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2005年12月26日 (月)

「パイロットの妻」 アニータ・シュリーヴ

「パイロットの妻」 アニータ・シュリーヴ 新潮文庫

良作が多いことで知られている新潮クレストのシリーズから文庫化した作品。アメリカの女流作家さんの作品です。「事故を起こした航空機のパイロットの妻」が直面する様々な感情を美しく描いた佳作です。

主人公は旅客機パイロットの妻。ある日、彼女の元に夫の操縦していた飛行機が墜落したという知らせが来るところから物語は始まります。突然の知らせにショックを受ける主人公と思春期の娘、そこにマスコミから飛び込んでくる「事故はパイロットが自殺を図ったのではないか」という噂。あまりに衝撃的な事件に対する、主人公の悲しみや怒り、驚きといった様々な感情が交錯する中で、次第に事故の真相が明らかになっていく・・・。

最初の3分の2くらいをかけて、事故を起こしたパイロットの妻が経験するであろう様々な感情や出来事を丁寧に描き、グイグイと読者をひきつける、静かながらとても力強い作品でした。で、最後のほうは割と急展開で次々と衝撃の事実が発覚していくのですが、この部分は割りと「え?」と思っているうちにあれよあれよと話が展開してしまいあっさりと終わってしまったような印象です。事件の真相まで含めてしまうと、社会派サスペンスのような雰囲気の作品になってしまうのですが、この作品の面白いのはなんといっても前半部分で、この部分に関して言えば、本当に素晴らしい小説でした。

この作品はフィクションですが、列車事故や航空機の事故が起こった際に、真っ先に問題としてあげられるのが、運転手は何をしていたのかということですよね。真相も定かになっていないのに、あれやこれやとマスコミが騒ぎ立てるのはもはや日常茶飯事の光景ですが、彼らにも家族があり、その家族が果たしてどのような気持ちでこういう報道を聞くのかという点はあまり触れられてこなかったように感じます。思えば、事故の再現映像のCGアニメですら、被害者の遺族としては、あまりにも強烈すぎる映像なわけで、マスコミの報道のあり方なんかも考えさせられるような内容でした。主人公達家族に本当の幸せが戻ることはないだろうけれど、それを少しずつでも克服していくことができればと祈るばかり。まぁ、このラストだと、相当きつそうですが・・・。

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