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2005年6月

2005年6月30日 (木)

「楽園のつくりかた」 笹生陽子

「楽園のつくりかた」 笹生陽子 角川文庫

今月の新刊から。新進気鋭の児童文学作家さんの話題作。ちょっと前に講談社文庫で出た「僕らのサイテーの夏」、「きのう、火星に行った」に次いで彼女の作品を読むのは3作目。今回が一番良かったと感じました。

都内の私立中学に通う主人公の少年は、所謂大人の事情によって、海外で単身赴任してる父親の故郷で1人暮らしをしている年老いた祖父と暮らすために母親と一緒に田舎町へと引っ越して行きます。東大に合格してエリートコースを狙っていた主人公は、突如、クラスメートが3人しかいない小さな分校に通うことになり大慌て。しかもその3人は、田舎っぺ丸出しの少年、いつもマスクをして全く口をきかない少女、アイドル並に可愛い少女なのに実はオカマというメンバー。果てして彼は、このサイテーな環境を克服することができるのか!?という物語。途中、あっと驚く大どんでん返しがあって、それによって、主人公とその周囲の人々への印象がかなり大きく変わることになります。その辺のストーリーのメリハリのつけかたはとても上手だと思いました。個人的にはラスト近くに出てくるとあるオッサンがとても余計に感じられて、その為に、最後の方はちょっと納得のいかない終わり方でした。でも、1,2時間で読めてしまうお手軽な作品だし、読みやすいし、中学生くらいの人を対象にした作品としては申し分のない面白さ!

この作者さんの描く主人公の少年はちょっと斜に構えたところのある少年っていうのがパターンみたいですね。以前に読んだ2作品はどちらも小学生が主人公で、小学生にしてはちょっとひねくれすぎているような感じを受けて、そこまでのめりこめませんでした。この作品では、主人公が中学生になったというのもあるんですけど、前2作品よりも自然な印象が強くて、好感度アップ。あと、男の子の描き方が抜群に上手くなっているように思いました。以前感じた少年なのに女性っぽい印象を受けるようなこともありませんでしたし。

こういういわゆるヤングアダルトと呼ばれる分野、角田光代さんとか、いしいしんじさんとか、森絵都さんとかあさのあつこさんとか気になる作家さんが数多く登場してて、なかなか見逃せない状況になってます。ずーっと読みたかった森絵都さんも、ついに今月、同じく角川で文庫化したので、さっそく読んでみたいと思います。

余談ですが、この作品、ハードカバーは講談社なのに何故角川文庫なんですかね。講談社文庫からも同じ作者の作品は出てるのに・・・。何か複雑な事情があるんでしょうね。そんなことが気になってしまう僕は、純粋に児童文学を味わう資格を持っていないのかもしれません。でも、小学生くらいのときからそういうのは気になってたか・・・。

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2005年6月29日 (水)

映画「サンダーバード」

「サンダーバード」 2004年 アメリカ

コメントしづらい作品でした。完全な子供映画で、大人の鑑賞にも堪えうるかと聞かれれば、返答が難しい内容。NHKで再放送してた元の人形劇はチラホラと見たことはあるんですけど、その良さを活かしきれてないと思いました。オープニングのアニメはかなり良いできで、相当期待したんですけどね・・・。

まず問題なのは、サンダーバードが活躍しないというストーリーです。「サンダーバード」というタイトルなのに、実際は、サンダーバードの隊員達(兄弟たち&父)がとらわれてしまって、それを主役である末っ子の少年が救出するというストーリー。サンダーバードの隊員に入れてもらえないことでヤキモキしていた少年が、この戦いを通して成長していく姿を描いています。その点だけとれば、子供っぽいけれど、そこまで悪い映画ではないのですけど、「サンダーバード」というからには、国際救助隊として活躍する彼らをもう少し丁寧に描いても良かったように思います。90分未満の長さで、割とテンポが速かったので、もう少し彼らにスポットをあてて長い映画にしても良かったかもしれません。

サンダーバード隊員たちはみな男なんですけど、何気に女性陣の活躍が一番目立っていました。じつは「サンダーバード」そのものはそんなに信頼できる組織ではないのでは!?とさえ思わせてしまいます。彼らの仲間の英国の超リッチでピンクが大好きな女性が個人的にはかなりお気に入りのキャラでした。彼女が主人公でもおもしろかったかもね。あと「十二夜」の道化役でおなじみのベン・キングスレーが突っ込みどころの多いB級な雰囲気漂う悪役を熱演してたのが印象的。

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2005年6月28日 (火)

「望楼館追想」 エドワード・ケアリー

「望楼館追想」 エドワード・ケアリー 文春文庫

イギリスの作家さんの500ページほどの長編小説。とにかくこれでもかというほどに読書好きな人々のツボをとらえようとして必死な作品です。

とにかくありとあらゆる設定が、シュールで、荒唐無稽で、文学好きの人が好みそうなものなんですね。主人公の職業は、蝋人形館で、人形に交じって、一日中蝋人形として立っていること。彼はいつも白い手袋をしていて(手袋10か条なるものを自分で作ってる)、インスタントの証明写真機から他人の証明写真を集めるのが好きで(「アメリ」!?)、人々の大切にしている品物を拾ったり盗んだりして、自宅の地下に自分だけの小さな博物館を作っている。そんな彼と、彼が暮らす「望楼館」というマンションの住人たちとの交流を描いた作品です。住人たちもかなり癖のある人々で、記憶を失い犬として暮らす女性、公園の入り口に体重計を置いて、人々の体重を記録し続ける男性、汗と涙を流し続ける教師など。この屋敷に新しい住人がやってきたところから物語が始まって、やがて各住人達が自分達の過去を語り始め、彼らの暮らす館が、かつて「偽涙館」と呼ばれた頃の物語が現われ、恋愛あり、スリルありのめくるめく展開が待っています。ポイントはこの作品の舞台はあくまでも現代の我々のいる世界だというところですかね。

この本の原題は「Observatory Mansions」で、直訳すると、「天文台屋敷」といったところですが、これを「望楼館追想」と訳していることから分かるように、翻訳者さんは相当、訳の言葉の選び方に凝っています。原書を読んでいないので何もいえないのですが、読書好きのツボを妙に押さえた様々な言葉の数々は、もしかしたら、翻訳の方が頑張った成果なのかもしれません。

ストーリーを書いた作者は相当酔いしれてこの物語を書いたに違いない雰囲気が伝わってくる作品。2,3ページごとにタイトルがついていて、連続した小さな物語の集合で大きな物語になっているんですけど、その小さな区切りの一つ一つがとても文学的なテーマを選んでいて、それだけで、30ページくらいの短編が書けそうなピースの集合になってます。表現の仕方も色々と実験的な手法を数多く使っていたりして、とても意欲的な作品ではあるんですけど、全てが、中途半端というか、浅いというか、確かに面白いし、個性的なのだけれど、読書好きの人々が好むであろうことがらを寄せ集めたような作品とも言えるわけです。最後まで読み終わって、確かに良い余韻は残るものの、「で、何?」っていう感覚が残るのも確か。評価が難しい作品です。

ここまでシュールな作品世界を作れるのはどんな作家さんなのだろうと思ってプロフィールを見てみたら、なんとマダム・タッソーで警備員をしていたらしいです。タッソーはロンドンにある有名な蝋人形館。作品にも蝋人形館が出てきますけど、ずーっとああいう所にいたら確かに不思議な世界が見えてきそうですね。

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2005年6月23日 (木)

映画「スウィングガールズ」

「スウィングガールズ」 2004年 日本

説明するまでもない昨年の日本映画のヒット作。ウォーターボーイズと同じスタッフさんが製作した女の子版。今度は東北の女子高生がジャズのビッグバンドに挑戦です。主なストーリー展開はWBとほとんど同じでしたね。そんな短期間で上達するはずない!という恒例のツッコミをどれだけ我慢できるかどうかで楽しめるかどうかが変わってきそうです。まぁ実際に役者さんたちはかなりの短期間でそれをこなしているのだから、セミドキュメントみたいなものだけれど、楽器とかの音楽系って、最後に合奏する場面よりも、初めて音が出たこととか、練習とかのほうがよっぽどドラマがあると思うんですよね。このシリーズはそういう部分はかなりあっさりと描いてしまうのでちょっと物足りない気がします。

このSGという作品、僕はWBよりも相当劣ると思ってる点が1つだけあります。WBの面白さは「普通は女性がやると思われているシンクロを男性がする」という点にあり、これは映画「フルモンティ」などとも共通していて、「性別による役割分担」という社会に根強く残る問題をコメディというオブラートに包んで強烈に風刺する面白さがありました。これはまた「フルモンティ」同様に同性愛的な描写を挿入する点からも伺えるものです。しかし、「女の子がジャズをする」というのは、「普通は渋いから高校生は行わない」ものをするというだけであり、取り上げられている題材そのものにはそれ以上の面白さは何もありません。やたら強い女性たちを描くことで、ウーマンリブを強調したいのかもしれないけれど、それには単に「かっこいい」だけのジャズでは物足りない気がします。練習シーンもシンクロほど面白おかしく描けないので、全く関係のないイノシシのシーンなどを挿入して、コメディを強調する必要があったように感じました。決してつまらなくはないけれど、WBの二番煎じを狙って、しかもそれよりも内容の薄いものを作ってしまったような印象がありました。ちなみに、これだけ言いながらも、川をはさんで「A列車」を合奏する場面はかなり好きでした♪

余談ですが、ビッグバンドは高校の頃にグレン・ミラー・オーケストラのコンサートに行ったことがあるんですけど、ノリノリで結構楽しめますよね。CDとかで聴くよりもナマの方が何倍も良かった記憶があります。

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2005年6月22日 (水)

映画「キャットウーマン」 

「キャットウーマン」 2004年 アメリカ

昨年度最もダメダメだった映画におくられるラジー賞を受賞した作品です。バットマンの中で脇役として登場するキャット・ウーマンを主人公にしたアクション映画。主演のハル・ベリーが好きなのでかなり気になっていた作品です。ストーリーは革命的な化粧品を発表しようとしている化粧品会社で広告のデザインを担当している主人公がふとしたことから、会社の陰謀を知ってしまい、殺されてしまうも、猫によって助けられ、キャット・ウーマンとして蘇るというもの。陰謀がらみのネタと主人公と刑事さんとの恋愛模様が交差して描かれます。

やっぱりハル・ベリーはきれいだなぁというのが見終わった感想。この人、本当に綺麗だと思います。「チョコレート」以来すっかりファンです。ハリウッド女優さんの中では一番綺麗と感じるかも。あと敵役として出てくるシャロン・ストーンも年齢を重ねているのに、綺麗でしたねー。3枚目キャラの主人公のお友達もステキでした。全体的に女性がメインの映画でした。もうこの映画はラジー賞なだけあってつっこみどころ満載なのですが、最大の突っ込みポイントはただのオバサンであるシャロン・ストーンが無茶苦茶強いという点。その強さの秘密とかがもうものすごい設定なのさ。笑っちゃいますよ。このためだけに見るのもありってくらいにシャロン・ストーンがすごいのさ。たまげますよ。

でも、それよりも何よりもこの映画が微妙なのは、ただひたすらに演出が非常に下手だという点かと。脚本もつっこみどころはあるものの、アメコミヒーローものとして割り切れば良いし、出演者も頑張ってるし、それなのに、演出が・・・。まず画面をグルグル動かしすぎて見づらい。そして、妙なCG使いが疲れる。カメラワークもあまり良くないし、戦いのシーンもいまいち迫力に欠けるし。ショットのアングルが微妙なところも多かったし、テンポ悪いし。もっともっと上手に素材を生かせば、普通に良い作品になったろうになぁと思ってしまいました。

ちなみにキャット・ウーマンといえば、ティム・バートン製作のバットマンの2作目に登場したミシェル・ファイファーは良かったですよね~。キャット・ウーマンになるまでの描き方もこの作品よりもずっとずっと魅せてくれたし。バートンのバットマンが好きなだけにこの作品への期待が大きかったんですよね・・・。でもハル・ベリーを見られて幸せだったから満足♪

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DVD「トゥーランドット」@紫禁城 

「トゥーランドット」@紫禁城 メータ指揮 フィレンツェ5月音楽祭オケ&合唱 チャン・イーモウ演出

1998年に紫禁城で行われたオペラ「トゥーランドット」の舞台のDVDが本日廉価版が発売しました。この演奏会は、史上初めて作品の舞台である紫禁城を会場として行われ、さらには、演出を映画監督チャン・イーモウが手がけるという超一大プロジェクト。そういう点ではまさに歴史的な演奏だと思います。

で、内容はどうだったのかと言うと、全てを見たわけではなくてパラパラと部分部分を見ただけなのですが、やっぱ屋外でやっているので、ホールでやる音響環境が整っていないのは仕方がないですよね。あと、紫禁城という建物も、それ用の建てものではないので、どんなに頑張って舞台を作っても限界があるように思われて、やっぱり一つのお祭りの閾は脱してないかもなぁと感じました。舞台としてはやはりメトリポリタンのDVDの方がよく練られていると思います。メトロポリタン版は群集の使い方がとても上手だと思ったんですけど、この演出は群集はただの合唱団だったのが残念。でも、チャン・イーモウ演出によるピン・ポン・パンの3人はメトロポリタンのものよりも相当面白く演出されてて、その部分はかなり楽しめました。あと、やっぱり「トゥーランドット」は作品そのものがとても良いなぁと改めて感じる1枚でした。

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2005年6月20日 (月)

「ひかりのまち」 浅野いにお

「ひかりのまち」 浅野いにお 小学館

この作者さんの漫画は「素晴らしい世界」(全2巻 小学館)という相当の傑作があるので、新刊が出たということでかなり楽しみにしていました。

ストーリーは「ひかりのまち」と呼ばれる高層マンションを舞台にして、そこに暮らす人々の人間ドラマを描く4つの中篇・短編から成る連作集。うーん、自分は前作の方が100倍くらい好きですね。今回は全体にかなり重めの内容でした。あと登場人物があまりにもアウトローな人ばかりなのもちょっと・・・。なんかちょっと凝りすぎてるような気もしたし。良い作品だとは思うんですけど、イマイチのりきれませんでした。

一方で「素晴らしい世界」という作品は、かなりオススメしたい名作です。こちらは市井の人々の些細な日常を描いた連作短編集で、あるエピソードで単なる通行人だった人が別の話で主役になるというような構成でちょっとずつつながった世界観になってます。全然リアルではないエピソードも多々あるのだけれど、淡々とした静かなトーンが確実に読み手に何かを語りかけてくるような作品。映画のような印象を強く受ける短編集です。あと絵が読みやすいのが良いですね。この作者さん、プロフィールによると年齢が同じなので、同じ時代を生きている者として、共感できる部分(自分が本当にそう思ってるかどうかは置いておいて)が多いのかもしれません。

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2005年6月16日 (木)

「Dynamite」 Jamiroquai

「Dynamite」 Jamiroquai

ジャミロクワイの4年ぶりの新作です。中学のときに買った洋楽コンピに収録されてたのが初めて聴いたとき。すごく好きなわけではないけれど、常に気になる存在でした。4年前の前作は、ちょうどイギリスに旅行してるときにリリースされてて、本国UKでの派手なプロモーションを見て、「やっぱ本国では相当の人気なんだなぁ」というのを実感したものです。余談な上に、何度か書いてることですけど、同じ頃にリリースされたTravisのアルバムも本国UKではかなりのヘビーローテーションで街でかかっていました。

今作はちょっと聴いてみた感じが結構良かったので、思い切ってバイト先で購入してしまいました。ロック的なアプローチが強くなって入るけれど、相変わらずジャンルがよく分からない、ポップ・ロック・ダンスという感じですね。ジャミロは声が結構良いですよね。ダンス系の曲にはこういう声が良く似合うと思います。あと、ダンス系にしてはちょいとした上品さみたいなのが漂っているとこが好きです。ちなみに今回は明らかに9・11の影響が見え隠れしています。海外のアーティスト達にあの事件が与えた影響って計り知れないですねー。

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2005年6月15日 (水)

「夏子の酒 <新装版> 1-6」 尾瀬あきら

「夏子の酒 <新装版> 1-6」 尾瀬あきら 講談社漫画文庫

全部で2500ページくらいあって相当の大作なんですけど、内容がぎっしりと詰まっていてとても面白かったです。これだけのボリュームを使ってわずか2年のできごとを描いていて、米作りの段階からの日本酒造りの過程をとても丁寧に描いた作品。15年ほどの前の作品で、この中で、当時は常識とされていた農薬の大量使用に対して、「有機農業は21世紀の農業になる」と言って、無農薬の米を作って、究極の日本酒を作るのですが、まさに今はヘルシー嗜好で、有機農業が相当見直されていますよね。しかし、作中では同時に農薬を使うとはどういうことなのか、有害とは知りつつもそれに頼らなければいけない実情の裏側を丁寧に描いていて、とても考えさせられました。日本酒造りに関しても同じで、大量消費する一般の顧客にとって、「買いたい」酒というのはどういうものなのかということが、大きな壁として立ちはだかったりして、作品全体を通して、「良いものを作る」=「皆が得をする」ではないということがしっかりと描かれていました。

そんなこんなで主人公が追い求めていた究極の日本酒を作り上げるという予定調和な展開にも関わらず、ラスト100ページは普通に感動の涙が出てしまいました。長大な作品の9割以上を使って描かれた主人公の苦悩が実を結ぶシーンですからね。この作者さん、ドラマ「瑠璃の島」と同じ原作の「光の島」というこれまた超名作漫画と同じ人です。絵はそんなに上手とはいえないのだけれど、選ぶテーマとそれを消化する力が本当に上手だと思います。ていうか、これ読むと、本当に「美味しい」日本酒が飲みたくなります。未読の方、無茶苦茶オススメですよ♪

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2005年6月13日 (月)

「プールサイド小景・静物」 庄野潤三

「プールサイド小景・静物」 新潮文庫 庄野潤三

遠藤周作、安岡章太郎などと並んで第三の新人と呼ばれる作家の作品。最近は「ウサギのミミリー」とか「庭のつるばら」などの老夫婦の日常を描いた作品群を発表していて、それが気になったので、とりあえず昔の短編からはいってみました。

表題作2編を含む7作が収録されてる短編集で、「プールサイド~」は50年以上前に芥川賞を受賞しています(この作家さんが未だに現役なのがスゴイと思う)。「プールサイド~」は学校のプールで子供が練習するのを見つめる一見するととても幸せそうな夫婦が、実は夫が会社の金を使い込んで失業してしまいかなり家庭が危機に陥っていたという状況を描いた作品。最近の作家でいうと、かなり重松チックなテーマですけど、重松氏のルポ的な淡々とした描写に比べれば、こちらはもっと文学的な描写で描かれています。割と時代を反映した男尊女卑が残る夫婦像ですけど、作品自体は全く色あせていません。でも今だったらこういうのは芥川賞は取れないんだろうなぁという感じ。当時としてはかなり画期的なテーマだったんだろうけどね。

さてさて、実はこの短編集、芥川賞作品よりも後半に収められている2編、「蟹」と「静物」が屈指の名作でした。「蟹」は、海辺のとある旅館に宿泊している3つの家族をその子供達にスポットを当てて描いたもの。「静物」は恐らく「蟹」と同じ家族の平凡な日常のスケッチを複数つなげた作品。どちらにもj共通するのは、「何も事件が起きない」ということ。本当にどこにでもある些細な日常を描くだけの作品。

系統としては、保坂和志「この人の閾」や柴崎友香「きょうのできごと」などと同じ作品。「何も起こらない小説」ってのは最近の流行なのかと思っていましたけど、半世紀以上前にすでに究極的な完成形が存在していたのですね。この「静物」という作品は、単に日常を描いているようでありながら、サラリとかつて妻が自殺未遂をしていることなどがほのめかされて、どこにでもあるような日常風景の裏側に潜む危うさが、単なる日常スケッチに妙な緊張感を含ませるのが本当に上手いです。しかも、それが全然わざとらしくないのがこの作品の良いところ。「つまらない」と思う人もいるかもしれないけれど、自分としてはこの「蟹」と「静物」の2作品は日本の短編としては相当上位に食い込む勢いで好きです。

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2005年6月 7日 (火)

「旅の終わりの音楽 上・下」 E.F.ハンセン 

「旅の終わりの音楽 上・下」 E.F.ハンセン 新潮文庫

北欧の作家さんの作品です。内容はズバリ「タイタニック」です。あの映画の中で最も感動的だった場面といっても良い弦楽のメンバーたちが沈没の直前まで演奏を続けたというエピソードがありますが、この小説は、彼らを主人公にしたお話です。700ページほどの大作で、バンドのメンバー一人一人のタイタニックに乗船するに至るまでの人生の物語を描いてます。船のシーンが描かれるのはほんのわずかで、作品の9割はメンバーそれぞれの物語にあてられています。

映画「タイタニック」以降に書かれたとしたら、オリジナリティが欠けてるような印象を受けますが、この作品は90年に発表されているので、あの有名すぎる映画のずーっと前に書かれたことになります。そうとなれば、この小説を下敷きにして映画を作った方がよっぽど良いものができたのではないかと思ってしまいます。僕は「タイタニック」という映画はかなり好きですが、どこが好きかと言われれば、恋愛沙汰が関係する以外の部分という感じ。あれだけの巨費を投じてタイタニックを描く映画が作られるのは恐らく後にも先にもあの1回だけだと思うので、どうせならあの弦楽を主人公にすれば良かったのになぁとは以前も思ったことがあって、そんな僕にはぴったりのタイタニック小説でした。映画のサントラで何度あの曲を聴いたことかというくらいに好きな場面です。なんか内容が内容なだけに「好き」っていうと不謹慎な感じもしますけどね・・・。

この作品、作者が20歳のときに着想を得て5年間かけて書き上げたそうです。実際のバンドのメンバーとは関係なしに架空のバンドメンバーを作り上げて書いたフィクションなんですけど、その他の部分に関してはかなりの取材をしているようで、とてもしっかりとした内容になってます。ただ、やはり20代前半の人が「人生の物語」を描くのはちょっと限界があるのかなぁとも感じました。本当にとても面白いし、よくできてるんですけど、やはりフィクションっぽさが強いんですよね。もっと人生経験を積んでから書いたらもっと奥深い作品になったんじゃないかなぁと思いました。まぁ、自分が20代前半なのに何を言ってるんだかという感じですけど・・・。でも自分と同じ年齢の人がこれだけの作品を書いたというのは素直に感動しました。

「タイタニック」に関しては誰もが、ラストどうなっているのかということを知っているというのが最大のポイント。バンドメンバーの様々な人生模様が語られ、彼らがどのような思いでこの船に乗船したのかが明らかになればなるほど、その最期の場面を思い浮かべて切なくなってしまいます。あ~、映画のバンドの場面だけ見たくなったよ~。そうそう、あの映画でタイタニック船内の様子がかなりよく描かれていたので、小説内に出てくる船内の様子なんかはかなり鮮明に想像することができて、その点、あの映画を見てから読むとかなり面白さが増すのではないかと思いました。

余談ですが、タイタニック小説と言われて思い浮かぶ作品に「銀河鉄道の夜」があります。この作品で僕が一番好きなところはタイタニックに乗船していた子供達が登場する場面だったりします。トリビア的ですが、映画「タイタニック」の中で弦楽の皆さんが最後に弾く曲は「銀河鉄道」の中で沈没に際して皆が合唱したという曲と同じなのです(「タイタニック」のサントラの曲名を見て発覚)。実話としてこの曲が演奏されたというのが残っているのか、偶然なのかはわからないですけど・・・。ちなみに「旅の終わりの~」の中で演奏される曲は違う曲でした。

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2005年6月 2日 (木)

「DEMON DAYS」Gorillaz

「DEMON DAYS」Gorillaz

ゴリラのイラストのキャラが歌うバーチャルバンドさんの2ndアルバム。最近i-podのCMにも使われてた(今もそうなのかな?)曲も収録されてます。実はこのバンドはUKのブラーというバンドのメンバーのデーモンさんが別名義でやっている覆面バンド。自分はブラーはあまり好きではないのだけれど、こちらは、そんなに嫌いじゃありません。ややヒップホップテイストが入ったバンドサウンド、ちょっとラテンなところもあるし、ノイズっぽい感じの音なんかもあって色々なジャンルを融合させてるのがいいですよね。でも癖があるのも確かなので聞きづらい人は全然ダメかもしれません。

ところでブラーといえば、僕が初めてジャケ買いしたアーティスト。ベスト版のちょっとモダンアートな感じのメンバーの顔のイラストがとても好きで、高校のときに少ない小遣いから散々迷った末にジャケ買いしました。でも前述の通り、あまり内容は好きじゃなかったんですけどね・・・・。ちなみにそのジャケットのイラストはロンドンの肖像画美術館に本物が展示されていて、かつて訪れた際に「あー、本物だ!!!」と内心無茶苦茶ワクワクしてました。CDジャケットなんですけど、実物はかなり大きな絵だったのが印象的。で、今回のゴリラズのジャケットはイラストのタッチこそ違えど、かなりそのブラーのベスト盤のジャケットを彷彿とさせるデザインでこれはデーモンの趣味なのか!?と思ってしまいました。

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2005年6月 1日 (水)

映画「スイミング・プール」

「スイミング・プール」 2004年 フランス

昨年公開されていたフランス映画。監督はミュージカル風密室サスペンス映画「8人の女たち」のフランソワ・オゾンです。今作もジャンル設定が難しい作品で、あえていうならば、官能ミステリー風ファンタジーといったところでしょうか。「8人の女たち」でボーイッシュな末っ子を演じてた女優さんが成長して、同一人物とは思えないくらいにセクシーなお姉さんを演じてます。恐るべしフランス女性という感じです。

イギリスの中年女性作家がフランスにある編集者の別荘で作品を書くことになるところから物語は始まる。1人で別荘ライフを満喫していた彼女だったが、そこにフランスに住んでいるという編集者の娘が現われ、同居生活をすることに。毎晩違う男性を連れ込み、自由奔放に過ごす娘に堅物英国女性である主人公は苛立ちを感じつつも、次第に彼女そのものに興味を抱くようになり、彼女を題材に作品を書き始める・・・という物語。これだけだと「サスペンス風」ってのが伝わりませんけど、一応サスペンスです。音楽もそれっぽいし、思わせぶりな場面も多いし。あと、この映画はやたら女性の裸体が多いです。それでも全然やらしさを感じず、むしろ美しいのはさすがフランス映画。

ハリウッド系の作品とは完全に一線を画すフランス映画ですが、この作品も、見終わった後に頭の中に「?」がいっぱい残る作品。決して気分爽快でも、ハラハラドキドキもしないけれど、「雰囲気」を堪能することができて、考えさせられる映画。ラストまで見ると、果たしてあれは何だったのかという様々な疑問が頭をよぎります。いかようにでも解釈できる作品で、みんなでそれぞれの解釈を語り合うなんてのも楽しいかもしれません。

<ネタバレ僕の解釈(反転させて読んでください)>
最後に出版社の入り口ですれ違う本当の娘さんは主人公に対して明らかによそよそしい態度であったので、2人は初対面だったと考えられます。すると、主人公は別荘では誰とも会わなかったことになり、この映画は全て彼女の妄想(小説世界)を描いているということになります。ここで問題なのは、管理人との情事や、カフェ店員との交流は事実だったのかどうかという点。見ようによっては全てが妄想ではなく、部分部分は実際の彼女の暮らしを描いているともとれる作り方をしてますよね。もしかしたら、全て彼女が経験したできごとで、自分がやったことを、「娘」というキャラクタに置き換えて描いたのではないかとか色々な憶測が可能だと思います。実際のところどんななんでしょうかね。そもそも別荘に行ったってこと事態が妄想っていう見方もありだしなぁ・・・。

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