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2004年6月 8日 (火)

「オーデュボーンの祈り」 伊坂幸太郎

「オーデュボーンの祈り」 伊坂幸太郎 新潮文庫

なんとなく手にとってみて買いました。なかなか面白くて他の作品も読みたくなるような作家です。ストーリーはSEの仕事を辞めて、ふとコンビニ強盗をしてしまった主人公が警察から逃亡する途中に何者かによって見知らぬ島に連れ去られるという内容。その島は江戸が開国したのと同時に外界との接触を絶っていて(主人公を島に連れて行った男のみが外界と接触している)、150年間で島の外から人が来たのは2人だけという状態(主人公ともう1人は2週間前に来た怪しげな男)。で、島には未来を予見して言葉を話せるカカシがいて、島中の人が彼に頼っていたり、太りすぎて動けなくなった妻と彼女の身辺を世話する夫、地面に耳をつけて自分の心臓の音を聞く少女、嘘しか言わない画家、悪人を勝手に射殺しまくる詩集を読みふける美青年など個性豊か、シュールな人々が多数暮らしている。そんな島である日、殺カカシ事件が起こり、物語はその謎解きと、主人公を追う悪意の塊である警官の物語とが平衡して描かれる。

徹底して独創的な世界観が描かれていて、ファンタジーな要素も近いんですけど、形式はミステリーです。作中でミステリーにおける名探偵はそれ自身が事件を引き起こす存在みたいなことが描かれているのですが、島において全てを見通していたカカシ(名探偵的な役割)が殺されることで、こうしたミステリーの定石を自ら崩している点が面白いです。また、小さなエピソードが思いもかけずに1つの点に収縮していくストーリー運びもかなり良い感じでした。一部不快な描写もありましたけど、「悪」を強調したかったのでしょう。

色々と文学的な分析もできそうな作品なんですけど、欠点は文体がちょっと読みづらい感じ(自分には)なところです。星新一みたいにやたらと簡潔な文体(しかもすわりが悪い印象)で長編なので慣れるまでちょっと大変でした。でもストーリーが良く出来ているので、最後まで楽しめましたけど。最後のオチはちょっと・・・なところもありましたが、他の作品も読んでみたいと思う作家であることは間違いないです。70年代生まれで初の直木賞候補になった作家さんですよね。それも納得。

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