?「エーミールと探偵たち」や「2人のロッテ」で知られるドイツの作家の書いた児童文学です。僕も幼少の頃岩波少年文庫でお世話になりました。

実は言うと、ケストナーは「エーミールと探偵」は結構好きだったものの、この「飛ぶ教室」はイマイチでした。これって対象の読者が小学校くらいからなのにも関わらず舞台が高校で、共感しにくい要素を含んでいたのだろうと思います。

原作のストーリーは寄宿学校に通う子供たちが、クリスマスのための劇の練習をしていて、そこに隣の実業学校の生徒との抗争や先生との関係、子供たちの寮生活などを織り込んだ物語。

で、今回の映画化は1930年代だった原作の舞台を現代にうつしていて、全体に大胆なストーリー変更を施していました。そもそも原作では子供たちが自分たちで「飛ぶ教室」という劇を創作するのに、この映画では偶然発見した25年前の劇の台本ということになっています。さらにはそれをミュージカルアレンジし、全編ラップで上演するという始末。こうもり傘が風船になってるし、実業学校は自宅生になって、自宅生VS寮生になってるし、女の子出てくるし。そもそも主人公たちが12歳とかだし。原作に無いエピソードも満載で、割と話し事態は別物といっても良いかもしれませんがそれでもしっかりと「飛ぶ教室」という不思議なできあがりでした。

原作では美少年テオドールとして出てくる寮長がニキビを気にする3枚目リーダー少年として登場していたのが面白かったですね。あと、原作には無い設定で学校が合唱で有名な学校ということで合唱シーンがあったのも面白かったです。

ラップアレンジの「飛ぶ教室」ミュージカルシーンは個人的には結構好きでした。CG合成が強引でしたが、もっと長く見てたかったかな。

もっと内容的な感想。

設定を現代に持ってきたことでどうしても東西時代のドイツが問題として出てきましたね。ドイツの作品はこういう問題を含むので設定を現代に変えるだけで作品の奥行きっが一気に増すようなところがありますね。寮生って結局お金持ちの坊ちゃん集団という部分があるみたいで、通学生たちと着ている服も生活様式も、体力も、知識も違っていて、通学生たちがある種のコンプレックスを感じているというような姿が印象的でした。

最後のほうの展開がもはや「いまを生きる」そのものだと思っていたら、パンフに「いまを生きる」を意識したというようなことが書かれていました。机の上にも立ってたしね。

全体的に「あ~、子供時代っていいなぁ」って感じさせてくれる都会のスタンド・バイ・ミー的要素がつまっていて結構好きな映画でした。個人的にはエンドロールの音楽ところでミュージカルをフルで見せてもらいたかったです。

笑い話。

この映画には「正義先生」と「禁煙さん」というキャラが登場するのだが、映画を見る前に友人と原作のことを話していて、「あのキャラなんて言ったっけ?『げんこつ先生』と『パイプさん』だっけ?」と素で言ってしまいました。どちらも微妙にかすめてるけど全然違いますよね。映画見てるときにもこの発言を思い出して1人思い出し笑いでした。

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2004年1月16日 (金)

「宿命の交わる城」イタロ・カルヴィーノ

宿命の交わる城 (河出文庫)

宿命の交わる城
(il castello dei destini incrociati)

イタロ・カルヴィーノ
(Italo Calvino )

河出文庫 2008.1.
(original 1973)  

イタリアの作家カルヴィーノの作品が文庫で登場。カルヴィーノ作品もこれで5作くらい読んだことになります。結構ファンです。実験的なものが多く読みにくい作品もあるのですが、今回はかなり読みやすかったです。

これはとにかくユニークな発想で作られたお話で、タロットカードのカードの図柄を読み取って物語りが展開していくという設定になっています。

占いみたいにして読み取るのではなくて、純粋にカードの絵柄を見るという風になっていて、女性の絵のカードはときに助けてくれた村娘になったり、誘惑する女になったりします。で、本も上半分にはカードの図柄が描かれていて読者がカードを見ながら読み進められるような工夫も。

作品はある夜にお城に泊まった旅人たちが机の上に並らんだタロットカードをもとにそれまでの自分たちの人生を語るというオムニバスになっていて、全く同じ配置のカードを上から読むのと、下から読むのとで全く異なった物語が浮き彫りになるというかなり面白いアイデアで書かれています。

2部構成で、2部目は「宿命の交わる酒場」というタイトルで、酒場の中で口が聞けなくなってしまった客たちが目の前にあるカードを頼りにお互いの物語を示すという設定になってます。で、この本の一番最後は、タロットカードを読み取ることで「リア王」「マクベス」「ハムレット」の3作品が同時進行するというスペシャルな力作が収められてます。

1組のタロットから無限の物語を生み出すカルヴィーノの想像力に脱帽なのですが、それにもまして感じるのは1枚のカードが無限の解釈を用いるという記号論的な問題を含んでいるということです。イタリアといえば大作家であり記号論学者でもあるエーコの存在がありますが、イタリア人は記号というものに対する意識が強いのかもしれませんね。まぁ、2人の作家見ただけで結論付けるのもなんなのですが。

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2004年1月11日 (日)

「ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹」 ジェフリー・ユージェニデス 

「ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹」 

ジェフリー・ユージェニデス 

ハヤカワepi文庫

映画「ヴァージン・スーサイズ」の原作。

アメリカのとある家庭で起きた姉妹の連続自殺事件を近所に住む少年の視点から描く。知人が映画版を見て、良く分からなかったと言っていたのですが、はっきり言って原作もよく分かりません。コレといった事件が起こるわけでもなく、淡々としていてあまり面白くありませんでした。

テーマになってるのはどうやら、ベトナムの失敗、オイルショック、ウォーターゲートなどによる70年代の不安定な状態のアメリカを背景に、郊外に住む思春期の姉妹の不安定な精神状態をオーバーラップさせているようなことっぽいです。

今度映画見てみてもう一度ゆっくり考えてみようと思います。

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