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2006年3月14日 (火)

「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」 柴崎友香

「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」 柴崎友香 河出文庫

「きょうのできごと」を読んで以来、すっかりファンになってしまった柴崎作品。文庫化するたびに追いかけていて、今回で3作目。表題作と、「エブリバディ・ラブズ・サンシャイン」の2作を収録。

では表題作について。主人公の望は、高校時代には写真で賞をとり写真集を出版し、大学ではバンド活動をそこそこにこなしつつも、現在は商店街の小さなレコード店でバイトする24歳のフリーター。彼は友人の恵太とその彼女のルリちゃんがディズニーランドに行くという話をきいて、関東出身の後輩のコロ助を高校時代の憧れの女性に会いに行かせるという理由をつけて道連れにし、なかば強引に4人で東京まで一緒に向かうことに。彼らが関西から東京に向かうまでのドライブ旅行を生き生きとした関西弁での会話を中心に描く作品。

「きょうでのきごと」がとても好きなので、自分はこの作品もかなり良かったです。ぱっと見て、何も起こらない、ただの日記のような文体で、とても読みやすくてあっという間に読み終えてしまうのだけれど、確実に、読後に何かが心に残る不思議な力がある作品を書く作家さんです。会話とこれまた上手な風景の描写の中で、各人物の性格や本音&建前を見事に表現して、短い旅行の中での気持ちの変化をサラリと描くのが大変面白い。そして、物語の最後、器用貧乏で、妙にプライドがあって、なかなか自分を上手く表現できなかった主人公の気持ちの変化が、なんとなく、希望を感じさせるもので、とても爽やかなのも好きです。

この作品には標準語で喋る人が2人登場するのだけれど、1人が関東出身のコロ助。一人だけ歳が下ということもあって、主要の4人の中ではちょっと外れたポジションにいるのだけれど、関西弁の会話の中に時折入る標準語での彼の言葉が、驚くほどに彼のキャラクターを引き立てているのが面白い。さらに、舞台が関東に移ってから、コロ助のキャラがやや強気になるのも良い感じ。そして、もう1人の標準語のキャラクター、語り手としての主人公、望。これは1人称小説なのだけれど、会話の中では関西弁でまくし立てるやや自己中で不器用な主人公が、語り手となる地の文では標準語を用いて、少し距離を置いた視点から出来事を語るのですよ。そして、語り手の部分でも、時折、感情が出てしまうような場面では関西弁が出てしまうというその絶妙な言葉の使い方が上手だなぁと。柴崎さんの作品は、こういう言葉の使い方がとにかく心地よいですね。

前作の「青空感傷ツアー」は正直やや期待はずれではあったのだけれど、今回は本当に良かったです♪次回作に期待ですね(もう出版されてるけど)。「きょうのできごと」みたいなテイストで映画化されたら見ちゃうかもね。

あと、収録されているもう1作の「エブリバディ・ラブズ・サンシャイン」は、失恋してから、一日の大半を眠って過ごすようになった主人公が半年ぶりに大学に行くという物語。こちらは、女性受けが良さそうな物語ではないでしょうか。リズム感あふれる文体で、こちらも面白い作品でした。

ちなみに、この本の解説を綿矢りさが書いているのですが、単に一読者の読書感想文の域を出ていないような気がしました。解説を書くというのはまた難しい仕事なので、若い書き手の方の書くものを読むのはそれはそれで面白いなぁと思います。

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