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2004年2月20日 (金)

「熊の敷石」 堀江敏幸

「熊の敷石」 堀江敏幸 講談社文庫

ちょっと前に芥川賞を受賞した作品が文庫化しました。堀江作品は白水Uブックスの「郊外へ」という作品を昨年読んで以来2冊目。「郊外へ」はエッセイとして雑誌に連載されたものの実はフィクションだったという作者のリアルな筆力を示す作品だったのですが、この「熊の敷石」も全く同じタイプの作品でした。エッセイのように淡々と話を進めて、そこにフランス文学者ならではの仏文学作品のこぼれ話を交えるという手法。「郊外へ」は1つの作品が30ページほどの連作だったのですが、この作品はそのスペシャル版ともいえる120ページほどのボリューム。エッセイ調のリアルで印象的ないくつかのエピソードと、フランス文学からの割と重めのテーマを絡めていてなかなか楽しめる作品でした。ストーリーは主人公のフランス文学者が旧友と会うことになって、ノルマンディの田舎町を訪れ、ユダヤ人の友人や、盲目の子供を持つ女性とのエピソードを描いたもの。

何気ない態度や口にしたことが相手にとっては深い意味を与えるものになりかねないと言うようなことが1つのテーマとして存在していて、さりげないけど考えさせるような内容を含んでいます。タイトルのもとにもなった「熊の敷石」という言葉の生まれたもとになっている寓話の用い方もとても上手でした。この作者はやっぱりこのタイプのエッセイ風だけど実はフィクションていうスタイルが得意なようで他に収録されている普通の小説風作品はあまり面白くなかったです。

この「熊の敷石」という本、先日の「偶然の祝福」に次いで解説が川上弘美でした。そしてなんたる偶然か今日借りてきた「センセイの鞄」は川上弘美の作品。2つの解説を見ると彼女は作家は作風や文体の変化を繰り返すものというような考えを持っているようで、「センセイの鞄」もちょっとみた感じだと芥川賞受賞作の「蛇を踏む」と同作者とは思えない作風の変化を感じます。シュールな世界から遠ざかってきてますね。

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