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2005年12月23日 (金)

「博士の愛した数式」 小川洋子

「博士の愛した数式」 小川洋子 新潮文庫

単行本が出たときからずっと気になっていて、そうこうしているうちに、本屋大賞なるものを受賞してしまい、映画化まで決定してしまった作品。文庫になるの早かったなぁ。

事故の後遺症で80分しか記憶が持続しなくなってしまった老数学者の家に家政婦としてやってきた女性が主人公。彼女とその息子と風変わりな数学者との交流を、ほのぼのと描いた佳作です。

小川作品はこれで4冊目。過去に読んだものの印象は、「テーマはかなりピンポイントでツボなのに、どうも苦手」というもの。彼女の作品は設定が特殊なものが多く、それがとても面白いのですが、その面白い設定を理性というよりかは感情的に処理してしまい、矛盾を感じてしまうことがあるのがその原因なのだと思います。雰囲気重視で、語り口は確かに面白いのに、設定に違和感を覚えてしまうのです。今回もまた、「80分しか記憶が持続しない」という設定がとても面白い作品だったのですが、ところどころ「?」とい感じてしまう箇所があり、そこが気になってしまいました。80分しか持続しないにしては、3人の関係の進み方が深すぎなのではと思ってしまうのです。80分立てば、「あなたの誕生日を教えてください」の間柄に戻ってしまうわけで・・・。しかし、この作品にはそんなマイナス面を払拭する全体を包み込むほのぼのとした温かい雰囲気の素晴らしさが感じられる作品でした。文章の暖かさが心地よいです。今まで読んだ小川作品の中では一番好き。

途中、主人公が毎朝目覚めると自分の記憶が失われている博士のことを思う場面があるのですが、この設定だと博士は毎朝どころか80分に一度そういう体験をするわけですから、もっともっと状況は厳しいわけですよね。この物語では限りないまでの優しさに溢れる(とりわけ子供への)博士という人間を描くことで、その切なさをより一層ひきたてているように感じました。そして、その博士に、とびっきりの愛を持って接する父親のいない主人公の息子が泣かせます。こういう雰囲気はやっぱり良いなぁ。映画にするととても生かされるような本だと思うのですが、この内容だったら、ハリウッドで映画化しても成功するんじゃないなかなぁなんて思いました。特に「日本」という風土にとらわれないで、普遍的なものを描いている作品という印象が強かったです。それこそテーマは「数学」ですしね。

この作品では「数学」がかなり重要なキーになっていて、作品のあちらこちらに数学トリビアみたいなものが出てくるのだけれど、どれもこれも、算数の教科書のコラムとかに載ってたりするようなものばかりな気が・・・。もっと一般的な認知度の低いお話が聞きたかったです、博士。小学校のときに、学校の図書館にあった面白算数みたいな10巻本くらいのシリーズをやたらと愛読していたので、そのときのことを思い出して、ちょっと懐かしい気分になれる1冊でした。

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