「旅の終わりの音楽 上・下」 E.F.ハンセン
「旅の終わりの音楽 上・下」 E.F.ハンセン 新潮文庫
北欧の作家さんの作品です。内容はズバリ「タイタニック」です。あの映画の中で最も感動的だった場面といっても良い弦楽のメンバーたちが沈没の直前まで演奏を続けたというエピソードがありますが、この小説は、彼らを主人公にしたお話です。700ページほどの大作で、バンドのメンバー一人一人のタイタニックに乗船するに至るまでの人生の物語を描いてます。船のシーンが描かれるのはほんのわずかで、作品の9割はメンバーそれぞれの物語にあてられています。
映画「タイタニック」以降に書かれたとしたら、オリジナリティが欠けてるような印象を受けますが、この作品は90年に発表されているので、あの有名すぎる映画のずーっと前に書かれたことになります。そうとなれば、この小説を下敷きにして映画を作った方がよっぽど良いものができたのではないかと思ってしまいます。僕は「タイタニック」という映画はかなり好きですが、どこが好きかと言われれば、恋愛沙汰が関係する以外の部分という感じ。あれだけの巨費を投じてタイタニックを描く映画が作られるのは恐らく後にも先にもあの1回だけだと思うので、どうせならあの弦楽を主人公にすれば良かったのになぁとは以前も思ったことがあって、そんな僕にはぴったりのタイタニック小説でした。映画のサントラで何度あの曲を聴いたことかというくらいに好きな場面です。なんか内容が内容なだけに「好き」っていうと不謹慎な感じもしますけどね・・・。
この作品、作者が20歳のときに着想を得て5年間かけて書き上げたそうです。実際のバンドのメンバーとは関係なしに架空のバンドメンバーを作り上げて書いたフィクションなんですけど、その他の部分に関してはかなりの取材をしているようで、とてもしっかりとした内容になってます。ただ、やはり20代前半の人が「人生の物語」を描くのはちょっと限界があるのかなぁとも感じました。本当にとても面白いし、よくできてるんですけど、やはりフィクションっぽさが強いんですよね。もっと人生経験を積んでから書いたらもっと奥深い作品になったんじゃないかなぁと思いました。まぁ、自分が20代前半なのに何を言ってるんだかという感じですけど・・・。でも自分と同じ年齢の人がこれだけの作品を書いたというのは素直に感動しました。
「タイタニック」に関しては誰もが、ラストどうなっているのかということを知っているというのが最大のポイント。バンドメンバーの様々な人生模様が語られ、彼らがどのような思いでこの船に乗船したのかが明らかになればなるほど、その最期の場面を思い浮かべて切なくなってしまいます。あ~、映画のバンドの場面だけ見たくなったよ~。そうそう、あの映画でタイタニック船内の様子がかなりよく描かれていたので、小説内に出てくる船内の様子なんかはかなり鮮明に想像することができて、その点、あの映画を見てから読むとかなり面白さが増すのではないかと思いました。
余談ですが、タイタニック小説と言われて思い浮かぶ作品に「銀河鉄道の夜」があります。この作品で僕が一番好きなところはタイタニックに乗船していた子供達が登場する場面だったりします。トリビア的ですが、映画「タイタニック」の中で弦楽の皆さんが最後に弾く曲は「銀河鉄道」の中で沈没に際して皆が合唱したという曲と同じなのです(「タイタニック」のサントラの曲名を見て発覚)。実話としてこの曲が演奏されたというのが残っているのか、偶然なのかはわからないですけど・・・。ちなみに「旅の終わりの~」の中で演奏される曲は違う曲でした。
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