「変身」 カフカ
「変身」 カフカ 白水uブックス
白水社から出ていたカフカ全集がuブックスで順次刊行されることになりました。80年代以降、新しい資料とともに新解釈が加えられた原典をもとに翻訳するシリーズのようです。「変身」は中1のときに読んだものの、グロいイメージばかりが強烈だったのと(その割にS・キングを愛読してたんですけど・・・)、読んだ翻訳が古い感じだったのとで、子供の自分にはそれほど面白みを感じることができませんでした。その後、何度か読み直そうかなとは思っていたものの、なかなか機会がなかったのですが、今回、uブックスに入るということで、カフカ作品を制覇してみようかなと思っています。
セールスマンのグレーゴル・ザムザが、ある朝、自分が巨大な虫になっていることに気がつく。ザムザ家はグレーゴルの両親と妹との4人暮らしだったが、彼が1人で一家の家計を養っているという状況。彼が虫になってしまったことで、働き手を失った家族は、はたしてどうするのか。そして、はじめは心配していた家族たちも、彼の存在を鬱陶しく感じ始め・・・。という有名な物語。
中学の頃の自分が恥ずかしくなるくらいに、無茶苦茶面白く読むことができました。翻訳も非常に読みやすいのでかなりオススメ。この作品で面白かったのは、「虫になる」という出来事そのものには、登場人物たちがそれほど驚きをみせないというところ。皆さん割とあっさりその事実を受け入れるんですね。しかし、この受け入れがあっさりしているだけに、元に戻る可能性を誰も信じることはなくて、主人公も家族も、すぐにこの事実をクールに受け止めるようになるのが、少し怖いくらいに印象に残りました。
訳者の解説でも少し書かれていたのだけれど、この作品、現代社会において、圧倒的なまでに強いメッセージを投げかけているように思います。読んでいて、途中くらいから感じ始めたのだけれど、「介護問題」、「引きこもり問題」そのものではないですか!虫になるというと、極めて不条理な印象を受けるのだけれど、ここで描かれているできごとそのものは、本当にリアル。そして、途中から読者の目線が家族側に回ること部分がかなり多くなって、ラストの妙にすがすがしい場面がまた、皮肉的とでもいうのか、なんともいえない気分にさせてくれます。このラストだけでなく、ときにユーモアさえ感じさせる表現が作品全体に多く登場して、悲哀に満ちた物語であるはずなのに、非常に楽しんで読めてしまうところもとても印象的でした。何せよ、感じるのは、90年前に20代の作家が書いた作品と思うと、ボキャ貧だけれど、やっぱりカフカはすごいなぁということですね。
ラスト近く、妹のヴァイオリン演奏に心動かされるシーンは、非常に強く胸に迫ってきました。なんとなくメモ。あと、関係ないけど、この本、カフカの略歴の解説もなかなか面白かったです。
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