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2004年11月

2004年11月25日 (木)

「レター教室」 三島由紀夫

「レター教室」 三島由紀夫 ちくま文庫

一見するとハウツー本のようなタイトルの本書、実際、自分も長い間そうなのだと信じていたのですが、それは大きな間違い。まぁ、ある種そういう要素もあるのかもしれないけど、この本は5人の人物の間でやり取りされた手紙をテーマごとに載せていくという手法をとっていて、それぞれの章は「借金の申し込み」とか「出産の通知」、「招待を断る手紙」といったタイトルがつけられています。で、それぞれのタイトルに見合った手紙が紹介されていって、最初から最後まで通すとこの5人の人物を主人公にしたひとつの群像劇が浮かび上がってくるという構成。

「出産の通知」とかはかなり普通のタイトルですけど、「愛を裏切った男への脅迫状」とか「陰謀を打ち明ける手紙」とかいうタイトルからも分かるように、この5人の間の人間関係が割りと混沌としています。で、あくまで手紙だけで成り立っている小説(?)なので、手紙と手紙の間で起きた出来事は読み手の想像で埋めていくわけでして、そういう過程がまた面白い1冊です。しかし、この本の何が面白いって、究極に下らないネタが非常に多い点です。今日も電車内で声を出して笑いそうになってちょっとつらい状態でした。「カラーテレビ」と「ショートケーキ」のネタとか、「比較対照」(←一番笑った)とか、エレベーターを何度も往復とか、小ネタが面白すぎ。英語の手紙の書き方も面白かったなぁ。ていうか何度読んでも笑える1冊だと思いました。そして、三島氏は非常に頭の良いなんだなぁというのを強く実感しました。こういう文章や内容って相当頭よくないとここまで面白くできませんよね。

この本が出たのは40年くらい前だと思うんですけど、当時は恐らく「手紙」文化が消えつつあったのだと思います。実際、登場人物の若者の書く手紙のけなされようは酷いものですし、そういう背景で出版されたこの本は、かなり皮肉的だと思うんですけど、現在、メールの登場で「書く」という行為が非常に日常的になっていると思うわけです。恐らく作者はこういう世の中を想像さえしなかったのではないでしょうか。現在メールとかでやりとりされているような内容って、結構この小説に近いと思うのですよ。妙な現実味が感じられるんですね。時代の変化で読まれ方が変わるような1冊なのかもしれませんね。あと、5人のうち、3人が20代前半、2人が中年ということで、今は自分の年齢とほとんど同じ登場人物にシンクロして読んでるけど、歳をとったら読み方が変わるのかもなぁとも。これ、このまま解説にも書いてありましたけどね。

この本を読んで思い出した1冊。「幕の内弁当」(うみのさかな、宝船蓬莱 著 角川文庫)。この本、さくらももこが別名義で出した1冊で彼女の本の中で最もくだらなくて笑える1冊だと思うんですけど(←超オススメ)、その中に手紙の書き方の本の例文を徹底的に茶化すという章があって、それを強く思い起こしました。

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2004年11月23日 (火)

映画「幸せになるためのイタリア語講座」 

「幸せになるためのイタリア語講座」 2002年 デンマーク

予告とかがかなり良さそうだったので映画館で公開しているときから見たいなぁと思っていた作品。妻を亡くしたばかりの新米牧師、アル中の母を介護する美容師の女性、気弱なホテルマン、短気な性格でレストランをクビになった男、変わり者の父親と2人で暮らす転職ばかりしているパン屋の女性、信仰心のあついイタリア人ウェイトレスといった登場人物たちの人生模様を描いた作品。各登場人物たちの2,3分ほどのエピソードの連続の中に、彼らが集う週に1度のイタリア語講座の様子が挿入されるという構成。

この作品、終始手持ちカメラで撮影されたような映像な上に、BGMが全くないというものです。「ドグマ」というデンマークの監督さんたちの始めた、人工的なセット、照明、音楽を全て排除して、空間、時間を飛ばすことも禁じるという作品作りをするシリーズの1つらしいです。つまり、かなりリアリティが感じられる作品なんですけど、まず手持ちカメラの微妙な揺れに慣れるまでが大変だというのと、BGMもない淡白な画面と全く起伏のないストーリーがちょっと眠いという作品で100分ほどの作品なのにかなり長く感じられました。あ、でも同じコンセプトのデンマーク映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」はこういう難点はあまり感じられなかったですけど。

物語、決してつまらなくはないんです。各キャラの心の動きとか、ここまで限られた表現手法の中でとてもよく表現しているし、どうなるんだろうと引き込まれる展開ではあるし。でも各エピソードが細切れすぎるんですよね。2,3分くらいでコロコロと主要登場人物が変化。群像劇の映画は多いですけど、ここまで視点がコロコロと変わるのは珍しいかも。冒頭、各キャラの登場があまりにも唐突で、人間関係とか把握するのにすごく時間がかかったし。あと、登場人物死にすぎです。主人公たちの身の回りの人たちがとにかく消えていくのにはビックリしました。まぁ、それで物語が面白くなってきたのも事実ですけど・・・。そして、登場人物たちがとにかく暗い。「幸せになるための~」というタイトルですけど、本当に不幸せを体中で表現しているような人々でした。予告では「コペンハーゲンからベニスへ」と後半はベニスに舞台が移るように言っていたので、かなり期待してたのに、ベニスの場面は10分くらいでした。ベニスにて「ラブ・アクチュアリー」っぽい可愛い場面もあったけど、ちょっと騙された気分。つまらなくはないけど、それなりの覚悟を持って見るべき映画だと思う。

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2004年11月22日 (月)

「不思議な少年 (3)」

「不思議な少年 (3)」 山下和美 講談社

もう出ることはないのではとちょっと心配になっていたこのシリーズ、2年半ぶりに新刊が出ました。1話1話を大切に読みたいと思わせるシリーズなので、完全に読むことに集中できる環境を作ってから読んでしまいました。やっぱこの人はすごいよ。浦沢氏の漫画もすごいと思うけど、山下さんの作品はそれとはまた違ったベクトルですごいと思う。映画的なコマ割を駆使して純粋に物語でハラハラ・ワクワクさせるのが浦沢氏なら、徹底して人間の心を描くのが山下さんです。

で、「不思議な少年」の最新刊です。今回は2話目が好きでした。1話目は以前あったソクラテスの話しにちょっとテイストが似てましたね。3話目は、タイトルが良いなぁと思いましたね。肝心の2話目はラストがかなり印象的。このシリーズ、やっぱり名作です!1話完結だし、多くの人に読んでもらいたいです。文学系の読書をする人ならかなり好きだと思います。ちなみに今回は帯に某ばななさんの推薦文までついてます。

ところで、最近の「柳沢教授 昭和20年編」の内容がかなり「不思議な少年」系だなぁと思っていました。どちらも主人公が主人公としての役目をあまり果たさず、はっきり言って不在に等しいし、彼らの役目はどちらも「人間の研究」ですからね。でも、「柳沢~」は短編はもちろんのこと、長編であっても良質のテレビドラマみたいな感覚がありますけど、「不思議~」は100ページ弱のお話を読み終わったときに3時間くらいあるような大作映画を見終わったような気分になるのですよ。最後まで完全に物語世界にどっぷりと入りこんで、読み終わったときにふっと現実に戻るような感じ。「柳沢~」のほうは現実の自分を見失うことなく、読み進むような感じです。どんな違いがあるのかはっきりしない抽象的な感想ですいません。

ちなみに、「柳沢~」が「不思議~」化してきて、この作者はどういう方向に向かうのかと思っていたら、今月もう1つの山下さんの新作が出ました。ていうか一月に3冊ってすごい。「寿町美女御殿」という作品。やっぱり、息抜きしたいんですね。こちらはドタバタ系のコメディでした。「不思議~」と「寿町~」の2冊は出版社が違うんですけど、それぞれに他社で発売される新刊の案内が帯についています。出版社の垣根を越えさせる人ってなかなかいませんよね。ちょっとびっくりしました。

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2004年11月 2日 (火)

映画「エーミールと探偵たち」 

「エーミールと探偵たち」 2001年 ドイツ

ケストナーの同タイトルの小説が原作の映画。「点子ちゃんとアントン」(傑作です!!!)、「飛ぶ教室」と同じ制作チームが作った現代版ケストナーシリーズの1つです。「点子~」「飛ぶ~」が割りとポピュラーなのに対して、映画版「エーミール」はかなりマイナーですよね。ずっと見たかったのをついに見ることができました。

ストーリーは原作70%、オリジナル30%といったところでしょうか。両親が離婚して父と2人で暮らしているエーミール。ある日父が事故にあってしまい、入院してしまう。父が退院するまでベルリンに住む牧師の女性のもとに預けられることになったエーミールは田舎の町から電車にのってベルリンへ。しかし、その車内で彼は持っていたお金を盗まれてしまい、その犯人を追うことに。ベルリンの街で知り合った子供達とともに、犯人の大追跡が始まるというお話。親が離婚して父親と一緒とか、ベルリンの牧師の家に行くとか、子供探偵団のリーダーが少女(原作ではいとこという設定の少女で探偵団とは関係ない)とか、犯人が山高帽を被ってないとか色々と原作と異なる点も多いんですけど、原作のメインのストーリーを生かしつつ現代アレンジしているのは「飛ぶ~」や「点子~」と同じ。

この映画、クライマックスでは800人の子供達が犯人を取り囲むというなかなか迫力のある映像が待っています。子供達だけで探偵になって犯人を追うとか、現実ではあり得ないファンタジーだと非難する人もいるかもしれません。この点はインタビューで監督さんも認めています。しかし、監督さんは、このような大冒険は子供の夢であり、それを映像化するのは意味のあることと続けます。ケストナー自身も、こうした物語を通して一番伝えたいことは子供のときのこの気持ちをいつまでも忘れないでいて欲しいといようなことを訴えたいと何かの序文で書いてたように記憶しています。とにかく子供視点を大切にしてるので、環境の変わった現代では現代ならではの子供アレンジをしなくてはならないのも当然。いまや若いヨーロッパっ子といえばラップ好きなので、当然ラップを歌いながら自己紹介なわけです。これに関しては「飛ぶ教室」とか「セザール」とかでもう慣れてしまったよ。家では家族の不仲とか問題があって、友達みんなで秘密基地に集まって探偵ごっこして、でもやっぱり家族が大切で、っていうそんな思いを優しく映画化してました。

でもやっぱり、探偵ごっことかは常識を逸脱している感が否めないんですよね。原作は今読んでも楽しいんだけど、こうして映像化すると割りと派手な子供達の探偵っぷりが気になってしまいました。あと最大の不満は、原作で一番好きな、物語が始まる前の10枚のイラストとその解説がなかったこと。あれをそのまま映画でも使って欲しかったかも。でもこの映画、結構好きです。「点子ちゃんとアントン」には負けますけど。「点子~」、「飛ぶ~」を見た人、是非これも見てください。ところで原作どおりに続編も作られるんですかね。

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