「ハル」 瀬名秀明 文春文庫
「ハル」 瀬名秀明 文春文庫
「明日のロボット」というタイトルで単行本が出ていたものが改題して文庫化。個人的には元のタイトルのほうが好き。瀬名氏はやっぱり自分と趣味が似てるところがあるよなぁと改めて実感しました。ちなみに、「BRAIN VALLEY」も文庫化していて、そちらも購入済みなのですが、長いのでちょっと今は保留中です。
「ロボット」をテーマにした短編を集めた連作短編集です。読む前は、アシモフの「われはロボット」のようなものを想像していたのですが、かなり違うテイストでした。アシモフの連作は、ロボット3原則という原則を打ち立てておいて、それに基づいた知的サスペンスな要素を絡めたロボット開発史で、割とハードにSFしている作品。一方で、この瀬名氏の作品は、ロボットが開発され、実用化に至ったばかりの近未来を舞台にして、人間社会に新に投入された「ロボット」という存在と人間との共存のあり方を問うような内容になっています。
日本でのロボットの実用化を推し進めてきた原動力が「鉄人28号」であり、「ドラえもん」であり、そして、何よりも、「アトム」であるということを述べ、「アトム」という理想を追うロボットの開発が果たして正しかったのかどうかというのが大きなテーマになっています。そして、果たして人間はロボットに「こころ」を見出すことができるのかということや、生まれたときからロボットがそばにいた世代の人間達の持つ価値観などにメスを入れる作品でした。
全編を通して、手塚氏への敬愛の念が感じられる作品で、これは、アシモフというよりかは、手塚氏へのオマージュなんだろうなぁと感じました。我々が「ロボット」というときって、勝手にアトムとかドラえもんのように友達感覚の存在を連想してしまいますよね。なので、現在すでに実用化されつつあるような介護用ロボットとか、工場の作業用のロボットなどの、「人間の仕事を機械的に処理するだけのマシーン」としてのロボットというのは、ただの「機械」であって、それを「ロボット」と呼ぶのには割と抵抗があるように感じます。アシモフなんかの西洋もののロボットというのは、どちらかというと、プログラミングによって制御されているような「機械的」なイメージが強いですよね。映画とかでも、「愛をプログラミングされたロボット」(「AI」)などという表現が使われるあたり、ロボットが感情を持ったとしても、やはりそれは「機械」としての機能の一部ですよね。そう考えると、実はドラえもんやらアトムなんかのイメージのほうがロボットとしては特殊な存在ということになってきます。まぁ、ロボットという語が初登場する元々の戯曲は、ロボットが心を持つっていうような内容ですが・・・。でもやっぱりAIBOとかは「機械」であって、ロボットと呼ぶのには抵抗があるんですよね。自分だけでしょうか。
そんなことを改めて考えさせられる小説でした。
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