「荊の城」 サラ・ウォーターズ
「荊の城」 創元推理文庫 サラ・ウォーターズ
新聞書評やテレビのブックレビューでかなり評判が良かったので気になってた作品。上下巻でそれぞれ1000円弱というなかなか高価な文庫本ですけど、確かに面白かったので、良しとしましょう。イギリスの作家さんが作者で、19世紀のイギリスが舞台という、誰かさんのツボをよく押さえた設定。ロンドンの貧民街に住む少女が、知り合いの詐欺師に誘われて、田舎の城に住むとある少女の財産を奪おうという計画にのるというお話。主人公は少女の侍従として、彼女の側について、あとから城にやってくる詐欺師と少女との結婚を斡旋し、少女の莫大な持参金を手に入れようという作戦なのだが、物語は二転、三転して、次々とどんでん返しを繰り返すので、グイグイと読み進んでしまいます。途中で主人公が城の少女に移り、同じ物語が、異なる視点から語られることで、謎が解き明かされていって、最後に再び主人公の視点に戻ってくるという構成もよくできていました。
この作品、ディケンズをかなり意識してるし、どちらかというと、歴史冒険小説みたいな感じだし、ミステリ的な要素は薄いのに「推理文庫」にはいっていて、ミステリみたいな紹介のされ方をされているのが、かなり気になります。とりあえず「ミステリ」と書けば売れると思っているのでしょうかね。ディケンズを意識しているのは作中にも言及されているんですけど、実際の文章の感じは極めて読みやすいし、ストーリーもディケンズよりもずっと単純明快で、とても現代的だとは思いますが、19世紀イギリスの風俗がとてもよく描かれているので、ディケンズと同時代のお話としてはあまり違和感が無いできだと思いました。「秘密の結婚」とか登場して、学部時代に「イギリスの離婚の歴史」みたいな学科の授業でかなり専門的な本を読んだときに出てきた知識のおかげで、より一層楽しめたのも嬉しかったですね。途中のやたらと同性愛的な展開がちょっと気になりはしたんですけどね。「私の真珠」ってあんた・・・。
作品全体は2人の女性の視点で物語を描くことで、両者の心理合戦みたいなのがとてもよく描かれているし、同じ出来事でも視点が変わると意味合いが変わってくるというのをとても上手く利用した構成になっているのが非常に面白かったです。さらには、この手法をつかうことで、同じ登場人物でも、相手によって接し方も違うし、印象も変わるので、各キャラクターの人物像がとても深く練りこまれている印象を受けました。かなりボリュームのある本ですけど、映画にしたらよさそうな感じのストーリーがグイグイと読者を引っ張るのであっという間に読み終わりますよー。まぁ、深い意味とかとりたてて無いし、気軽に読めるのもいい感じ。
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