「龍宮」 川上弘美
「龍宮」 川上弘美 文春文庫
今月の新刊です。久々に「うそばなし」全開の川上作品で、「神様」や「蛇を踏む」のファンとしては嬉しい1冊。8つの短編を収めた短編集なのですが、すべての作品に共通するのは異形のものとの交流。自分はかつて蛸だったという男の女遍歴の話や、400年生きている自分のご先祖様に恋をする200歳の女性の話、冷蔵庫に住み着く神様、穴に落ちてくる人間たちを育てながら、人間社会で普通に生活する巨大モグラの話などなど。割と普通っぽい話も、ホームヘルパーの中年女性が93歳の老人(狐っぽい)に恋をして、2人でかつて老人が暮らした廃屋の便所を見に行くとかそういう話ですからね。性欲、食欲、生と死を民話的な不思議ワールドをモチーフにしつつも、かなり日常的にあっさりと描く傑作短編集ではないでしょうか。まぁ、苦手な人は苦手でしょうけど。
個人的には前半よりも後半に収録されてる話がお気に入りでした。とりわけ、モグラさんの話と何百年も生きる人々の恋愛話はかなり面白く読みました。川上作品の良い所は、ありえないような「うそばなし」をすごく当たり前のことのようにあっさりと日常的に描いてしまうところ。あまりにあっけらかんとした開き直り具合が心地よいのです。あと、擬音の使い方などがとても上手。この作者さんの日本語はとても好き。あと読んでいて感じたのは、この方は、男性を主人公にした作品よりも、女性を主人公にした作品の方が圧倒的に面白いということ。男性主人公のお話は、主人公が男だとほのめかされるまで、どちらなのかが分からないことが多い気がしました。
「センセイの鞄」はまさにそうだけれど、この短編集でも、老人に恋する女性のモチーフが多かったですね。川上さんの憧れなんでしょうか。あと、サシ飲みの場面もやっぱり上手でした。
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コメント
そういえば、柴田元幸とムラカミハルキに関する本に収録されてたインタビューで
柴田氏は日本の作家は小川洋子と川上弘美が好きだと言っていたよ
彼らが好きなものや私やあなたが好きなものって
つながってんだよなあ
投稿: halcan | 2006年3月 8日 (水) 23時23分
柴田氏も川上ファンだったとは!!
小川さんは扱う題材はいつも好きなんだけど、
読んでみるとイマイチって思うときが多いんだよね。
なんでだろ。
この辺りの作品が好きな人って大体傾向が同じ気がします。
ほかには、いしいしんじとかも同系列じゃないでしょうか。
そして、川上ファンの人はクラフトエヴィング商會好きも多いと思う。
投稿: ANDRE | 2006年3月12日 (日) 00時52分