「地下鉄のザジ」 レーモン・クノー
「地下鉄のザジ」 レーモン・クノー 中公文庫
フランスのユーモア(?)小説です。パリに住む叔父のもとにやってきた少女ザジ。一番楽しみにしていたのは地下鉄に乗ることだったのに、あいにくのストで乗ることができません。そんな彼女が叔父とともにパリで過ごす数日間のできごとを描く作品。叔父の職業が、表向きは夜警、実はゲイバーのストリップダンサーとか、色情魔の未亡人だとか、出てくる人たちがとにかく一癖も二癖もある作品なのですが、主人公の少女ザジも決して可愛らしい田舎の少女ではなくて、二言目には「けつ喰らえ!」と怒鳴るような、口の悪い相当お転婆な少女で、なかなか楽しめる内容になっています。一言で言ってしまえば、会話主体のパリを舞台にした超ドタバタ不条理コメディといったところでしょうか。
この小説はとにかく台詞の量が半端じゃなくて、舞台や映画なんかにするといいのではないかと思うくらい(実際映画化されてるようですね)。で、この会話の多さこそがこの小説の真髄で、人々の会話そのものがこの小説のメインなわけです。なので、とても生き生きとした会話がばかりでして、作者は言語実験と位置づけて6年間も推敲を重ねて書いたとのこと。こうなってくると、フランス語で読めないことがただただ悔やまれますよね。こういう本って翻訳してしまうと価値がほとんどなくなってしまうのではないかと思います。言ってみるなら、笙野頼子の作品を外国語に訳してもその真髄は伝わらないだろうなという感じ。でも、パリの市民の生活が生き生きと伝わってくるような場面も多くて、雰囲気を楽しめる作品でした。
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