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2005年6月13日 (月)

「プールサイド小景・静物」 庄野潤三

「プールサイド小景・静物」 新潮文庫 庄野潤三

遠藤周作、安岡章太郎などと並んで第三の新人と呼ばれる作家の作品。最近は「ウサギのミミリー」とか「庭のつるばら」などの老夫婦の日常を描いた作品群を発表していて、それが気になったので、とりあえず昔の短編からはいってみました。

表題作2編を含む7作が収録されてる短編集で、「プールサイド~」は50年以上前に芥川賞を受賞しています(この作家さんが未だに現役なのがスゴイと思う)。「プールサイド~」は学校のプールで子供が練習するのを見つめる一見するととても幸せそうな夫婦が、実は夫が会社の金を使い込んで失業してしまいかなり家庭が危機に陥っていたという状況を描いた作品。最近の作家でいうと、かなり重松チックなテーマですけど、重松氏のルポ的な淡々とした描写に比べれば、こちらはもっと文学的な描写で描かれています。割と時代を反映した男尊女卑が残る夫婦像ですけど、作品自体は全く色あせていません。でも今だったらこういうのは芥川賞は取れないんだろうなぁという感じ。当時としてはかなり画期的なテーマだったんだろうけどね。

さてさて、実はこの短編集、芥川賞作品よりも後半に収められている2編、「蟹」と「静物」が屈指の名作でした。「蟹」は、海辺のとある旅館に宿泊している3つの家族をその子供達にスポットを当てて描いたもの。「静物」は恐らく「蟹」と同じ家族の平凡な日常のスケッチを複数つなげた作品。どちらにもj共通するのは、「何も事件が起きない」ということ。本当にどこにでもある些細な日常を描くだけの作品。

系統としては、保坂和志「この人の閾」や柴崎友香「きょうのできごと」などと同じ作品。「何も起こらない小説」ってのは最近の流行なのかと思っていましたけど、半世紀以上前にすでに究極的な完成形が存在していたのですね。この「静物」という作品は、単に日常を描いているようでありながら、サラリとかつて妻が自殺未遂をしていることなどがほのめかされて、どこにでもあるような日常風景の裏側に潜む危うさが、単なる日常スケッチに妙な緊張感を含ませるのが本当に上手いです。しかも、それが全然わざとらしくないのがこの作品の良いところ。「つまらない」と思う人もいるかもしれないけれど、自分としてはこの「蟹」と「静物」の2作品は日本の短編としては相当上位に食い込む勢いで好きです。

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