「タンノイのエジンバラ」 長嶋有
「タンノイのエジンバラ」 長嶋有 文春文庫
「猛スピードで母は」で芥川賞を受賞した作家さんです。「猛スピード~」はなかなか好きだったので、文庫化2作目となる今作もしっかりとチェック。
全部で4作品が入った短編集で、隣の家の娘を預かることになった失業中の男を描く表題作、両親の離婚で離れ離れになった姉妹弟の関係を描く「夜のあぐら」、妻と姉と3人で行ったスペイン旅行での居心地の悪さを描く「バルセロナの印象」そして、パチンコ店でバイトを始めた音大卒30歳の主人公の日々を描く「三十歳」を収録。
一番面白かったのは、「バルセロナ~」、次いで、「三十歳」、「夜のあぐら」、「タンノイ~」という順でしょうか。しかし「タンノイ~」も表題作になってるくるらいなので決して悪い作品ではないです。総じてレベルの高い短編集だというだけ。男性主人公、女性主人公問わず、読者を主人公の日常世界へと引き込む語り口の上手さが際立った作品集という印象でした。どの作品も、あらすじだけ書けば何のことも無い内容なのだけど、なんとない日常で主人公達が感じるよしなしごとや、とりわけ、ちょっとした閉塞感、やり場のなさなんかをサラリと描いているのがなかなか面白いです。この点で言えば、「三十歳」はかなりの傑作だと感じました。あと、何気ない描写の中に、主人公の感じる閉塞感を無言で描く「バルセロナの印象」もとても面白い。自分は芥川賞の「猛スピード~」より、この本のほうが好きかな。
ところで、この本、単行本は表紙が高野文子だったのに、この文庫版は違う表紙。高野さんの作風とこの作品集の空気は確かによくマッチしていると思うので、文庫版の表紙も高野さんのをそのまま使って欲しかったなぁと。
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