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2004年4月 3日 (土)

「中二階」 ニコルソン・ベイカー

「中二階」 白水Uブックス ニコルソン・ベイカー

割と新しいアメリカの実験小説。とある会社員が昼休みに切れてしまった靴紐を買いに出かけ、エスカレーターに乗って中二階にあるオフィスに戻るまでに彼の脳裏によぎった全ての思考を200ページほどかけて描く作品。筒井康隆的な面白実験小説の手法で、土屋賢二の頭が良い人の書いたどうしようもなく下らない思考を書いたような雰囲気の1冊。読んでる最中は抱腹絶倒の面白さでした。電車の中で声だして笑ってしまったし(怪しい人だね。)。この本の最大の特徴は200ページ弱のうち、その半分ほどが「注」で成り立っているという点。とにかく注が多い本です。「ストロー」が出てくれば、注で自分がストローに関して思うことを述べたり、自販機(紙コップの)が出てくれば、そのコーヒーのところに書かれている「カップ&ソーサー」の図に関して思うところを、注で2ページ以上に渡って述べたりする始末。この作品では「注」は本編以上に意味を持っているともいえるほどの内容の充実ぶりです。

この小説、主人公の思考がとにかく細かい&具体的&うなづける&笑えるものなのですよ。例えば、彼は靴紐を結ぼうとして引っ張った瞬間に切れてしまったときの感覚を、予測に反する事態が起きたことの例としていくつかの事柄を引き合いに出すのだが、その中の第1番目として「階段の1番上まで上ったのに、まだもう1段あると思い込んで激しく足をうちつけてしまったとき」というものを出してきます。これを読んだ瞬間、「わかる~!!!」と思って頷いてしまい、ニヤニヤしてしまいました。他にも、お互い顔だけは知ってるんだけど、話したことが無い人とすれ違うときの微妙な感覚や、トイレで隣に人が来ると用を足しにくくなるときの感覚なんかをかなり細かく表現して説明します。

さらに、「感覚」だけでなく、「ストロー」が出てくれば、昔の紙のストローの思い出からはじまって、プラスチックのストローに対する不満がかなりのページ数で描かれるし、トイレの洗面所が、ペーパータオルから温風乾かし機に変わったことによって、「30秒近く物乞いみたいに手をこすらなくてはならなくなった」ことに文句をつけ、温風器の会社の経営戦略のことなどを10ページ以上かけて述べたりして、ホチキス、牛乳パック、ポップコーンなど色々な商品に関する、はっきりといえばどうでもいいような思考の数々が繰り広げられます。

この主人公の様々な思考のほとんどが「あぁ、共感できるよ~」というものだったので、ページをめくるのが楽しくて仕方の無い1冊でした。普通に笑える小説なので是非読んでみてください。こういう、とことん、追求して、論理的(?)な説明をつけようとするあたりがアメリカの小説っていう感じがしますよね。これほど、ベクトルが内に向かっている作品も珍しいのではないでしょうか。作品の全てが主人公の思考だけで成り立ってますからねぇ。実質に現実に起こった事実だけを書けば2,3ページで終わるような本ですし。あと、この本は何気にアメリカ文化史的な要素もかなり多いので、そういう点でも楽しめるかも。

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