「さつき断景」 重松清
「さつき断景」 重松清 祥伝社文庫
重松清の最新文庫作品。電車1本の差でサリン事件を免れた会社員、神戸の震災のボランティアに参加した高校生、娘が嫁ぐ定年間近の父親の3人の生活が1995年から2000年までの5月1日という日をどのように過ごしたかを描く異色な設定の作品。1つの章である年の5月1日という1日の朝から晩までを描いて、それが95年から00年まであって全部で6章からなる作品。震災ボランティアに参加したという高校生が自分の1つ上の学年の設定だったので、一番注目して読んでいったのは彼のストーリー。1番面白かったのは会社員のストーリーでした。おそらく重松氏と同年代を描いているので最もリアリティをもって描くことができたのでしょう。
この作品はちょっと読みづらい箇所があります。95年から00年までの各時代をやたらと強調するのです。当時の新聞の見出し、テレビ欄、ニュースなどをこれでもかというほど見せてきます。恐らくそれぞれの時代を強調したいのでしょうが、最初は「あ~、こんなのもあったあった」と言う感じで読めてもそれがずっと続くと小説の本編の魅力を薄めてしまっているような印象を受けました。ちょっと実験的な面白い作品なのでこういうのも冒険的な手法だったのかもしれませんが。
この作品に登場する人物たちはとにかく人間としての弱さのようなものに満ち溢れていまして、自分の人生に戸惑いながらも前に進まなくてはいけないという心境をとても上手く描いていました。さらに、小学生から10代~60代までの各年代の登場人物が登場するので、95年から00年という時代を生きてきたもの全てになんらかの共感を与えられる作品なのかもしれません。震災、サリンから始まり、様々な殺人事件や日比谷線の脱線事故まで、20世紀末の暗いニュースを一堂に集めたのはルポライターとしても活躍する重松氏ならではでしょう。
最後にこの作品の重大なミスを。ボランティアに参加した少年は95年に高1で98年に受験してるので僕の1つ上の学年です。ですが「80年生まれ」だと言っています。早生まれということでしょうか。しかし、彼は夏に誕生日が来るとも言っているのです。自分と同じ年代だったので目ざとく見つけてしまったのですが、これって結構大きいミスですよね・・・。
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