「楽園のつくりかた」 笹生陽子
「楽園のつくりかた」 笹生陽子 角川文庫
今月の新刊から。新進気鋭の児童文学作家さんの話題作。ちょっと前に講談社文庫で出た「僕らのサイテーの夏」、「きのう、火星に行った」に次いで彼女の作品を読むのは3作目。今回が一番良かったと感じました。
都内の私立中学に通う主人公の少年は、所謂大人の事情によって、海外で単身赴任してる父親の故郷で1人暮らしをしている年老いた祖父と暮らすために母親と一緒に田舎町へと引っ越して行きます。東大に合格してエリートコースを狙っていた主人公は、突如、クラスメートが3人しかいない小さな分校に通うことになり大慌て。しかもその3人は、田舎っぺ丸出しの少年、いつもマスクをして全く口をきかない少女、アイドル並に可愛い少女なのに実はオカマというメンバー。果てして彼は、このサイテーな環境を克服することができるのか!?という物語。途中、あっと驚く大どんでん返しがあって、それによって、主人公とその周囲の人々への印象がかなり大きく変わることになります。その辺のストーリーのメリハリのつけかたはとても上手だと思いました。個人的にはラスト近くに出てくるとあるオッサンがとても余計に感じられて、その為に、最後の方はちょっと納得のいかない終わり方でした。でも、1,2時間で読めてしまうお手軽な作品だし、読みやすいし、中学生くらいの人を対象にした作品としては申し分のない面白さ!
この作者さんの描く主人公の少年はちょっと斜に構えたところのある少年っていうのがパターンみたいですね。以前に読んだ2作品はどちらも小学生が主人公で、小学生にしてはちょっとひねくれすぎているような感じを受けて、そこまでのめりこめませんでした。この作品では、主人公が中学生になったというのもあるんですけど、前2作品よりも自然な印象が強くて、好感度アップ。あと、男の子の描き方が抜群に上手くなっているように思いました。以前感じた少年なのに女性っぽい印象を受けるようなこともありませんでしたし。
こういういわゆるヤングアダルトと呼ばれる分野、角田光代さんとか、いしいしんじさんとか、森絵都さんとかあさのあつこさんとか気になる作家さんが数多く登場してて、なかなか見逃せない状況になってます。ずーっと読みたかった森絵都さんも、ついに今月、同じく角川で文庫化したので、さっそく読んでみたいと思います。
余談ですが、この作品、ハードカバーは講談社なのに何故角川文庫なんですかね。講談社文庫からも同じ作者の作品は出てるのに・・・。何か複雑な事情があるんでしょうね。そんなことが気になってしまう僕は、純粋に児童文学を味わう資格を持っていないのかもしれません。でも、小学生くらいのときからそういうのは気になってたか・・・。
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