映画「16歳の合衆国」
「16歳の合衆国」 2003年 アメリカ
原題は「United States Of Leland」。16歳という漠然とした表現よりも、主人公の名前の固有名詞を用いたオリジナルタイトルのほうが味わい深いですね。
ある日、リーランドという16歳の少年が恋人の弟(知的障害を持っている)を殺害してしまう。著名な作家の息子として、裕福な家庭に育ち、礼儀正しく、躾もよく、純粋で無垢な優しい少年である主人公。彼が何故、殺人を犯してしまったのか、メディアも被害者の家族も主人公の両親もただひたすら「Why?」の問いに対する答えを求めようとする。そんな中、少年院で教師をする作家志望の男は、彼のことを本に書こうと思い、2人での対話が行われるようになる。物語は、大体はこの流れで進みつつ、時間軸が色々と動いて、事件の前の過去に何があったのか、事件が起きて人々がどうなったのかを淡々と描いていきます。
とても哀しい映画です。世界中の悲しみを感じ取り、見過ごすことのできない思春期の少年の繊細な心が引き起こした悲劇。人々はただひたすら「何故?」と問うことを繰り返しますが、当の本人すらその答えは分からないと言います。このような事件が起こると、日本でもワイドショーなどで、どうでもいいようなコメンテーターの方々が好き勝手に言いたい放題な意見を述べてますが、明確な答などないことも多いはずです。この映画ではこの問いに対して、最終的な答えを描くことをしません。そのヒントと思えるような出来事を羅列していくだけです。この映画が描くのはただひたすら「哀しみ」なのだと思いました。事件そのものの哀しみ、残された遺族の哀しみ、加害者の家族の哀しみ、決して理解されない加害者の哀しみ、そして、それをとりまくアメリカ合衆国という国全体を包む哀しみ。タダ唯一、「何故?」という問いを求めず、対等に話しかけてくるのが、同じ受刑者の少年であるというのも印象に残りました。
ラスト、それなりの衝撃があるのですが、バッド・エンドの割りには、主人公の顔がとてもすがすがしいのが印象的。彼は何かの答えを見つけたのかもしれませんね。キャストのインタビューでも触れられていたけれど、このラストに至るにあたって、全く無駄のない脚本だったと思います。全ての登場人物がそれなりの意味を持って存在しています。静かな映画だし、終始シリアスだし、多少退屈なシーンもあるのだけど、色々と考えさせられるし、個人的には面白い映画でした。あと、音楽の使い方がとても良かったです。とくに冒頭部分、ピクシーズの楽曲が使われている部分は、映像も演出も音楽も見事な一体感を持っていて鳥肌モノ。
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