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2005年12月18日 (日)

「不在の騎士」 イタロ・カルヴィーノ

「不在の騎士」 イタロ・カルヴィーノ 河出文庫

今月の文庫新刊。国書刊行会のあまり普通の書店に売っていなくて、値段も高くて、マニアックな品揃なところの本が文庫になるのは嬉しいですね。河出書房さんに感謝です。カルヴィーノの作品も結構読んできましたが、今回もなかなか良いです。

舞台は中世のヨーロッパ。シャルルマーニュ率いるフランス軍に所属するどこからともなく現われた風変わりな騎士が主人公。彼はその甲冑の中が空っぽで、「存在していない」騎士。強い意志のみで存在している騎士であった。そんな彼を中心に、女性騎士や、母を探す青年、聖杯の騎士、スコットランドの姫といった「騎士もの」の定番キャラが登場して織り成す、王道騎士物語のパロディのような形をとったユニークな小説です。

カルヴィーノの作品の大きなテーマと思われるものとして、「記号と存在」や「語るものと語られるもの」などの関係性を強く追求するというものがあるように個人的には思っています。「見えない都市」(河出文庫)では身振り手振りでの会話で語られる様々な都市の姿を描き「物語」とは読者の想像の産物であると実感させられましたし、「宿命の交わる城」(河出文庫)ではタロットカードを読み解くことだけで一つのカードに様々な解釈を与えることで物語をつむいで、「記号」の解釈の曖昧さや、「物語」の創出について考えさせられました。また、「冬の夜ひとりの旅人が」(ちくま文庫)でも、「読者」と「物語の作者」の境界とは何かということを深く考えさせられました。この「不在の騎士」という作品もこうしたカルヴィーノの特徴を強く感じることのできる1冊です。そもそもの主人公が意志のみで存在しているという設定がまさにど真ん中ですし。この騎士の名前が無茶苦茶長いというのも、「名前」というものの曖昧さを皮肉的に感じさせられますし。

主人公の騎士に対する存在として、姿はあるのに意識がないという男が登場し、彼は自分の目の前にあるものと自分とを混同してしまい、動物を見れば、動物のように行動してしまうような存在で、主人公の「不在の騎士」と究極的に対照的な存在になっています。このような登場人物たちが中心で描かれると、所謂「普通の騎士たち」というのがとても中途半端な存在になってくるのが、この物語の面白いところ。そして、物語の一番最後に現われるとんでもない大どんでん返し(?)によって、ここでも「物語」とは何なのかということが突如曖昧さを持って読者の前に現われるのが非常に面白かったです。

なんて読み方もできるのですが、普通に小説として、とても面白い本で、純粋に楽しめる1冊。純粋に楽しめた上で色々と考えることができるのがカルヴィーノの面白さだと思います。

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