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2005年3月10日 (木)

映画「エレファント」

「エレファント」 2003年アメリカ

撮影がこれほど美しいと感じた映画は数えるほどかもしれないです。テーマ、内容とはうらはらにとにかく「美しい」映画。見る価値があるかと聞かれれば、絶対に見るべきだとは思うけど、あまりのインパクトに2度目は見られない気がします。

アメリカのごく普通の高校の、とある日のごく普通の学生達の生活を描いた映画。というのが前半部分。クライマックスに向けて、描かれるのは、そのごくがありふれた空間に、2名の生徒が銃を片手に現われ、乱射する情景。

何かと話題の多い某監督さんの出世作(?)、「ボーリング・フォー~」と同じく、アメリカで実際に起こった高校生の銃乱射事件を扱った作品。「ボーリング~」(途中までしか見てないけど)ではドキュメンタリーとして、高校生が銃を手にすることができてしまうアメリカ社会を、扇動的に槍玉に挙げていました。一方、この映画では、完全な神の立場をとって、ただひたすらに事件の日の高校のいつもと変わらなかったありふれた日常をとらえる作品。

何人かの生徒に焦点をあてて、時間を前後させながら、じっくりと彼らの生活をカメラはとらえます。生徒の背後からカメラを回して、グラウンドから教室まで彼が歩いていく様子だけを特に台詞もなしに5分くらい映すような映像がほとんどの作品。映像がとにかく美しく、印象的な作品で、たまにある会話なんかも全部カットしてBGMだけでも映画として見せられるんじゃないかと思っていたら、監督インタビューで、会話は特に重要ではなく、台詞は全てアドリブにしてもらったと語っていた。こんな感じで、色々な生徒たちを映しながらも、これらしいストーリーを感じさせずに展開していく映画なんですけど、それぞれの生徒たちにしっかりと感情移入させた上に、焦点をあてた生徒達の行動は、時間を前後させながらも事件の起こる直前までしっかりと描かれます。ラスト、銃を持つ生徒の視点になったとき、我々は、そのときに、どの生徒がどこで何をしていたか、どれだけありふれた日常を過ごしていたのかということを理解しているため、その後の描写がとてつもなく怖く、不条理であることを理解できるという構成。淡々としつつも、素晴らしい完成度だと思います。

この作品は最後まで事件を起こした生徒の動機を語ることもなければ、何かのメッセージを投げかけることもありません。ただ事件が起きて、そしてごくありふれた日常が惨劇に変わった様子を描いてます。何度も書いてますが、この映画独特の美しい映像演出のため、ラストのほうの惨劇の映像(この場面ですら映像は美しい)は強烈な印象をうけました。ていうか直視できませんでした。そして、最後も、劇的な音楽も映像もなく、冒頭からずーっと続く、独特の淡々とした、ある種「冷徹」なカメラワークのまま映画は終了。余韻を感じる暇さえ与えず、ただ絶句という映画でした。そこで描かれる日常のあまりの普通さと映像の美しさ、そして、その後に起こる極めて不条理な事件。僕は太陽が明るかったから人を殺したと言うカミュの「異邦人」を強く連想しました。

何がどうしてこうのような事件が起こってしまうのか、誰も止められなかったのか、そもそもその学校がおかしかったのではと騒ぐことは可能だけれど、事件をおこした側も極普通の少年だし、その地域も、学校も、どこにでもある、アメリカでも日本でも変わらないような場所なんだということ強く実感させてくれる映画です。事件の背景には特殊な環境があるとついつい思い込みがちだけれど、我々のすぐ近くで、いつ何が起こってもおかしくないのです。そして。カメラの写す映像の淡々とした「冷徹さ」は、「アメリカで銃乱射の事件があったんだってー」「へぇー、怖いねー」と語り、そしてまた、「あの事件に興味あるんだー。それを題材にした映画なんだって?ちょっと気になるー」と完全に他人事として語ることのできる我々一般大衆の視点そのものなのではないでしょうか?「ボーリング~」の視点よりもこの映画のほうが僕は数倍、感じるものもあったし、事件の不条理さを感じたし、恐怖を感じたし、強い印象を受けました。

かなりヨーロッパ映画のテイストが強いと思ったら、カンヌで大賞と監督賞を受賞してました。ダブル受賞は史上初だったみたいです。この監督さん「グッド・ウィル・ハンティング」の人なんですね。ちょっとビックリ。

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