映画「Jの悲劇」
「Jの悲劇」 2004年 イギリス
イアン・マキューアンの小説「愛の続き」を映画にした作品です。原作の感想はコチラ
大学の教師をしている主人公があるとき恋人の彫刻家と原っぱでピクニックを楽しんでいると、目の前に気球が墜落してきます。気球の中に取り残された少年を救おうと、その場にいた人々が力を合わせて必死の救助を試みるのだが、最終的に、救助にあたった1人の男が命を落とすことに。主人公が男の死に罪悪感に悩まされていたある日、彼のもとに1本の電話がかかってくる。電話の相手は先の気球事故の際に一緒に救助にあたった男。全くの他人だった彼だが、それ以降、その男が執拗に主人公に付きまとうようになって・・・。という物語。原作と弱冠異なる部分もあるのだけれど、ストーリーなんかは割りとそのまんまでした。
以前原作の感想で、映画化について触れた際に、これを映画化したら、単なるサスペンス映画になってしまうのではないかという危惧を書いたのですが、予感的中、原作にあった面白さが全てカットされて、単なるストーカー映画になっていました。原作では主人公が段々と自分を見失っていく過程がとても上手く表現されているんですけど、この映画は最初から主人公がかなり精神的にやられているという演出がとられていて、カメラワークや音楽なんかが、終始不安定なのです。あと、原作はもっと心理学系の話が割りと色濃く展開されるんですけど、この映画だと本当に単なるストーカーにしか見えないので、かなりチープなストーリーだという印象を受けてしまいます。本当にもったいないです。ていうか、原作ではストーカー男がかなり冒頭で発する台詞を、映画では割と後のほうに持ってきてしまったことから、その部分が物語の核となるネタのようになってしまっているんですけど、決して、そういう主旨の原作ではなかったように思うんですよねぇ。
というわけで、原作を読んでいて、この作品の持つ本当の顔を知っている人が見れば、多少の期待はずれは付きまとうものの、それなりに見れるとは思うんですが、いきなり映画を見た人のほとんどは単なるB級サスペンスだと思うんじゃないでしょうか。そう思った人には是非原作を読んでいただきたいですね。マキューアンは決してB級サスペンスを書くような作家ではないですから!
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コメント
ANDREさん、こんにちは。
TBとコメントありがとうございました。
そうか…原作とは違う意味の作品になっていたのですね。
わたしは、B級サスペンスという風には感じず、
(上等なサスペンスとも思わないですが)
ストーカー物語とも、サスペンスとも思わないで、
「幸福な状況から急降下、思わぬ悲劇が待っていた」というお話としてだけ観てました。
これは、こんなお話なのかな、と、
特に大好きでもなければ落胆もなかったです。
原作の一番面白い部分を描かない映画化、ドラマ化には、
今まで嫌というほど出逢ってきたので、
わたしがこの作品をそこそこ楽しんだのとは別に、
ANDREさんが仰る意味はよくわかります。
これに限らず、
本当の物語の面白さを知るには、やはり原作を読む方がいいですね。
投稿: 悠雅 | 2006年10月14日 (土) 08時36分
原作モノの映画は自分の思いいれがあればあるほど
こだわりが出てしまいますよね。
この原作は、主人公の内面を描いていくような作品だったので
映像化するのは確かに難しそうで、
この映画はやれる限り最大の映画化をしていたとは思うんですけどね。
そう思うと、「高慢と偏見」(BBC)なんかは
原作を読んでいても大満足だったので
やっぱりよくできているなぁと思います。
投稿: ANDRE | 2006年10月14日 (土) 22時19分
ダニエル・クレイグを観たいというきっかけだったのに、観てしまえばリス・エヴァンスの不気味さに圧倒された私です
でも、記事を読んで、どうやら原作はもっと繊細な感じだということがわかりました。これは原作を読んでみたいなと思います!!
投稿: D | 2007年2月 6日 (火) 18時07分
>Dさん
コメントどうもありがとうございます!
映画は完全にストーカーに追われるサスペンス映画と化してましたが、
原作はもうちょっと心理部分に深く踏み込んでいて、
なかなかオススメです。
でもこの原作を映像化するとなると、
この映画のようにしかできないと思うので、
仕方ないんだろうなぁと思ってます。
投稿: ANDRE | 2007年2月 7日 (水) 00時39分