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2006年5月10日 (水)

映画「ヴェラ・ドレイク」

「ヴェラ・ドイレイク」 2005年 イギリス

「秘密と嘘」のマイク・リーが監督で、ベネチアの金獅子賞を受賞した作品。そのネーム・バリューだけで、イギリス好きの血が騒いで見てしまいました。

舞台は1950年代のイギリス。労働者階級の主婦ヴェラは上流家庭での家政婦の仕事をし、家族からも近所の人々からも慕われる女性。最近は娘の婚約話なんかも出るようになり、貧しいながらも暖かく幸せな毎日を過ごしていた。しかし、彼女には一つの秘密が。彼女は、望まない妊娠で困っている女性達のために、その堕胎を手伝っていた。中絶手術は法律で禁止されているが、困っている彼女達を助けてあげたいという一心で、自身は何の報酬も得ることなく、数十年間それを続けていた。しかし、あるとき、彼女が処置した女性の容態が急変し、その事実が明るみに。果たして、彼女の運命は?という物語

マイク・リーの演出の上手さがキラリと光る佳作でした。美男・美女ではない、どこにでもいる市井の人々を描いた作品で、演じている役者さんも演出も全てがあまりにもリアルで自然で、そして、暖かい作品でした。違法行為を行う主人公なのだけれど、心配を隠せない妊婦さんに向けられる、その屈託のない優しい眼差しの美しさは画面から溢れんばかりでした。そして、彼女をとりまく家族や親戚たちも、小さなやりとりしかしていないのに、なぜかひきつけられる演技。ラスト近くでは、ヴェラの夫の愛情の深さがまた胸にしみいるのだけれど、その前の1時間半くらいで描かれるあまりに自然でどこにでもありそうな家庭像があるからこそ、彼女の逮捕が衝撃であり、その夫の愛の深さが強調されるのかなぁなんて感じました。

ちょっと残念だったのは、主人公が何故法をおかして、危険と隣り合わせの中で、この仕事を続けたのかというのが、あまり描かれなかった点。このあたりは先日見た、「マザー・テレサ」なんかもそうだったのだけれど、もっと主人公の過去に迫った場面があってほしかったかなぁと。映画では描かれないけれど、その後の彼女は、きっとそれでもまた、多くの人を救ってあげたいという一心で同じことを繰り返すんじゃないかなぁなんて思います。そのときに、彼女の家族がこれまでどおりかそれ以上に暖かく彼女を迎え入れてくれることを望むばかり。

ところで、主演のイメルダ・スタウトンはアカデミー賞の主演女優賞を逃していますが、「ミリオンダラ・ベイビー」のヒラリー・スワンク(しかも2度目)よりも、この彼女のほうが比べ物にならないくらいの素晴らしい演技をみせていると思うのは自分だけでしょうか・・・。賞が全ての評価ってわけではないけど、うーん、もったいない。

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コメント

こんばんは。
またお邪魔したら、また同じ作品をご覧になっていたので、
喜んでTBしたら、TB先を間違えてしまいました。
落ち着きがなくてすみません。

確かに、ヴェラの過去は警部の一言に頷いただけ、でした。
どんな過去であろうと、彼女がそれで「助けられた」ことが、今の幸せな生活に繋がっているので、これ以上触れないでもいいかな、と女の立場では思いました。
それって本当は矛盾も抱えているから、黙ってておいてあげて、と思ってしまいました。

それも含め、無駄がない脚本、イメルダ以外のキャストもみなさん素晴らしく、特に娘の婚約者の彼に割り振られた台詞の意味と重要さ…
いい作品を観れたと思っています。

投稿: 悠雅 | 2006年5月13日 (土) 20時38分

>悠雅さん

コメント&TBありがとうございました!
TBはこちらで訂正いたしましたので、ご安心ください。

ヴェラの過去に対しての御意見、女性ならではの見解として
とても面白く拝見させていただきました。
やはりこういう問題は、男性には難しいです・・・。
もっと理解できるようにしなくてはとも思うのですけどね。
どうもありがとうございました。

投稿: ANDRE | 2006年5月14日 (日) 01時20分

>映画では描かれないけれど、その後の彼女は、きっとそれでもまた、多くの人を救ってあげたいという一心で同じことを繰り返すんじゃないか
最後のシーンの刑務所で、再犯の二人と立ち話をしているときに
刑務所を出たらまた同じことをする、って言ってなかったっけ?

わたしね、これアメリカのプレミアで見たんだけど
そのときマイク・リー以下キャスト数名も来てパネルトークしてたのね
で、スタウトンが
当時、こうして捕まった人たちはほとんど子どもを持つ母でした
そして、何度つかまってもやめることはありませんでした
っていってて、すごいぐっときた

だから、これは
>主人公が何故法をおかして、危険と隣り合わせの中で、この仕事を続けたのかというのが、あまり描かれなかった
主人公の過去がどうのって言うよりも社会状況や暴力をみていられない
<母性>が自分の娘みたいな子達を助けたくて
っていう文脈なんだと思うよ

>演じている役者さんも演出も全てがあまりにもリアルで自然で
逮捕される前後のダイニングテーブルのシーンは
台本も照明も無しで7時間かけて撮ったんだってさ
集中力に脱帽

投稿: halcan | 2006年5月31日 (水) 13時42分

・・・みていられない<母性>が自分の娘・・・
に訂正

投稿: halcan | 2006年5月31日 (水) 13時44分

あらら、
みていられない"母性"が自分の娘・・・
に訂正
なんで消えちゃうんだろ

投稿: | 2006年5月31日 (水) 13時45分

>halcan

コメントさんきゅーです。
書き込みミスはこちら側のサーバーの問題じゃないかな・・・。

パネルトークいいなぁ。
逮捕前のシーン、その状況で7時間かけて撮ったんだ!
何週間か経つけど、その場面はかなり鮮明に覚えてるよ。
かなりの迫力(?)があったね。

投稿: ANDRE | 2006年6月 1日 (木) 00時14分

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