映画「歓びを歌にのせて」
「歓びを歌にのせて」 2004年 スウェーデン
知らない人も多いかと思いますが、北欧はかなり合唱が盛んな地域です。そんな北欧から届いた、合唱映画。スウェーデンの映画なんて、「ロッタちゃん」シリーズとか「やかまし村」とか、「ピッピ」なんかの児童文学関係の映画のイメージしかありません。あと見たことあるのだと「幸せになるためのイタリア語講座」がデンマークとスウェーデンの共作だったくらいでしょうか。とにかくほとんど馴染みの無い国、スウェーデンの映画。出演してる人々は知らない人ばっかりなのだけれど、パンフを見ると、スウェーデンのTVで活躍してる人々のようなので、邦画だったら、こういうキャスティングなのかなぁなんて頭の中で思い浮かべるのが楽しかったです。
世界的な大指揮者が体調を崩し、仕事を全てキャンセルして、7歳まで過ごした故郷の村に戻ってくるところから物語りはスタート。ふとしたことから村の聖歌隊の指導をすることになるが、閉鎖的な村ということもあり、周囲の反応はあまり良いものではなかった。聖歌隊のメンバーはそれぞれに様々な問題をかかえていたが、彼のユニークな指導により、徐々に心を開き、自己の内面とも向き合っていくという物語。聖歌隊のメンバーとその周囲の人々との間に溝ができていくなかで、彼らはコンサートを開き、コンクールを目指します(←お決まりの展開ですな)。合唱シーンの練習シーンがこの手の映画としてはかなり好感のもてる描き方だったので、かつて合唱部だった者としては好印象。
合唱映画といえば、「コーラス」が記憶に新しいところ。しかし、この映画は、「コーラス」とはかなりタイプが違うように思える作品でした。「コーラス」は、どちらかというと、「いまを生きる」合唱版みたいな雰囲気がありましたが、こちらはもっともっと大人の物語で、どちらかというと、「ショコラ」合唱版みたいな作品でした。主人公は、聖歌隊のメンバーに、自分自身の声を知ることが大切だと教え、歌の練習よりも、自分自身の声を発見するための発声トレーニングを繰り返します。やがて、「自分の声を発見する」という行為が自己の内面と向き合うことへとつながっていき、聖歌隊のメンバーたちはが心の奥に秘めていた思いを表に出していくというのがこの映画のポイント。閉鎖的な村の環境でそんな彼らが好ましく受け入れられず、指揮者に集まる人望に嫉妬してか、牧師が「罪」の名のもとに、主人公を責立てていく様子も、「ショコラ」を彷彿とさせました。
で、面白かったかと聞かれますとですね、最初の1時間までは、相当面白かったのですが、後半1時間でなんとも言えないよな~となってしまいました。前半部分は、純朴な村の聖歌隊メンバーと、世界的指揮者が目指す練習の温度差をコメディ調に描いていて、笑ってしまう場面もかなり多く、ほのぼのとした雰囲気も心地よかったのです。そして、メンバーたちが心を開いていく中で中盤の最大の山場となる演奏会が開催されるのですが、この場面が映画全体を通してみても、最大の盛り上がりだったように感じました。この演奏会までで映画が終わっていれば、間違いなく今年見た映画の中でも、かなりの上位にくいこむ素晴らしさだったのですが、その後の1時間がね・・・。ちょっとグダグダになってしまった感じ。舞台が冬から夏に移って、北欧の短い夏の美しさを感じるような映像になった一方で、物語からは前半部分の明るさがなくなってしまい、さらにラストに向かって突然の急展開。えーーーーーーーーーー!?と思ってるうちに映画は終了しました。
<以下、かなりのネタバレなので反転させて下さい>
心臓発作が再発して倒れるのはまだ許すにしても、体がふらついた拍子にトイレで頭打って倒れて、誰にも気づかれずにそのままってのはちょっと強引なのではないかと。しかし、最後の歌の部分、どのような曲で閉めるのかと思っていたら、素晴らしい倍音の嵐でした。あの大合唱を始めるきかっけになるのが、あの純真無垢な青年の唸りだというのが、とても印象的でした。彼の役割は「天使」だったのかと気づかされて、はっとなった場面です。冒頭で主人公に聖書を差し出そうとした場面も、ここで、深い意味を持ったなぁと。そう思うと、無駄な場面や人物のほとんど無い、とてもよくできた作品なのかもしれません。
というわけで、最後、一部の展開がかなり微妙だったものの、途中までは素晴らしいし、最後の歌の場面は、人間の声の持つ力強さをこれでもかというくらいに伝える、鳥肌モノの場面(「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のラストと同じくらいの衝撃)で、全体的には好印象な作品。中盤の盛り上がりで出てくる歌がとにかく良いのさ。エンドクレジットもこの歌だったし。アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされたそうですが、どうですかねぇ~。
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» 歓びを歌にのせて@ル・シネマ [ソウウツおかげでFLASHBACK現象]
世界的な指揮者・ダニエルには余命が幾ばくもなかった。著名になる以前に改名をしていた彼は、そこが故郷だと周囲に気づかれずに、スウェーデン北部の寒村に引っ越す。多忙を極めた現役から一線を退いたが、教会の聖歌隊の声を聞いて指導に乗り出した。
聖歌隊のメンバー、... [続きを読む]
受信: 2005年12月24日 (土) 02時28分
» 歓びを歌にのせて [シャーロットの涙]
2005年第77回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。
世界的に有名な一指揮者が体を壊しその第一線からはずれ、自分の幼い頃育ったスウェーデン北部にてその後の人生を送ると決意する。最初は音楽はやめたと、取り合わないダニエル(ミカエル・ニュクビスト)だったが、そこで地元の聖歌隊の指導を引き受ける事となる。
心に何かしら重い荷物を抱えているメンバー達。歌う歓びをダニエルから教えられ、それぞれがその壁を乗り越え�... [続きを読む]
受信: 2005年12月25日 (日) 11時45分
» 歓びを歌にのせて [日っ歩~美味しいもの、映画、子育て...の日々~]
世界的に有名な指揮者、ダニエルは、病気に倒れて第一線を退き、故郷の村に戻ります。音楽から離れるつもりでいたダニエルですが、村の聖歌隊の指揮を依頼され、彼らの音楽を愛する心に惹かれて、引き受けることになります。
聖歌隊のメンバーには、夫のDVに耐えながらも、素晴... [続きを読む]
受信: 2005年12月28日 (水) 01時06分
» 歓びを歌にのせて [□film-navi〔フィルムナビ〕]
映画の情報サイト、フィルムナビです。当サイトの歓びを歌にのせて情報のページから、このブログへリンクをはらせて頂きました。他の映画の感想など書かれた時には、お気軽にフィルムナビの方へもトラックバックして下さい、お待ちしております。... [続きを読む]
受信: 2005年12月31日 (土) 13時40分
» 映画: 歓びを歌にのせて [Pocket Warmer]
邦題:歓びを歌にのせて 原題:As it is in Heaven 監督:ケイ・ [続きを読む]
受信: 2006年1月 9日 (月) 20時40分
» ★「歓びを歌にのせて」 [ひらりん的映画ブログ]
2004年のアカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。
ドイツかと思ってたら、スウェーデンでした。
[続きを読む]
受信: 2006年1月14日 (土) 22時22分
» FUN×5 … 『歓びを歌にのせて』 [FUN×5 ~五つの楽(fun)を探して~]
「自分の人生を生きたい…」 [続きを読む]
受信: 2006年1月15日 (日) 22時36分
» 歓びを歌にのせて [toe@cinematiclife]
今年の初泣きはこの映画だった。 2004年にスウェーデンで制作されたこの映画は、「心を解放させる音楽」についての奇跡を描いた映画だった。 泣けた~。 <STORY> 世界的な音楽家ダニエル(ミカエル・ニュクピスト)は、8年先までスケジュールが埋まっているような売れっ子なのだが、心臓発作で倒れてしまう。 運良く一命を取り留めるが、非常に危険な状態であり、医者より安静と療養を勧められ、15歳にデビュー... [続きを読む]
受信: 2006年1月17日 (火) 01時18分
» 歌だけで観る価値あり〜「歓びは歌にのせて」 [万歳!映画パラダイス〜京都ほろ酔い日記]
独立系の映画を上映している個性的なシネコン「京都シネマ」(四条烏丸)へ久しぶりに行った。観た映画「歓びは歌にのせて」(ケイ・ポラック監督)の醍醐味は、圧倒的な歌声、音楽の力そのものだと思う。傷ついた合唱隊の指揮者ダニエルを励ますために、自然発生的に歌わ....... [続きを読む]
受信: 2006年1月22日 (日) 22時03分
» 歓びを歌にのせて(2004) -Så som i himmelen - [Chic & Sweet * びいず・びい]
ゆったりとたおやか、穏やかで優しい北欧の薫りただよう素敵な作品。
癒されます。見終わって静かな充足感でミタされます。
天才指揮者として名声を得、多忙な日々を送っていたダニエル(ミカエル・ニュクビスト)。
しかしある日のコンサートの直後、突然意識を失い倒れてしまう。すでに心臓はボロボロ。治療の施しようがないとの診断だった。彼は残された余生を故郷の小さな村で過ごそうと決め、廃校となった小学校を買い取り移り住む。ところがそんな彼に、村の「聖歌隊」の指導をして欲しいという話が持ちかけられた・・・
... [続きを読む]
受信: 2006年2月 4日 (土) 18時51分
» 歓びを歌にのせて(2004) -Så som i himmelen - [Chic & Sweet びいず・びい]
ゆったりとたおやか、穏やかで優しい北欧の薫りただよう素敵な作品。
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天才指揮者として名声を得、多忙な日々を送っていたダニエル(ミカエル・ニュクビスト)。
しかしある日のコンサートの直後、突然意識を失い倒れてしまう。すでに心臓はボロボロ。治療の施しようがないとの診断だった。彼は残された余生を故郷の小さな村で過ごそうと決め、廃校となった小学校を買い取り移り住む。ところがそんな彼に、村の「聖歌隊」の指導をして欲しいという話が持ちかけられた・・・
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受信: 2006年2月 8日 (水) 17時31分
» 歓びを歌にのせて [映画の話でコーヒーブレイク]
2005年アカデミー外国語映画賞にノミネートされた2004年のスウェーデン映画です。
< ストーリー >
8年先までスケジュールが一杯という過酷な日々を送る世界的な指揮者ダニエルは、
心筋梗塞で倒れ、幼い頃の一時期過ごした小さな村で身体を休めることにする。
転居早々、教会のアマチュア聖歌隊の指導を頼まれる。年齢・性別・職業も異なるが歌を愛する人たちだ。
当初ためらっていたダニエルだったが、自分の声を感じ、ハーモニーを創りだす独自の指導を始める。
次第に歌う歓びを感じ、変わっていくメンバー達だった... [続きを読む]
受信: 2010年6月15日 (火) 09時50分
コメント
はじめまして。コメント&TB失礼します。
中盤の村の演奏会が一番の盛り上がりだったと、僕も感じました。
あのシーンでは涙がこぼし、サントラも欲しいと思ったのですが…
後半の展開は読めてしまいましたし、
前半部をもうちょい膨らませて云々、
しかしトーレの唸りが聖書と繋がるなんて、
そう捉えると「アリかなぁ」と思えてきました。
投稿: 現象 | 2005年12月24日 (土) 02時33分
はじめまして。
TB&コメントどうもありがとうございます☆
村の演奏会の場面、自分も涙腺がかなりゆるんでしまい、サントラ買うぞーと思いました。やはりあの場面が最大の盛り上がりでしたね。あのようなラストにするならば、「ブラス!」みたいな持っていきかたをすれば、良かったのかもしれないなぁなんて思いました。
投稿: ANDRE | 2005年12月24日 (土) 23時39分
ガブリエラの歌声がいまだ耳に残っています。素敵な作品でしたね。サントラ欲しい!ベストテン、アップしたので見に来てね。
投稿: あん | 2005年12月25日 (日) 18時00分
コメントありがとうございます。
ガブリエラの歌は本当に素晴らしかったですね。
あの1曲だけシングルでCD化とかしてくれれば即買いなんですけどね。
投稿: ANDRE | 2005年12月25日 (日) 22時58分
先ほどは当方においでいただいてありがとうございました!
合唱をやられていらっしゃるのでしたか!
実際に練習であのようなワークショップはするのでしょうか?
人の声って本当にパワーを感じます。映画館で見るべきでしょうね。
オスカーは確か違う作品だったと思いますよ。(忘れました、ごめんなさい)
また遊びに来ます♪
投稿: cahrlotte | 2005年12月25日 (日) 23時48分
>cahrlotteさん
この作品、今年のアカデミー賞にノミネートされたんですね。そういえば次回分はまだ未発表でした・・・。受賞したのはスペインの「海を飛ぶ夢」だったような気がします。当時はこの映画のことなど全然知らなかったのでノーマークでした。そうなると、今年の外国語映画賞は、「コーラス」と「ヒトラー」も見たので、割と見たことになりますね。(後半はちょっと独り言ですね・・・。)
合唱でも、発声方法のレクチャーなんかを受けると、あのような体を使った練習はいくつかすることはありますが、普段の練習ではほとんどしないですね。いわゆる「発声練習」ばかりです。あの手の練習はどちらかというと演劇の印象が強いので、とても興味深く見ました。自分の声を知ることは歌をする際の第一歩だとは思うのですが、あまりそればかりやってしまうと、合唱の場合は、今度は合わせるのが難しくなるのではとも思います。
そちらのブログで書かれていましたが、ミュージカル映画は、歌の場面はスタジオ録音したものをかぶせた口パクがほとんどですよね。楽器もほとんどそうではないのでしょうか。演奏の吹替えは、気にしてしまうと作品が楽しめなくなってしまうので、気にしないことにしています。自分はピアノも多少弾くので、「指と音が合ってない・・・」と思うことがあるのも確かですが・・・。
投稿: ANDRE | 2005年12月26日 (月) 23時32分
ANDREさん。
TB&コメントありがとうございました。
中盤の曲は魅せ場のひとつでした…が、ラストに流れる
レナの歌声。。。
これがまた何とも形容し難い至極の音(ね)でしたよね♪
最後の声だけの大合唱(?)。ホント鳥肌でした!
では、またお邪魔させてもらいます。
投稿: purple in sato | 2006年1月16日 (月) 00時41分
>purple in satoさん
コメントありがとうございます。
観終わって1ヶ月、中盤の演奏会よりも
最後の大合唱のほうが余韻として強く残っているのは
我ながらちょっと意外でした。
あの場面、今でも鮮明に思い出せますからね。
馴染みの無い外国語で歌われる歌よりも、
純粋に人間の声だけで作られた場面だったからかもしれません。
とても力強い作品でしたよね。
投稿: ANDRE | 2006年1月17日 (火) 11時18分