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2006年3月

2006年3月30日 (木)

映画「モディリアーニ 真実の愛」

「モディリアーニ 真実の愛」 2004年 仏英米伊米独

画家モディリアーニを中心に20世紀初頭のパリを舞台に描かれる芸術家達の物語。物語はモディリアーニが亡くなる最後の1年を、彼の恋人ジャンヌとの関係を軸にして描いていきます。それを取れ巻く人々として、ピカソ、ユトリロ、ルノアール、コクトーなど当時のフランスで活動していた著名人達が登場。あまりに豪華な登場人物たちが次々と出てくるので、息つく暇がないのだけれど、どうやらフィクションみたいですね。

1つ1つのエピソードは結構面白いんだけれど、全体で見たときにちょっと退屈だったかなというのが感想。主役であるモディリアーニのキャラクターそのものにそこまでの魅力を感じなかったのが原因かもしれません。映画としては、凝った映像を挿入する場面がいくつかって、そういうところはなかなか楽しめました。特に中盤、まるでミュージッククリップのようにして、映像とBGMがコラボする場面(曲の開始とともにカット割りが変わって、曲が終わると映像もフェイドアウトしたので、恐らくはPVを意識した映像)があって、コンペに向けて、各画家たちが作品を作り上げていく様子を描くのだけれど、こういう遊びはなかなか面白いと思いました。シルエットでダンスするとことかも良かったね。

主人公よりも、むしろ、恋人であるジャンヌのほうがキャラクタとしては魅力的で、彼女とピカソとのやり取りなどははっとするくらいに良い場面でした。彼女の視点から描いた映画だったらもっと面白かったかなー。単純に2時間以上あるのが長かっただけなのかもしれないけどね。それにしても、ジャンヌを演じる女優さんが、本当にモディリアーニの書く絵と同じ顔なんですよ!!!これはかなり感動ですよ!

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2006年3月28日 (火)

映画「かもめ食堂」

「かもめ食堂」2006年 日本

小林聡美、片桐はいり、もたいまさこの3人が主演ということで、観る前の期待がかなり大きかった作品です。うん、期待通り、面白かったです。個性派女優たちの競演は気持ちよい。ちなみに邦画を映画館で見たのは「七人のオタク」と「病院へ行こう2」の二本立てを見た以来だと思うので、14年ぶりくらい。

サチエ(小林聡美)はフィンランドで日本料理を出す「かもめ食堂」をオープンするが、なかなか客が入らず、第1号の客も日本かぶれのちょっとオタク系の青年という始末。そんなあるとき、立ち寄った書店で、何らかの理由を抱えて、日本を離れてやってきたミドリ(片桐はいり)と出会い、滞在期間を決めていないという彼女に自分の家で泊まっていかないかと提案する。やがて、ミドリも店を手伝うようになり、そして、そこに空港の乗り継ぎで荷物を失くされた女性マサコ(もたいまさこ)が現われ、店に通うようになる。「かもめ食堂」に集う人々を、これでもかというくらいに美味しそうな食べ物と一緒に静かなトーンで、ユーモアをたっぷり織り交ぜて描く作品。面白いと思ったのは主人公達の過去が一切語られず、彼女らが何故フィンランドにやってきたかは謎のまま。しかしこの作品では、その「多くを語らない」ことがまた良い雰囲気を作ってました。この辺は「深呼吸の必要」とかに似てますね。

「間」がとても素晴らしい映画でした。主演3女優さん達の力量によるところが多いとは思うんだけれど、とにかく全ての間が良い。それが上手いので、「クスリ」と笑ってしまう場面はどれも成功しています。マサコさんがレストランにくるシーン&トンミ・ヒルトネンは「クスリ」どころの騒ぎじゃなかったけど・・・。ゆるーい感じのユーモアをたっぷりと織り交ぜつつ、しっかりと真面目な場面も描いて、そういう緩急のつけ方も心地よい作品です。

あとは北欧の空気の伝え方もとても良いですね。景色とか空の映しかたがとても気持ちよい。ここまで上手いと「フィンランド」という場所を舞台にしたのも納得させられてしまうくらいです。北欧の素晴らしいデザインがいたるところに使われていて、シンプルながらもかなりオシャレな食堂で出される和食の定食もオシャレな皿でサーブされていて、それがまた良いです。とにかく食べ物がおいしそうでした☆

さて、この映画、色々と粋な演出やデザインが多いのは本編だけではありません。劇場で販売されているパンフレットが本当に素晴らしい内容です!まず、カバンの形をした表紙がついていて、タグが結び付けられている外見だけでもかなりポイントが高いのだけれど、中を見てみると、掲載されている写真が映画をベースにした写真集とでもいえるようなくらいにクオリティの高いものばかり。映画のシーンではないイメージフォトみたいなのも載ってるし。映画の内容に関する解説なんかよりも、写真のスペースにかなり力を入れていて、映画の雰囲気がよく伝わってくるパンフでした。見に行った人は是非買うべし!

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2006年3月27日 (月)

「虹の家のアリス」 加納朋子

「虹の家のアリス」 加納朋子 文春文庫

「螺旋階段のアリス」の続編、アリスシリーズ第2弾です。加納さんの書くミステリーはきわめて「日常」を大切にしていて、おどろどろしい事件ではなくて、生活密着型の小さな謎を解決するだけなのに、紛れもなく「本格ミステリ」であるところが大変良い。ホームズでも「赤毛連盟」とかが好きだった僕としては、加納さんのこのスタイルはとても好きです。

脱サラ探偵の仁木とその助手の少女安梨沙の2人が様々な日常の謎に迫ります。育児サークルでの不可解なできごと、病院から赤ちゃんが消えた事件、婚約者にせまる嫌がらせ、バラ泥棒などの様々な事件が描かれて、前作同様、全ての物語で「アリス」の何かしらかがモチーフとして登場します。アリスファンとしてはこの辺はニヤニヤしっぱなしです。そして、近作は「家族」をテーマにしているということで、全体に家族愛を感じるようなエピソードばかり。さらに2人の主人公それぞれの家族の問題も色々と明らかになって、物語世界がぐんと深くなったような印象です。しかし、前作では、謎の少女だった安梨沙が今作ではそのミステリアスさが解消されてしまっていたので、ちょっとつまらなかったなぁとも思いました。

どれもこれもさすがは加納作品という感じでとても上手にできているのですが、ちょっと残念だったのは、加納さんが得意とする、連作短編と思わせて実は長編だったというサプライズが今回は感じられなかったこと。単体で見たら面白い作品ではあるけれど、加納作品にはもっと多くを望みたくなります。

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2006年3月26日 (日)

「夢みるピーター七つの冒険」 イアン・マキューアン

「夢みるピーター七つの冒険」 イアン・マキューアン 中公文庫

マキューアン作品はこれで3作目。「アムステルダム」と「愛の続き」は非常に緻密に構成された大人向けの心理サスペンスのような物語でしたが、こちらはすべての子供たちを対象にした児童文学。彼が書く児童文学とはどんなものなのか全く想像つかなかったのですが、いやはや読んでみるとこれがまた面白いのです。マキューアン作品は安定していてハズレがないですね。

主人公はいつも空想にふけっているピーター少年。彼が空想する様々なできごとを連作短編の形式で描いた作品です。妹の持っている人形たちが突如として襲ってきたり(この空想のトリップ状態はかなりヤバイですねー。妹とか普通に怖いんじゃないの!?と思ってしまいました)、猫の体に魂が入ってしまったり、赤ん坊になってしまったり、存在を消してしまうクリームで遊んでみたりと様々な物語が描かれます。一話完結の様々な空想物語なんですけど、話数が進むにつれて、ピーター少年が確実に成長していっているのが、なんともほほえましい作品集です。

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2006年3月23日 (木)

「孤独のグルメ」&「散歩もの」

「孤独のグルメ」&「散歩もの」 久住昌之 作  谷口ジロー 画

「孤独のグルメ」 扶桑社文庫

グルメ漫画は「美味しんぼ」をはじめとして、かなりの数がありますが、この作品はそんな中でもちょっと抜きん出た個性を持っています。テーマはズバリ、サラリーマンの1人ご飯です。ぷらっと立ち寄った店で昼食を食べる。初めて入る店なので、勝手がよく分からず、周りの様子を伺って注文。出てきた料理を見て、ちょっと失敗だったとか、これは正解とか色々と考えながら食事をする。そんな経験は誰にもあるのではないでしょうか?「うまーい!!!!」あと叫んで、料理の薀蓄を大量に述べるのも良いけれど、この作品のように、「うん、これは上手い」程度の感想のほうがリアルに伝わってくる場合もありますよね。この作品の主人公はとにかく食べます。しかもあれやこれやと考えながら。どれも実際に存在する店に行くというのもリアルなのだけれど、この主人公の思考もとてもリアル。原作者は、「中学生日記」のQBBの方なのだけれど、谷口氏の劇画タッチの画風がこの作品には妙にマッチしてます。なんと言っていいか難しいのだけれど、無性にごはんが食べたくなる、そんな作品です。かなりオススメ。

「散歩もの」 フリースタイル

そして、同じ原作者&作画コンビの新作が出ました。それが「散歩もの」。こちらも、ふらりと散歩する中年男性を描いたもので、「孤独のグルメ」に続いて独特の空気を出していてなかなか良いです。しかし、「孤独のグルメ」にはおよぼなかった、そう感じました。「食べる」という行為と「散歩する」という行為を比べた際に、「食べる」のほうが生活に根づいているのが原因ではないかと思います。散歩して、思いがけない人やモノに出会うというのよりも、ふらりと立ち寄った店で、1人モクモクと食事をするほうが、心に染み入る要素が強いみたいです。しかし、「孤独のグルメ」は奇跡的なほど上手くできた傑作なので、あくまでも、それと比べてのお話。この作品そのものはやはりかなりレベルが高いです。1人で散歩しながらあれやこれやと思いをめぐらせる感じがたまらないです。この作品の散歩の舞台、都内を色々とめぐると思いきや、吉祥寺近辺率がやけに高いですね。恐らく作者さんが暮らしている地域がその辺りなのでしょうね。

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2006年3月16日 (木)

映画「ラヂオの時間」

「ラヂオの時間」 1997年 日本

ひょんなことから見ることになりました。

シナリオコンテストで入選した主婦の作品を生のラジオドラマとして放送することになったラジオ局を描く作品。主演女優のわがままを発端に、次々と問題が発生し、当初の脚本がすごい勢いで書きかえられていき、そのまま生放送の本番に突入。果たして、このラジオドラマは最後まで放送することができるのか!?という映画です。10年ほど前の作品ですが、今見ても豪華なキャスト。むしろ妙な脇役をやってる国際スターがいるので、今から見たほうが豪華かもしれません。

ごめんなさい、なぜか分からないけれど、やっぱり三谷作品は苦手というイメージを覆すことはできませんでした。特に冒頭30分、何度も見るのをやめようと思ってしまいました。とにかくうるさい!!ドタバタと走り回って、目まぐるしく場面は展開して、台詞もはやいし、なんだか、画面の中で登場人物達が勝手に大騒ぎしているのを延々と見せられているような気持ちでした。緩急の差がほとんどなくて、最初からジェットコースター並に怒涛のごとく展開するのが苦手だったのかもしれません。もっとゆる~い笑いのほうが好きなので。でもクドカンは好きなんだよなぁ。なんでだろ。なんだか鈴木京香目線で見てしまったので、一般人が変に業界にからんで、とても嫌な思いをしているというように感じてしまって、ちょっと嫌な気分になったり。最後も一見すると、一件落着だけど、なにも良くないよね。一番笑った場面はおひょいさんの花火と鈴木京香の自己紹介ですかね。

最後まで見たら、よくできた脚本で確かに面白いのだけど、これはあくまで「舞台」であって映画向きではない気がします。これが面白かったら、まだ見ていなかった、ほかの作品も見ようかなとか思ったんですけど、ちょっとモチベーションダウン。でも、「笑の大学」は監督が星護なのでやっぱ見てみたいなぁ。

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2006年3月14日 (火)

「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」 柴崎友香

「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」 柴崎友香 河出文庫

「きょうのできごと」を読んで以来、すっかりファンになってしまった柴崎作品。文庫化するたびに追いかけていて、今回で3作目。表題作と、「エブリバディ・ラブズ・サンシャイン」の2作を収録。

では表題作について。主人公の望は、高校時代には写真で賞をとり写真集を出版し、大学ではバンド活動をそこそこにこなしつつも、現在は商店街の小さなレコード店でバイトする24歳のフリーター。彼は友人の恵太とその彼女のルリちゃんがディズニーランドに行くという話をきいて、関東出身の後輩のコロ助を高校時代の憧れの女性に会いに行かせるという理由をつけて道連れにし、なかば強引に4人で東京まで一緒に向かうことに。彼らが関西から東京に向かうまでのドライブ旅行を生き生きとした関西弁での会話を中心に描く作品。

「きょうでのきごと」がとても好きなので、自分はこの作品もかなり良かったです。ぱっと見て、何も起こらない、ただの日記のような文体で、とても読みやすくてあっという間に読み終えてしまうのだけれど、確実に、読後に何かが心に残る不思議な力がある作品を書く作家さんです。会話とこれまた上手な風景の描写の中で、各人物の性格や本音&建前を見事に表現して、短い旅行の中での気持ちの変化をサラリと描くのが大変面白い。そして、物語の最後、器用貧乏で、妙にプライドがあって、なかなか自分を上手く表現できなかった主人公の気持ちの変化が、なんとなく、希望を感じさせるもので、とても爽やかなのも好きです。

この作品には標準語で喋る人が2人登場するのだけれど、1人が関東出身のコロ助。一人だけ歳が下ということもあって、主要の4人の中ではちょっと外れたポジションにいるのだけれど、関西弁の会話の中に時折入る標準語での彼の言葉が、驚くほどに彼のキャラクターを引き立てているのが面白い。さらに、舞台が関東に移ってから、コロ助のキャラがやや強気になるのも良い感じ。そして、もう1人の標準語のキャラクター、語り手としての主人公、望。これは1人称小説なのだけれど、会話の中では関西弁でまくし立てるやや自己中で不器用な主人公が、語り手となる地の文では標準語を用いて、少し距離を置いた視点から出来事を語るのですよ。そして、語り手の部分でも、時折、感情が出てしまうような場面では関西弁が出てしまうというその絶妙な言葉の使い方が上手だなぁと。柴崎さんの作品は、こういう言葉の使い方がとにかく心地よいですね。

前作の「青空感傷ツアー」は正直やや期待はずれではあったのだけれど、今回は本当に良かったです♪次回作に期待ですね(もう出版されてるけど)。「きょうのできごと」みたいなテイストで映画化されたら見ちゃうかもね。

あと、収録されているもう1作の「エブリバディ・ラブズ・サンシャイン」は、失恋してから、一日の大半を眠って過ごすようになった主人公が半年ぶりに大学に行くという物語。こちらは、女性受けが良さそうな物語ではないでしょうか。リズム感あふれる文体で、こちらも面白い作品でした。

ちなみに、この本の解説を綿矢りさが書いているのですが、単に一読者の読書感想文の域を出ていないような気がしました。解説を書くというのはまた難しい仕事なので、若い書き手の方の書くものを読むのはそれはそれで面白いなぁと思います。

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2006年3月13日 (月)

「ほんものの魔法使」 ポール・ギャリコ

「ほんものの魔法使」 ポール・ギャリコ ちくま文庫

とても良かったです。ギャリコ作品は「雪のひとひら」や「スノーグース」、「ジェイン」などを10年ほどまえに読んで以来。今回の本はとても面白くて、前に読んだのを読み返そうかなと思うくらいでした。

物語の舞台は世界中のマジシャン達が集まる都市、マジェイア。そこでは手品師たちが、名誉ある魔術師名匠組合への加入をかけて、その技術を競い合うコンテストが開かれている。主人公は、魔術師が集まる町という噂を聞いて、遠くからやってきた1人の男アダム。「あなたは何ができるのですか?」と問われて彼は、一番簡単なつまらないことしかできないけれど、と言いながら、何もないところから様々なものを取り出したりしてみせる。やがて、コンテストが行われるのだが、街では、アダムの行う魔術のタネをめぐって人々は大騒ぎ。しかし主人公であるアダム本人は、これが「魔術大会」であることを信じて疑っていないのである。そう、彼は本物の魔法使い。果てさて、アダムの引き起こした混乱の行く末は?彼が連れる言葉を喋る犬(彼にしか聞こえない)、アダムの助手を務めることになるマジェイア市長の娘など魅力的な登場人物を交えて描かれる傑作ファンタジーです。

手品師の世界はあくまで虚構の世界、エンターテイメントの世界であって、そこに突如として本当にタネも仕掛けもない魔法を使う者が登場することによって、街中が大混乱になるという物語で、後半にいたっては、ちょっとした魔女裁判的な雰囲気まで登場し、「本物」であることは、逆に恐怖の対象になってしまうという部分など、色々と興味深い内容が盛りだくさんでした。また、人々が混乱している一方で、いつでも余裕の主人公がまた面白く、彼にとっては、タネがあるかどうかということはまるで問題になっていなくて、単に「魔術」を見せることだけが目的になっているんですね。「ホンモノ」であるが故にニセモノの気持ちが分からないとでも言いましょうか。ここでは手品と魔法で描かれているいるけれど、「にせもの」と「ほんもの」という対比でいけば、世の中の様々なものに当てはめて考えることのできる奥深さを持った作品ではないでしょうか。

物語の中盤、助手をすることになった少女が、アダムに魔術のタネを教えて欲しいと頼む場面があるのですが、そこで、彼が答える内容が、多少教訓じみてはいるのだけれど、ハッとさせるような言葉で、とても印象に残りました。これは是非、読んで感じてもらいたい言葉なので、あえてそれをここで引用することはしません。物語のラスト、少女が彼の言った言葉の意味を悟る場面も、とても秀逸で、なんともいえないステキな読後感でした。そしてそして、彼の言葉どおりであれば、(この後の数行、ネタバレのため反転させてください)マジェイアで起こったこのできごとを頭の中で様々な想像をめぐらせて読んでいた我々読者もまた、素晴らしい魔法使いに他ならないのだよと作者が優しく語りかけてくるような気がしてきて、心に深く残る作品でした。

出てくるキャラクターたちがとてもイキイキとしているし、割と深い内容も盛り込みつつ、純粋にストーリーも面白い作品で、助手の少女と同じくらいの小学校高学年くらいの子供たちに読んでもらいたいような1冊です。そして、数多くの良質な児童文学の例に違わず、この作品もまた、大人が読んでこそ見出される深さを持ち合わせた良作。子供のための物語だとは思うけれど、むしろ大人が読んだ方が忘れかけていた何かを見出せるようなそんな作品です。

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2006年3月12日 (日)

映画「秘密のかけら」

「秘密のかけら」 2005年 カナダ=米=英

アメリカのショービズ界で起きた事件の真相に迫る作品。「不思議な国のアリス」がモチーフとして使われてるという話を聞いて、前々から気になっていた作品です。都内での上映が終わってレンタルかなぁと思ってたら、地元の映画館で上映を始めたので、見てしまいました。誰かを守るために秘密を負う人々とそれを明かそうとするジャーナリストを描く作品。

1950年代、ラニーとヴィンスのコンビはナイトショーやテレビ番組で国民的人気を博していて、子供たちのための募金をつのるチャリティ番組で36時間の司会を務めたりしていた(24時間テレビの司会みたいものですね)。しかし、そんなあるとき、2人が宿泊する予定だったホテルの部屋から女性の全裸死体が見つかり、自殺か他殺かという謎も解けぬまま、事件の真相は闇へ葬られ、やがて2人のコンビも解消することになった。それから15年後、1人の女性ジャーナリストがこの事件の謎を追って、2人に接近する。徐々に明らかになっていく事件の真相やいかに!?というストーリーを無駄に多い男女の全裸映像やドッラグ描写などを織り交ぜて描くR-18指定映画。でも内容やテーマ自体はいたって健全。

で、ですね、この事件の真相というのが、別に、あっと驚くような内容でもなかったので、なんだか先が見えているのにじれったい感じがする映画でした。あ、真相にかかわる衝撃の事実の場面はちょっとビックリするような展開だったけれど(コリン・ファースの体をはった演技に注目ですよ!)。面白かったのは、過去の事件が語られる場面の映像が、実際の過去の出来事というわけではなく、そのときの語り手である人物の視点からみた映像だったり、女性ジャーナリストの頭の中で想像した映像だったりするわけなので、同じ場面の映像でも解釈が違ったりするところがあり、現在と過去(しかも過去はほとんど重なる時間軸ばかり)が激しく交錯する物語ではあるものの、次々と事実が明らかになっていく様子がなかなか楽しめたとこ。でも、伏線であるべき部分があまりにもあからさまにアップになったりするので、最終的に明らかになる事実に何の意外性もないのがつまらないところ。伏線をもっと上手にはってくれたら、もっと最後に向かって、驚きの連続という内容にもできたのではないでしょうか。

事件にかかわるコンビ2人を演じるコリン・ファースとケビン・ベーコンは言わずもがなで上手で、特にコリン・ファースはこれまでのダーシー氏やフェルメール氏なんかのイメージとは違うキャラを見事に演じていて、やや退屈な脚本(演出もかな?)も、この2人の演技力でかなりカバーされていました。若き日の大スターを演じる2人は歌や踊りも披露するし、老けてからの影を負ったキャラも本当に見事に演じていました。あと、女性ジャーナリストを演じるアリソン・ローマン(「ビッグ・フィッシュ」のヒロインの人ね)と死体で発見される女子大生を演じるレイチェル・ブランチャードの2人も迫真の演技。この主要キャスト4名が自らの全裸シーンをたっぷりと披露して(それでも不思議とやらしくないのは演出の妙ですね)まさに体当たりの演技を見せてくれるので、2時間しっかりと釘付けになりました。あとは、50年代、70年代の空気の見せ方もとてもよくて、演技や映像には大満足。

モチーフになっているというアリスですが、作中でもしっかりとアリスが登場します。しかも、作品の中で最もエロ&ドラッグな場面での登場。あとは、事件の真相を追う女性ジャーナリストさんが様々な人を訪ね、過去の事件の迷宮をさまよっていく様子が、そのまま、不思議の国をさまようアリスのようでもあって、なかなか楽しめました。もしかしたらもっと色々と意味が隠されてるのかもしれないなぁと匂わせる場面もいくつかあったのですが、自分の理解力の限界です。

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2006年3月 6日 (月)

映画「フォーガットン」

「フォーガットン」 2004年 アメリカ

「!?」、え~~~~~~~~~~っっ!!!!、もう、なんていうか、ねぇ、はははは、ていう感じの映画です。

14ヶ月前に飛行機の事故で息子を失った女性が主人公。彼女は最愛の息子のことが忘れられず、毎日写真やビデオ、遺品を見ては涙を流す日々を過ごしている。そんなある日、いつものようにアルバムを開くと、そこには写真など1枚も入っていない。そしてビデオにも何も映っていない。いくら悲しい記憶を忘れさせる為とはいえ、これはやりすぎではないかと夫に詰め寄る彼女。しかし、そこで衝撃の事実を聞かされる。夫が言うには彼女には子供などいなく、流産して以降、精神的に不安定になっていたとのこと。かかりつけの精神科医も、写真やビデオといった幻覚がようやく見えなくなったのだとそれを証言。納得のいかない彼女は同じ事故で子供なくした男性の家へ向かい、子供のことを尋ねるも、彼の返事は「自分には娘などいない」の一点張り。はたして、子供はいるのかいないのか、そして、この事件の裏に隠された衝撃の事実やいかに!!てな内容。90分ほどの映画で、ここまでで、最初の10分くらい。いや、なんだか、前半の展開がやけに早かったです。

この映画、予告編作った人は天才だと思います。予告の内容以上を盛り込めばネタバレにつながる作品ではあるのだけれど、これほどまでに、「気になる~」と思わせる予告編はなかなかありません。実際、ネタバレとなる事件の背景が見え隠れするようになる真ん中あたりまでは、見ながら、とにかく最後の結果だけを教えてくれれば良いから!!とちょっとまどろっこしい展開にヤキモキさせられる映画。しかし、最後の真相があまりにも、あまりにも、あまりにも、なのです。これほどまでに期待を裏切られて、あっけにとられて、そして衝撃の映像に笑いそうになる映画も珍しいのではないでしょうか。いやはや、このくらいになってしまうと、「キャット・ウーマン」のシャロン・ストーンくらいにありえね~って感じで笑えちゃいますよね。うんうん。何気に一見の価値ありの映画ですよ。本当、スゴイ展開に思わずニヤニヤしちゃいますから!

この作品の衝撃を忘れないために以下、ネタバレ感想。反転させてくださいね。

空撮が多い映画だなぁとか、突然空の雲が変な感じのCGが使われたとか思ったら、宇宙人ですか!?本当に!?記憶を操作して写真に加工を加えられて、新聞まで操作できるというのに、子供部屋の壁紙だけは上から貼り変えるだけってのは、ちょっと・・・。でもでも、人が空に向かってぽ~んと飛んでいく映像はかなり衝撃(笑撃?)でしたね~。いやぁ、あの女刑事さんが飛んでったときは、もはや、ぽか~んとあいた口がふさがらない状態ですよ。妙におかしくなってきて、思わず笑いそうになってしまったし。で、彼らの実験てのは何なの?期限があるようだけど、その割には14ヶ月の間何をしていたの?で、突然、その期限がやってきて宇宙人自身もぽ~んとなっちゃうってのは、どういう展開なの?なんだか謎が解けたようでいて、肝心な部分は何も語られていないですよね。とりあえず母子の絆は強いのよってことが言いたいだけの映画なのかな??

ところで、この映画のジュリアン・ムーアはそんなにはまってなかったですね。演技に関していえば全く問題はないんですけど、役の雰囲気とあってなかった。彼女は「エデンより彼方に」とか「めぐりあう時間たち」のような50年代の古きよきマダムみたいな役のほうが似合ってると思いました。この映画、シガニー・ウィーバーとか似合いそうじゃない?なんて思ったけど、単に子供を守るってところがエイリアン2のイメージなだけでした・・・。

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2006年3月 5日 (日)

「永遠の出口」 森絵都

「永遠の出口」 森絵都 集英社文庫

少し前に読み終わったのですが、レビューが遅れてしまいました。

千葉県の国鉄駅まで自転車で40分ほどかかる郊外の町に暮らす少女が10歳の誕生日を迎えてから、高校を卒業するまでの10代の日々を描いた連作短編集です。「博士の愛した数式」が1位となった本屋大賞で4位になった作品ですが、個人的にはこちらの作品のほうが好きかも。

友達とのお誕生日会をめぐる小学4年生の頃のエピソード、友達と千葉まで遊びに行く小6、親との衝突をきっかけに軽い非行に走りそうになる中学時代、初めてバイトした高1、初めてのデートをした高2などなど、それぞれの年代で、主人公が経験することを、彼女の心情と家族や友人との関係を丁寧に丁寧に描く作品。男性である自分でさえ、彼女の視点を通してその世界にどっぷりとつかれたので、女性読者の場合はかなり共感する場面も多いのではないでしょうか。子供なんだけど、子供なりに一生懸命頑張ってて、友人達の気持ちも分かるけど、自分はそれを受け入れられなくて、親がなんとなくうっとうしくて、でも人生に対してまだまだ臆病でという10代の心情がこれでもかというくらいにひしひしと伝わってくる作品で、現代の青春小説としては傑出した作品ではないでしょうか。

とにかくとても爽やかな読後感で、彼女の人生をいつまでも見守っていたいと思わせるような作品です。うん、この作品、かなり好きです。

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2006年3月 1日 (水)

映画「遠い空の向こうに」

「遠い空の向こうに」 1999年 アメリカ

名作として名高くて、以前からずっと見たかった映画をようやく見ることができました。多少の脚色があるとはいえ、事実は小説よりも奇なり、映画よりも感動的なりといった雰囲気の映画。主演は今をときめく某カウボーイ映画の主演かつドニー・ダーコ君の彼。

舞台はソ連のスプートニク打ち上げのニュースがラジオから流れる1957年のアメリカ。主人公の高校生の少年は地上から肉眼で観察できるスプートニクを見て感動し、友人らと自分達でロケットを作ろうと決意し、試行錯誤しながら、ロケット作りに励む。しかし、彼の住む町は、炭鉱会社が建設したもので、住人はすべて炭鉱関係者の家族、子供たちは町の学校を卒業してそのまま炭鉱で働くというのが暗黙の了解となっていた。そんな閉鎖的な田舎の炭鉱の町から飛び出したいと、自分の夢に向かって突き進む主人公と、息子には自分の後を継いで炭鉱で働いてもらいたいと願う父親との葛藤を交えて物語は進む。やがて全米科学コンテストの出場を目指す少年達は、閉鎖が噂される炭鉱の町の希望となり、多くの住人達が彼らを応援するようになるのだが・・・。

実話に基づいて描かれた名作です。本当によい。空高く舞い上がるロケットという題材が、単に少年たちの夢に終わらず、閉鎖的な町から飛び出して生きたいという夢の象徴となって、主人公のみならず、やがて街中の人々の希望になっていくのが、本当に良いのです。父親との葛藤も、ありがちな展開とはいえ、演出がとても上手で、はっとさせるような映像&役者さんたちの演技によって、安っぽい感動の押し付けに終わらないで、いつまでも心に残るような素晴らしい名シーンを作り出していました。生徒達を応援する教師(しかもあまりにドラマティックな後半の展開が「実話」なのだから、さらに感動的)をはじめとして、脇を固めるキャラもかなり良い。主人公達の行為に反対する父親をはじめとする人々だって、単に、反対しているだけではなくて、自分が誇りを持って行っている仕事を継いでもらいたいという思いや、子供を本当に愛しているからこその厳しい意見であるということも、短い時間の中でしっかりと伝えたことがこの映画の上手なところ。「炭鉱の町」という特殊な状況がこの物語を深く盛り立てているのは間違いありません。

とても丁寧に作られた作品で、心に染み入るシーンも多く、泣きどころのオンパレード。何気に、冒頭のスプートニク打ち上げのニュースを報じるラジオと地下で作業する炭鉱の人々とを比較して描いていく数分のシーンから、この映画はただものではないと感じさせられました。「フォンブラウン博士は偉大だけど、ヒーローじゃない」という主人公の台詞が出るあたりからは涙腺はゆるむ一方、そして最後のクライマックスでは号泣でしたよ。エンディングに出てくる、実際の主人公達の映る8mmで撮影した映像がまた良い。あと音楽の使い方も良い。前半のオールディーズを多用して時代を感じさせながら、ユーモラスな場面を描くのも良いし、オープニングや後半の感動的なBGMの使い方もかなり良い。そして何よりも良いのが原題の「October Sky」が「Rocket Boys」(原作本のタイトルもこれ。)のアルファベットを並べ替えたアナグラムになっているという神業的なタイトルのつけかた。この作品に寄せる製作者たちの熱い思いがこれでもかと伝わってきます。

「リトルダンサー」と似ているなんていう意見をよくきくのですが、自分はちょっと違うなと思いました。どちらも、自分の夢に向かって突き進む主人公と、それに反対しつつも暖かく息子を見守る父親が登場する炭鉱の町のお話で、ストとか、プロットも似てるのは確かにありますが・・・。

「リトルダンサー」が面白いのはやはりジェンダーの描き方。このあたりは「フルモンティ」、「ベッカムに恋して」なんかと同じで、イギリス映画ならではのテーマ。だからこそ、「男の子がバレエをする」という設定が生きてくる。一方でこの映画のロケットというテーマは、上述の通り、地下の世界である「炭鉱の町」との対比で強烈に生きてくる題材。また、主人公が「町」そのものに持っているイメージなども違いますよね。「遠い空の向こうに」は、炭鉱の町で生まれて炭鉱で働くことが当然とされている主人公が、その壁を突き破ろうとして、高校生という進路の決定を目前にした主人公の境遇との相乗効果で設定が生きているのに対して、「リトルダンサー」では、似たような設定ではあるけれど、それよりも自分はただ踊りたいのだという主人公の踊りへの熱烈な思いが強く描かれています。「リトルダンサー」は主人公&イギリス社会そのものにスポットが強くあたっているけれど、この映画は派手なアメリカの闇とも言える「炭鉱の町」という部分に当てられたスポットライトがとてもよく生きている作品ではないかと思いました。だからこそ「リトルダンサー」には見られなかった、息子も父を理解すると言う「遠い空の向こうに」の展開がまた泣かせるんですねぇ。

あと、決定的な違いは「仲間」いるかどうか。4人と1人とではかなり違いますよね。スタンドバイミーを髣髴とさせるしね(←一部サントラが被ってるのと、線路のシーンが原因かと思われる)。僕はどちらのも映画も大好きですよ!「リトルダンサー」は好きな映画TOP5に入る作品ですし。

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