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2006年4月20日 (木)

「トリツカレ男」 いしいしんじ

「トリツカレ男」 いしいしんじ 新潮文庫

いしい作品はこれで3作目。前に読んだ「ぶらんこ乗り」と「麦ふみクーツェ」の2冊では、ひとつひとつのエピソードはとても好きなのだけれど、1つの物語として全体を見たときに、なにかが物足りないという印象でした。エピソード負けしてるとでも言うのでしょうか。しかし、それぞれのエピソードの面白さと、その暖かな語り口が心地よくて、文庫化するたびに、次回作が気になる次第。

ジュゼッペは何かに夢中になると深く没頭してしまい、とりつかれたようになってしまうので、村の人々からは「トリツカレ男」と呼ばれていた。しかも彼は、とりつかれたことを完全にマスターしてしまい、オペラにとりつかれれば見事な歌唱力を身につけ、三段跳びにとりつかれれば世界記録、探偵にとりつかれれば、一流の探偵術を身につけてしまうのであった。ある日、そんなジュゼッペがとりつかれてしまったのは、1人の風船売り少女ペチカ。ジュゼッペは彼女の笑顔を見ようと、必死になってそれまで見つつけた様々な特技を駆使して彼女を喜ばせようとするのだが・・・。というお話。

本当に素晴らしい物語でした。これまで読んだいしい作品の中では間違いなく1番よかったし、普通に物語としても、屈指の素晴らしさです。純粋な主人公がはじめて恋をして、ただひたすらに彼女を喜ばせようと奮闘する物語ですが、物語の暖かさと語り口の暖かさが相乗効果をなして、なんともいえない余韻を残す作品です。あと、翻訳された海外の童話のような独特の雰囲気がまた、物語の空気と非常によく合っていて、なんとなくノスタルジックな雰囲気を味わえるのもよかったです。あと、どことなく宮沢賢治のような味わいもあって、そこもお気に入り。

登場人物たちのキャラクターの素晴らしさ、胸にしみこむ数々の台詞、切ない展開を盛り込みつつ迎える限りなく幸せなラスト、短い中に沢山のものがぎゅっと凝縮された物語は、どこかで愛を叫ぶのよりもずっとずっと泣ける愛の物語かもしれません。

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コメント

またこちらにもお邪魔します。
ページの枚数のお陰もあるにせよ、それよりも、
優しい語り口調と、ジュゼッペの人柄と、
ジュゼッペが幸せになれるのか、幸せの後ろ姿を見送るのか。。。
その期待と不安で、最後まで一気に読んでしまい、
ジュゼッペにとりつかれた自分を発見しました。

投稿: 悠雅 | 2006年12月 1日 (金) 19時39分

コメント&TBありがとうございました!!
じゃんじゃんお邪魔しちゃってください。

>ジュゼッペにとりつかれた自分

まさに!
この作品の感想を書くにあたって、
ドンピシャリの表現ですね!

本当にさらっと読めるのに、
大作の感動映画を観たような暖かい気持ちになれる作品だと思います。
自分が好きで薦めた本を
気に入っていただけて、とても嬉しいです☆

投稿: ANDRE | 2006年12月 2日 (土) 01時57分

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