「クチュクチュバーン」 吉村萬壱
「クチュクチュバーン」 吉村萬壱 文春文庫
数年前に芥川賞を受賞した作家の処女作が今月文庫化しました。タイトルを見てもわかるようにそうとう癖のある作品です。
話の舞台は終末を迎えつつある近未来の地球。毒が蔓延し、周囲の環境が腐敗していく中、人類にも大きな異変が訪れます。人々が次々と様々なものに姿を変え、急激な進化を始めたり、周囲と同化したりし始めたのです。シマウマ男や、腕が10本のクモ女、巨大女、びよーんと伸びて鉄塔になる人々などなど。もはや人間の原型をとどめていない人々を処理する施設が登場したり、人間としての意識を失い単に生きているだけになってしまう人々のとる行動をグロテスクに描き、最終的に訪れる究極のラストへと物語りは突き進みます。タイトルの「クチュクチュバーン」は正確には「クチュクチュ」の部分が1ページ分くらいにわたって「クチュクチュクチュクチュクチュクチュ・・・」と続いてから、「バーン」だったりします。
もう本当に、無茶苦茶な展開だし、シュールだし、グロテスクな世界を描いているのだけれど、物語の書き方字体は不思議と理性的だったりするので、こんなに破天荒な内容にも関わらずサラリと読めてしまう作品でした。逆に言えば、これだけ破天荒なのに、あまり残るものがないような気もしました。同じように破天荒な作品としては笙野頼子を連想するのですが、笙野さんの作品は、設定が破天荒なだけではなく、もっともっと言葉で遊ぶし、それでいて、根の深いしっかりとしたテーマが全体を貫いているので、とても好きな作家さんです。吉村氏もおそらく同じベクトルの作家さんなんですけれど、破天荒な中に理性を残しているので、読後の印象は大分違いました。好き嫌いははっきりと別れるとは思いますが、自分は、こういうタイプの作品はグロさが抑えられている限りは割と気になるので、他の作品も注目していきたいです。
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