「死んでいる」 ジム・クレイス
「死んでいる」 ジム・クレイス 白水Uブックス
今月の新刊です。そして久々に素晴らしい本と巡りあえたと感じさせる1冊でした。帯に川上弘美の紹介文が載ってるのも嬉しいところ。作者はイギリスの人でブッカー賞候補になるなどしてる人で、この作品は全米批評家協会賞を受賞しています。不思議なタイトルですけど、原題が「Being Dead」なのでそのまま直訳と言えるでしょう。
ストーリーは、動物学者の中年夫婦が浜辺で殺されるというもの。この事件を軸にして、事件当日の2人の様子、2人が出会った数十年前のできごと、2人の死体が腐敗していく様子、2人の娘(両親とは疎遠)が行方不明になった両親を探す様子という4つの物語が交錯して描かれます。作者は無神論者ということで、死によって天国に行くとか、安らぎを得るとかそういう概念を一切持たず、淡々と「死」というできごとを描きます。宗教を持たない場合に人は何に救いを求めるのかというのがテーマのようです。死体が腐敗していく様子の描写が妙にリアルなのもその現われだと思います。そして、物語は「死」と同じくらいに「生」(=「性」?)を描きます。宗教によらずして「死」の概念を捉えるとそこに行き着いてしまうということでしょうか。とにかく語り方とか構成とかが素晴らしくて、一見すると暗いテーマなんですけど、読後感はそんなに重くありません。むしろ、読み終わった後に、何かが心の中に残って、世界の見方がちょっと変わるような1冊かもしれません。
とにかく、かなりの傑作かと思われる1冊。思わず唸ってしまいましたね。世界文学は本当に奥が深いものです。
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