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2005年10月

2005年10月31日 (月)

「ふれるときこえ」 トルネード竜巻

「ふれるときこえ」 トルネード竜巻

先週発売の新譜です。インディーズ時代のミニアルバムからずーっと好きなバンドさんで、今作はメジャーアルバム第2作目。もう、待ってましたといわんばかりに良い内容で嬉しくなってしまいました。

このバンドの特徴は、ノイズのような音の洪水のバックに、高音の女性ボーカルがフワフワと漂うことで作り出される独特の雰囲気だと思います。1つの曲の中で細かく転調を繰り返すことも多くて、それがまた、独特の浮遊感を強調しています。ボーカルとバックが全体で1つの大きなうねり(まさにトルネード竜巻ですな)を作り出しているようなイメージ。前作はメジャー第1弾ということもあり、個人的にはちょっと力が入りすぎてる印象があったのですが、今回は良い意味で力が抜けていて、心地よい仕上がりになっていると感じました。自分の好きなインディーズの2枚目に近い感じ。あと、ポップさが増したかもしれませんね。ボーカルの歌い方もどこか力強くなって前面に出てきた印象です。シングルの「言葉のすきま」と「パークサイドは夢の中」はかなり良いです。言葉の使い方も上手だし、もともと大学のジャズ研のメンバーさん(&軽音のメンバーさんらしい)で作ってることもあって、音の遊び方、ノイズの作り方とかが上手なので、かなりお気に入り。

おまけでPCでPVが見られるようになってるんですけど、編集されてて、フルで見られないのがちょっと残念でした。もう少し高くしていいから、DVDつけてくれればよかったのにな。

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2005年10月29日 (土)

四国はどこまで入れ換え可能か」 佐藤雅彦 新潮文庫

「四国はどこまで入れ換え可能か」 佐藤雅彦 新潮文庫

本日発売の今月の新刊です。この本の単行本版、「ねっとのおやつ」を買おうかどうか何度迷ったか数え切れないのですが、文庫版が出たのを見て即買いでした。先日の「ハル」に引き続き、こちらも、単行本のタイトルの方が好き(こちらはあとがきで佐藤氏が自ら改題の理由を説明してますが)。

佐藤氏といえば、一般的に認知度が上がったのは「バザールでござーる」、「ポリンキー」のCMや「だんご3兄弟」。そして、新聞の毎週月曜のお楽しみ「日本のスイッチ」や、教育テレビの名番組「ピタゴラスイッチ」でもおなじみです。プレステの「IQ」も佐藤氏ですよね。もう、どれもこれも、僕のツボを刺激しまくるステキなものばかりなのですが、この本の元になってるのは、ネット上で毎日更新されたミニアニメ。アニメを基にして描かれた1~2ページの短い漫画が110本ほど収録されています。

とにかくその発想の素晴らしさに脱帽の1冊です。こんな本はそうそう見つかりません。クスリと笑わせるようなものから、実験的なもの、「へぇ~」と言いたくなるようなもの、カワイイものなど、もとが「ねっとのおやつ」だっただけあり、ジャンルにとらわれないで、サクッと気軽に楽しめる作品ばかりです。590円で手に入る幸せ。ホントにオススメの1冊です。

あ~、「ピタゴラスイッチ」と短編映画「kino」、DVD化してくれないかな~。

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2005年10月28日 (金)

「ハル」 瀬名秀明 文春文庫

「ハル」 瀬名秀明 文春文庫

「明日のロボット」というタイトルで単行本が出ていたものが改題して文庫化。個人的には元のタイトルのほうが好き。瀬名氏はやっぱり自分と趣味が似てるところがあるよなぁと改めて実感しました。ちなみに、「BRAIN VALLEY」も文庫化していて、そちらも購入済みなのですが、長いのでちょっと今は保留中です。

「ロボット」をテーマにした短編を集めた連作短編集です。読む前は、アシモフの「われはロボット」のようなものを想像していたのですが、かなり違うテイストでした。アシモフの連作は、ロボット3原則という原則を打ち立てておいて、それに基づいた知的サスペンスな要素を絡めたロボット開発史で、割とハードにSFしている作品。一方で、この瀬名氏の作品は、ロボットが開発され、実用化に至ったばかりの近未来を舞台にして、人間社会に新に投入された「ロボット」という存在と人間との共存のあり方を問うような内容になっています。

日本でのロボットの実用化を推し進めてきた原動力が「鉄人28号」であり、「ドラえもん」であり、そして、何よりも、「アトム」であるということを述べ、「アトム」という理想を追うロボットの開発が果たして正しかったのかどうかというのが大きなテーマになっています。そして、果たして人間はロボットに「こころ」を見出すことができるのかということや、生まれたときからロボットがそばにいた世代の人間達の持つ価値観などにメスを入れる作品でした。

全編を通して、手塚氏への敬愛の念が感じられる作品で、これは、アシモフというよりかは、手塚氏へのオマージュなんだろうなぁと感じました。我々が「ロボット」というときって、勝手にアトムとかドラえもんのように友達感覚の存在を連想してしまいますよね。なので、現在すでに実用化されつつあるような介護用ロボットとか、工場の作業用のロボットなどの、「人間の仕事を機械的に処理するだけのマシーン」としてのロボットというのは、ただの「機械」であって、それを「ロボット」と呼ぶのには割と抵抗があるように感じます。アシモフなんかの西洋もののロボットというのは、どちらかというと、プログラミングによって制御されているような「機械的」なイメージが強いですよね。映画とかでも、「愛をプログラミングされたロボット」(「AI」)などという表現が使われるあたり、ロボットが感情を持ったとしても、やはりそれは「機械」としての機能の一部ですよね。そう考えると、実はドラえもんやらアトムなんかのイメージのほうがロボットとしては特殊な存在ということになってきます。まぁ、ロボットという語が初登場する元々の戯曲は、ロボットが心を持つっていうような内容ですが・・・。でもやっぱりAIBOとかは「機械」であって、ロボットと呼ぶのには抵抗があるんですよね。自分だけでしょうか。

そんなことを改めて考えさせられる小説でした。

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2005年10月25日 (火)

映画「ティム・バートンのコープス・ブライド」 

「ティム・バートンのコープス・ブライド」 2005年 イギリス

チョコレートと同じバートン監督×デップ主演の映画ですが、この映画は製作の噂があった数年前からずーーっと首を長くして待っていた作品です。チョコレートはまだ見ていないけれど、こちらは早々に映画館へ。なんといっても「ナイトメア~」ファンが待ちに待ったバートンのストップ・モ-ションアニメの新作ですからね。ちなみに、あまり知られていませんが、バートンは「ナイトメア~」の後に、「ジャイアント・ピーチ」というストップ・モーション・アニメと実写を融合した、チョコレートと同じダール原作の作品もあったりします。これもなかなか面白いです。

成金の魚屋さんが、貴族の仲間入りを果すべく、息子を貴族の家の娘と結婚させようとし、貴族のほうも、破産状態で、成金魚屋の財産目当てで娘を嫁に出そうとしている場面から物語はスタート。主人公である花婿さんは、結婚式のリハで大失敗してしまったので、結婚式の前夜、町の片隅にある墓場で結婚式の練習をしていたのだが、ひょんな偶然で、成仏できずにいる死体の女性と結婚の誓いを交わしてしまい、生身のまま、幽霊達の世界に連れて行かれてしまう。はてさて主人公は無事、元の世界に帰れるのか、そして、2人の花嫁の運命やいかに!という物語。死体の女性が花嫁になるということで、「コープス(死体)・ブライド(花嫁)」というタイトルです。

あっという間の77分でした。とにかくラストが切なくて、そして美しい!!!声の出演は、デップ氏は割りと普通でつまらなかったのだけれど、死体の花嫁を演じるヘレナ・ボナム・カーターがとにかく良い!!そして、もう一人の花嫁のエミリー・ワトソン(「ほんとうのジャクリーヌ・デュプレ」の主演の人)もかなり良いです。イギリス映画万歳!!です。

どうしても「ナイトメア~」と比較したくなるのですが、ナイトメアがディズニーの提供で、割と子供の視聴者を意識して作られているのだとすれば、この作品は、完全な「大人向け」作品です。冒頭のミュージカルシーンからして相当地味だし、一番盛り上がる歌の場面もとにかく渋いし、いわゆる「キモ可愛い」系のキャラもあまり出てこないし。そして、何よりも、ブラックな度合いが、比にならないくらい、「黒い」です。そして、「ナイトメア」がエンターテイメントに徹して、キラキラと輝くような楽しさを持っていたのに対して、こちらは、もっとシリアスで、「美しさ」を追求しているように感じました。個人的にはもう少しウキウキするような楽しさがあっても嬉しかったかな・・・。

1秒の映像を12時間かけて撮影するアニメということで、製作に10年かけたそうで、人形たちの動きのすばらしさは文句のつけようがありません。しかし、かなり大きな不満として、そこまで苦労してるんだから、少しのCGも使って欲しくなかったなぁというのが残りました。CGが使えるならば、全部CGで作ってもいいんだしさ。せっかく、「手作りのよさ」で攻めているんだから、CGのところはセルアニメとかのほうがよかった気がします。「CGっぽいけど、実は違うっていうオチか!?」と思ったのだけれど、エンドクレジットにCGチームが記載されていたんです・・・。

まぁ、なにはともあれ、バートン大好きっ子としては大いに楽しめる作品でした。連弾っていいね♪

余談。予告編で、年末公開のスピルバーグ監督の日本を舞台にした映画「さゆり」の予告編があったのですが、舞台が日本で、みんな日本人の設定(中華系の役者さんも出演)なのに、台詞が全部英語っていうのにかなりの違和感を覚えました・・・。しかし、その次の予告編が「レジェンド・オブ・ゾロ」でスペインを舞台にしていたし、「ブラザーズ・グリム」は恐らくドイツが舞台なのにも関わらず、台詞が全部英語。「さゆり」に感じた違和感ほどは違和感を感じないあたりに、自分のアイデンティティをみいだしてみたり。こういうのって気になる映画はかなり気になりますよねー。その点、「レッド・ヴァイオリン」とか「80デイズ」とかは舞台になる国の言葉で撮影されててなかなか好感が持てますよね。

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2005年10月22日 (土)

映画「マーサの幸せレシピ」

「マーサの幸せレシピ」 2002年 ドイツ

このタイトルを聞くと、「ショコラ」みたいな感じで、マーサさんが、ステキな料理を作ってみんなを幸せをする映画なのかなぁと思ってしまうんですけど、そう期待してみるととんだ肩透かしをくらいます。

人付き合いの上手くない頑固な女料理人マーサは、シングルマザーの姉が事故死してしまい、その娘をひきとることになる。同じ頃、職場のレストランに、軽いノリのイタリア人シェフが同僚として雇われることになり・・・。というお話。うん、邦題がいけないですね。これはマーサさんがみんなを幸せにするんじゃなくて、マーサさんが癒されていくという内容の映画です。

最近、すっかりドイツ映画が好きになってしまったのですが、この映画も、期待通り(ストーリーは期待通りではなかったけど)に面白かったですね。お堅いドイツ人と妙にテンションの高いイタリア人、親を失った暗い娘というとことんステレオタイプな人物設定なのだけれど、その分、ストーリーが分かりやすくて、安心して見られる映画でした。よくよく考えてみると重い内容なんだけれど、それを感じさせないのは、白をふんだんに用いた明るい映像と、美しい音楽、おいしそうな料理の数々のおかげでしょうか。後半、少し失速した感はあったけれど、派手な場面のない大人向きな雰囲気の良い映画でした。ラストもすがすがしくて、見終わった後に爽やかな気分になれました。

この映画、ハリウッドリメイクが決定したみたいですね。なんでもかんでもリメイクすればいいってわけじゃないだろうに・・・。海外の良作は全てリメイクするのが最近の傾向ですよねー。

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「不思議な少年 4巻」 山下和美

「不思議な少年 4巻」 山下和美 講談社

一人の少年が国も時代も越えて、様々な人々の人生を見つめ、「人間とは何か?」を模索するという連作短編のこのシリーズもついに4巻。相変わらずのクオリティの高さです。

今回は3つの話が収録されていたのですが、その中でも1話目がとりわけ印象に残りました。50ページほどの短いお話なのですが、とてつもない力を持った作品だと思いました。田舎に暮らし、温かい家族に囲まれて自然を愛する一人の女子中学生と、バスジャックをして無差別殺人を犯す30代の女性を描く作品なのですが、浦沢氏が「MONSTER」全18巻を使って描いたことをほんの50ページほどの中に凝縮して描いたような作品でした。すでに3回くらい繰り返して読んでしまったのですが、本当にそのくらいのインパクトのある作品。文学作品だったら間違いなくなにかの賞を受賞するんじゃないでしょうか。ズシリときて、考えさせて、せつなくなるお話です。

この作者さん、次の作品が楽しみで仕方ないですね。「人間」を描くことにかけては超一流だと思います。

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2005年10月21日 (金)

映画「シンデレラ」 

「シンデレラ」 1950年 アメリカ

ディズニーの名作がDVD化しました。デジタルリマスターの力とはスゴイもので、半世紀以上前のものとはとうてい思えないような素晴らしい映像美にまず目を奪われます。

ディズニーのシンデレラは、皆さん御存知のあの物語であることには間違いないのですが、実際は一般にもたれている「ロマンティック・プリンセンス・ストーリー」みたいなイメージとはかなりかけ離れた作品だったりします。あの有名な物語とは別に映画の3分の1くらいを占めているサイドストーリーがあるのです。シンデレラの家で飼われている動物たちを主体にした部分なんですけど、この場面ははっきり言ってしまえば「トム&ジェリー」そのまま。古きよきアメリカのドタバタコメディの仕上がりなのです。さらに、メインのストーリーもかなりコメディタッチの演出がされている部分が多く、シンデレラをはじめとして、魔法使いや、王様などがとんでもないくらいに「天然キャラ」で、思わず突っ込みたくなるようなベタなボケを連発するのが、何気にかなり面白かったりします。

この作品でもう1つ傑出しているのは、イジワルな継母。もうとにかくヤバイくらいに怖いんです。普通の人間のはずなのに、魔女やらモンスターやらよりずっと怖い。他のキャラと比較して顔が妙にリアルな「人間の顔」のイラストになっているのも怖さを引き立てています。イジワルな義姉たちとあわせて、あんたらの家、4人しか住んでないのに、一日にどれだけの食器を使って、洗濯モノを出しているんだ!といいたくなるくらいにシンデレラに課せられる仕事が多いのは、ちょっと突っ込みたくなるところではあるものの、悪役としての完成度はピカイチではないでしょうか。

この映画の名作たるゆえんは、恐ろしいまでのバランスの良さにあるのだと思います。単なる女の子向けのお姫様物語に終わらせず、ドタバタコメディや、クスリと笑うような小さな笑いを大量に散りばめて、怖がらせるところではとことん怖がらせ、笑わせるところではとことん笑わせ、美しいところではとことん魅せてと、こだわりまくって作られたそれぞれの場面が非常に上手く配置されている作品だなぁと感じました。

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2005年10月20日 (木)

「西日の町」 湯本香樹実

「西日の町」 湯本香樹実 文春文庫

この作者さんの本は3冊目ですが、過去2冊は、「夏の庭」を中学のときに、「ポプラの秋」を高校のときに読んだというものなの。文庫の3冊目が出るのに8年も待ったことになります。今回、改めて読んでみて、湯本作品の奥深さを再認識しました。ただの児童文学という枠には収まらない何かがある作品です。そもそも芥川賞候補に挙がってる時点で、「児童文学」というカテゴリー(このわけかた自体無意味ですけど・・・)を逸脱していることは明らかですが。このときの芥川賞は「パークライフ」(吉田修一)がとったみたいですね。「パークライフ」は極めて「現代」という時代を強く意識する作品だけれど(そういう意味で最近の芥川賞の傾向にぴったし)、「西日の町」は時代に関係なく人の心をつかむ何かを持っている作品ではないでしょうか(そういう意味で芥川賞を逃したのは残念!)。

大学教授をしている男性が少年時代を回顧する形式で書かれた物語。離婚した母とともに、各地を転々とし、北九州のK(多分小倉)という町に落ち着いた小学生の「僕」のところに、ある日突然、「てこじい」と呼ばれる祖父が転がり込んでくる。母は長い間、好き放題して生きてきた祖父のことを憎んできたのだけれど・・・。少年の目を通して描かれる、母と祖父との愛憎入り混じる人間劇を軸に、少年が祖父と過ごした最初で最後の日々をあざやかに描く秀作。

湯本さんの作品は、過去の2冊も、子供と老人との交流を描いていたと記憶しています。しかし、この物語の場合、本当に描きたいのは恐らく、母と祖父との親子関係。これまですれ違いながら生きてきた大人と大人の親子が互いに向かい合う様を、作者が得意とする「少年と老人」という設定のオブラートにくるんで見事に描いているとかんじました。おそらく、傍から見れば決して「幸せな家族」ではない一家なのですが、愛憎を超えた何かのつながりを持つ「家族」というものを感じさせてくれる作品でした。あと、西日の町というタイトル通りに、思い出話とは言っても、セピア色ではなくて、夕日に照らされた町の風景が頭に浮かぶような作品。

でもこの作品のもつ本当のよさを知るには自分はまだ若いんだろうなぁ。もっと渋く年をとってからじっくりと読み返してみたい作品です。

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「葬送 第1部 上・下」 平野啓一郎 

「葬送 第1部 上・下」 平野啓一郎 新潮文庫

舞台は19世紀のフランス。ドラクロワとショパン、そしてショパンの愛人ジョルジュ・サンドを中心に展開する物語です。サンドの娘の結婚がらみの問題がこの第1部のメインストーリー。養女と自分を平等に扱う母を憎む娘だとか、結婚相手が借金だらけの放蕩野郎だったとか、昼ドラさながらのドロドロ系ストーリーです。

長い!!!!!しかも第1部読み終わっても、普通に中途半端な部分なので、第2部読まないと何もコメントできません。中だるみも結構感じるストーリーなんですけど、最後のほう、しっかりと盛り上がって、読者をひきつけて、第2部へと橋渡しするのは上手いですね。

今回の平野氏の文体は、芥川賞のデビュー作に見られた読みにくさはほとんどなくなっていて、非常に読みやすいのが印象的。必要以上の漢字の使用もかなり減ってますし。擬古文もどきのような文体や、泉鏡花的世界は今回は感じられないものの、やっぱり明治文学の香り漂う作品なのが平野流なのでしょうか。「一月物語」の鏡花的世界が好きだった自分としてはちょっと物足りなさもあるものの、しっかりと作りこまれた大作なので、普通に面白いですね。まだ後半を読んでいないので何も言えないのですが、現段階では、このような大作を使って何を表現したいのかというところまで見えてこないので、それはまた後半を読んでからしっかりと感想書きますね。

この本、第1部だけで700ページ以上あって、第2部はさらに厚みが増すようなので、文庫の刊行も1部と2部の間で1ヶ月空いたことだし、他の本もたまってしまうので、ちょっと休んでから続きを読みたいと思います。

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2005年10月 9日 (日)

「リレキショ」中村航

「リレキショ」 中村航 河出文庫

これまで3作品が出版されていて、この作品で文藝賞をとってデビューし、その後の2作品がいずれも芥川候補になった作者さんです。前々から気になっていたので、文庫化に合わせて購入。

主人公の少年が、とある女性に「拾われ」てきて(ドラマ「キミはペット」みたいな感じだね)、彼女の弟として「半沢良」という名を与えられて一緒に暮らし始めるところから物語はスタート。彼は架空の履歴書を書いて、深夜のガソリンスタンドでバイトを始めるのだけれど、ある日のバイト中、一人の少女が彼に手紙を渡したことで、少年と少女との不思議な関係が始まるという物語。

この小説の特徴はとにかく説明がないこと。主人公の少年がどのような経緯で「姉」に拾われて同居することになったのかという描写は一切なく、普通ならばありあえないようなこの状況を読者は否が応でも受け入れなければいけない。さらに、それ以前に主人公の少年がどこで何をしていたのかということも全く描かれない。読者は、彼が見知らぬ女性の「弟」という新しい生活を手に入れて、自分で書いた「リレキショ」に書かれた作り物の人生を歩み始めた「半沢良」という少年であること以外は何も分からないのです。

この小説の上手いところはまさにここだと思います。見知らぬ女性の「弟」になるという突拍子もない設定を詳しく描いてしまうと、一気に物語全体が「ありえないですから!」という空気になってしまいかねないのを、巧妙に隠していくことで、読者の想像にゆだねて、この不思議な設定をすんなりと受けいれさせることに成功していると感じました。さらに言いますと、説明不足、描写不足はこの作品全体に見られる特徴なのですが、それが、作品の持つ空気によく合っているのが不思議なのです。というわけで、途中、一部、主人公の過去に関して少しだけ触れられる場面があるのですが、個人的にはこの部分は全く不要だと感じました。これは過去も不明だし、未来もどうなるか分からないけれど、ただ「今」を一生懸命生きる若者達を描いた作品だと思います。どの登場人物たちも皆「孤独」なのだけれど、たとえ表面的な付き合いとはいえ、互いにその孤独をいやしているように感じました。まさに「万有引力とは引き合う孤独の力」(「二十億光年の孤独」谷川俊太郎)です。ちなみに映画「チョコレート」の感想もこれと全く同じ引用をした記憶がありますが、両者は全く毛色の違う作品です。

うん、他の作品も読んでみたい作者さんですね。こういう作品を受け入れられる若さがあってよかった♪

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2005年10月 8日 (土)

「体の贈り物」 レベッカ・ブラウン

「体の贈り物」 レベッカ・ブラウン 新潮文庫

現代アメリカ文学。翻訳はかの柴田元幸氏。柴田訳はとりたてて好きというわけではないけれど、彼が注目する作家は興味があるので、結果的に柴田訳を読むことが多くなってしまいます。典型的なのはオースターだけれど、もはや翻訳されるのを待てなくなっってすっかり原書派。

エイズ患者のホームケアをしている主人公が様々な患者さんと交流する1話完結型の連作短編集です。主人公は看護士とかではなくあくまで、ヘルパーさんなので、医療行為をしたりするわけではなく、買い物や洗濯などの身の回りの世話をするくらいしかできないのだけれど、そんな彼女の目を通して描かれる患者達のささやかな日常の風景を優しいまなざしで綴った傑作です。

あとがきで翻訳者さんも書いているのだけれど、本の内容を書けば、病人とそのケアワーカーの交流という内容だと、単なる感動作という印象しか与えられず、それだけで読者を一気に減らしてしまう可能性が高いのですが、この作品に関して言えば、あらすじや内容、レビューなど一切読まずに(といいつつ書いているわけですが)、ただ手にとって欲しい、そういう作品です。読み終わった後に心に残る感じがなんともいえない作品で、久々に良いものに出会えたなと思いました。

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2005年10月 5日 (水)

「マルセル・エメ傑作短編集」

「マルセル・エメ傑作短編集」 中公文庫

9月の新刊。フランスの作家さんの短編集です。誰?っていう人も多いでしょうが、以前に劇団四季がミュージカルをした「壁抜け男」の原作者であるといえばピンと来る人も数名いるのではないでしょうか。ちょっと奇妙な味わいの短編が7つ収められているのですが当たり外れの差が結構大きいです。割とタイプの異なる作品を集めているので、好きなタイプの作品はヒットするんですけど、そうではないタイプはかなり退屈。

気に入ったのは「こびと」と「ぶりかえし」の2編。「こびと」はある日突然サーカスの小人が成長をはじめてしまい、普通のサイズの美青年になってしまうというお話で、サーカス団に所属する彼のアイデンティティは「小人であること」であり、それを失った悲哀が描かれる物語。なかなか切ない作品でした。

もう一編の「ぶりかえし」は、「1年を24ヶ月にする」という法律が施行されて、人々の年齢が皆半分になってしまった世界の話。しかも年齢が半分になるだけではなく、その年齢に合わせて肉体も若返ってしまったからさぁ大変。はてさて、この混乱が招いた悲劇とは?という物語。テーマは「上流階級の偽善」ということで、笑える中にも考えさせるテーマのある物語。

いくつか好きな話があったから良いのだけれど、そのためだけにはちょっと価格が高いですね。こういう本(もとは福武書店)を発掘して文庫化する中公文庫の勇気ある判断は嬉しいけれど、講談社文藝文庫のように、価格が高いのはちょっと残念です。まぁ、元を取るためには仕方ないのかもしれませんが。

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