「パレード」 吉田修一
パレード 吉田修一 幻冬舎文庫 2004.4. |
2年前に「パークライフ」で芥川賞を受賞した作家の長編。千歳烏山のマンションでルームシェアをしている5人の若者描いた作品。市谷のH大に通う先輩の彼女を好きなった21歳男、芸能人の彼からときどきかかってくる電話を待ち続ける23歳女、オカマバーを中心に深酒中のイラストレーター兼雑貨屋店長の24歳女、「夜のお仕事」に従事する身元不明の18歳男、四ツ谷の映画配給会社に勤めるみんなの相談役28歳男の5人のそれぞれの視点で描かれた5つの章で構成されていて、各章が時系列でつながっているので、前後の章で伏線があったり後日談があったりする構成。
さて、先日読んだ「きょうのできごと」(柴崎友香)は健全な若者たちののほほんとした日常を切り取ったような感じもする作品でそれはそれで居心地のよいものだったんですけど、この作品は、もと登場人物たちが人間的でそれぞれが「自分が主役の宇宙」で生きているといった感じを上手く描いています。
5人の共同生活が上手くいっているというのは、かなり難しいことですが、彼らは、互いにこの生活を、チャットしてるような匿名の感じにたとえたり、「この部屋にいる自分」を演じているのだと感じたりしていて、それぞれが、自分たちの関係を希薄に捉えている(表面上はかなり親しげにしている)というのがポイントであり、この作品の主題のひとつ。さらに、5人が見た自分たちの暮らしやお互いの印象というののギャップなどもとても上手く描かれていてまさにみんなは自分が主人公の宇宙を生きているという感じを受けました。
解説で川上弘美(これは買ってから気づいて、ちょっと嬉しかった)が書いているように、読後感はひたすら「こわい」。どのように終わるのかというのがとても気になるストーリーで、最終章である第5章にかなりの山場が持ってこられていて、その余韻も覚めやらぬまま作品が終わってしまうので、読後感はひたすら「こわい」です(まぁこの山場も途中で予見できたんですけどね)。
で、第5章を読み終わると、5人のそれぞれの視点を全て通してみたことになるので、もう一度最初から読みたくなります。で、すぐに2度目も読みました。2度目はそれぞれの心の本音を知っているので、第1章からかなりの読み応えがあって、この作品は解説で書かれている通りに読む度に違う「こわさ」を味わうことができます。3度目読んだときの「こわさ」は恐らく、自分も主人公たちと一緒なのではと思ってしまう怖さなのでしょう。
そんなこんなでかなり面白い1冊でした。あと、面白かった点として、都内の行った事ある場所の描写が多かったところですね。知ってる場所が出てくると、その場面を想像しやすくなって、作品の奥行きが一気に広がりますよね。
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