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2004年3月19日 (金)

「ダブリン市民」 ジェームス・ジョイス

「ダブリン市民」 ジェームス・ジョイス 新潮文庫 岩波文庫

この本は、もともと新潮文庫版を持っていたのですが、翻訳が気になってしまって、途中で読むのを放棄して積読状態でした。で、先月、岩波から新訳が出たということで早速買って再びチャレンジしました。同じようなパターンで「ねじの回転」のときは新訳が読みやすくて作品を楽しめましたし。ところが、今回の岩波版も翻訳が気になってしまいまして、再び挫折の予感。そこでとった手段がこれです。2冊の訳本を数行ずつ交互に照会しながら読んでいく。この作業は結果的に1冊読むのに2倍の時間がかかるのですが、それぞれの訳の一長一短を互いに補い合ってくれまして、無事最後まで読むことができました。最終的には新潮版のほうが良い訳だったような気がします。

このような変則的な読み方をしていて、結構同じ本でも訳によって印象が違うのだということを実感。普通に固有名詞も「干し葡萄入りのパン」と「スグリの菓子パン」とか、「オートミール」と「お粥」とか結構違う印象だったりします。訳の新旧と言葉の感じの新旧は関係ないようで、新訳のほうが今っぽい言葉のときもあれば、古風なときもありました。さらには、2つの訳でまるで正反対の内容を述べているときがあり、もはや原書で読まないと最終的なところが分からないような箇所まで発見。色々と発見の多い読み方でした。

さて肝心のストーリーですが、これはダブリンを舞台にして、そこに住む人々の姿を捉えた15の短編(ダブリンにクラス15人の生活スケッチ)からなる連作短編集です。それぞれの短編がダブリンという都市そのものの持つ様々な側面を照らし出しているということになるようです。で、15の短編は先に進むにつれて主人公の年齢が上がるようになっていまして(恐らく)、全体を通して、ダブリンに暮らす人々の一生を描くような感じにもなっているのかもしれません。それぞれが結構ストーリー把握が難しいのですが、今回は、じっくりと時間をかけて読んだおかげで割とストーリーもつかむことができました。前回の挫折はそういったところにも原因があったのかもしれません。短編の中では、少年が学校をサボる「邂逅」、少年の初恋を描く「アラビー」、人間関係の縮図を描く「対応」、娘を必死に売り込む母親を描く「母親」そしてラストを飾る「死せる人々」が印象的でした。特に最後の作品は他の3倍くらいの100ページ近いボリューム上がって、内容も濃くかなり完成度の高い1作。アイルランドってイギリスという存在や宗教的な観点などを含んでスコットランド以上に圧迫した空気を持っているのかもしれませんね。イギリス映画などによくみられる灰色の空気をさらに暗くしたような雰囲気の漂う短編集でした。基本的に曇り空が一番似合いますね。

今回、翻訳についてちょっと考えましたが、内容がかなり面白ければ気になりませんけど、僕は割りと翻訳を気にしてしまうほうです。もとの英文が容易に想像できるような訳とかは結構苦手だったりします。ストーリーを追うだけならば、「あらすじで読む世界の名作」やら「お厚いのがお好き」(昨日ラストでしたね。番組そのものを根本から否定するような作品を選らんでましたねー。)でもいいので、原書の持つ行間の空気をいかに伝えられるかが問題だと思います。まぁ究極的には原書を読めばいいんですけどね。翻訳にはやっぱり限界がありますよねぇ。そういいながら、読むものの大半が翻訳文学だったりする自己矛盾。

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