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2006年5月26日 (金)

「ぐるぐるまわるすべり台」 中村航

「ぐるぐるまわるすべり台」 中村航 文春文庫

「リレキショ」についで文庫化2作目。「蹴りたい背中」と「蛇にピアス」が受賞した近年最も有名な芥川賞のときに一緒に候補作になっていた作品です。受賞は逃しましたが、自分はこの作品のほうが好きですね。黄金比が作り出す永遠の螺旋をすべり落ちていく青春小説。

主人公の小林は大学に退学届けを出し、週3でやっていた塾講師のバイトを週6に増やすことにする。そんなとき、携帯のバンドメンバー募集の掲示板を見て、彼も、そこにメンバー募集の書き込みをする。黄金比が作る内に向かう永遠の螺旋をすべり落ちていくかのように、一人の青年の淡い青春の日々を、バンドメンバーの募集、塾での一人の登校拒否の生徒との交流、そして、ビートルズの名曲「ヘルタースケルター」とともに描いた作品。

とても軽い文体でテンポの良い作品でした。内容もぱっと見は軽いんだけれど、出てくるエピソードに全く無駄がなくて、いまどきの20代の若者の、「なんとなく」でも「何かしたい」というような心情を上手く切り取った作品だったと思います。うん、面白い。

この作品で、特に良いなぁと思ったのは、携帯の掲示板で募集して集まったメンバーが初顔合わせを前にメーリングリスト的に互いにメールでコミニュケーションを取る描写があるんですけど、短いメールの文章だけで、それぞれのキャラクターの個性がはっきりと表現されていて、このやりとりを読むと、なんだか登場人物たちに急に親近感がわいてしまいました。個人的にはドラムのちばくんが良かった。携帯電話のメールをここまで効果的に使った小説を読むのはもしかしたら初めてかもしれません。他にもそれぞれの登場人物たちの描き方がとても暖かくて、なんだか憎めない、ほんわかした中村航ワールドを構築している作品でした。「リレキショ」と比べて、確実に上手くなっているように思います。

<微妙にネタバレのため反転させてどうぞ>ラスト、納得のいく展開ではあるけれど、やっぱり、ちょっと淋しいです。ここでは描かれていないけど、ヨシモクに背中を押されて、そっとスタジオをのぞいたりして、で、皆に見つかっちゃって、「いや~、びっくりしましたよー」なんて言われてる、そんな近い未来があれば良いなぁなんて思いました

ちなみに同時収録の「月に吠える」は、まさにカップリング作。読めば分かります。

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