« 2006年5月 | トップページ | 2006年7月 »

2006年6月

2006年6月30日 (金)

映画「青い棘」

「青い棘」 2005年 ドイツ

1920年代に実際に起こり、当時ドイツ中を震撼させた事件を映画化した作品。主演は、「グッバイ・レーニン!」や「ベルリン、僕らの革命」のダニエル・ブリュール。

舞台は1927年6月。学校の親友であるギュンターとパウルは、人生について語りあい、人生で最も幸せな時間はただの一度きりとして、愛を感じなくなった瞬間には、その愛を奪ったものを殺し、自らも自殺しようと「自殺クラブ」のルールを作る。そんな2人は週末をギュンターの別荘で過ごしていた。そこでは友人達が集い、酒にタバコにドラッグにとパーティが行われていた。パウルはギュンターの妹ヒルデに恋心をいだくが、彼女は複数の男性との自由恋愛を楽しむタイプの少女であり、そのときの彼女はレストランランで働くハンスという男が一番気になる存在であった。しかし、このハンスという男、実はギュンター(ゲイ)の恋人でもあった。パウル、ギュンター、ヒルデ、ハンスの4人の恋愛のもつれはやがて悲劇に向かって走り始める・・・。という物語。

ギムナジウム、上流階級の10代の少年少女たち、週末の湖畔の別荘、酒、たばこ、ドラッグ、銃、占い、詩の朗読、美男美女が集う夜毎のパーティーと、これでもかというくらいに20世紀初頭の上流階級の若者たちの姿を雰囲気たっぷりに描いた作品。そもそもの映像と音楽がどの場面を切り取っても、絵になるような美しさがあって、ちょっと翳りのある退廃的で、純粋すぎる思春期の若者達の姿がまさにイメージどおりなのが、なんとも言えないくらいに美しい。

10代の若者のなんとも危うい精神状態が生んだ悲劇を描く作品ということで、内容はかなり暗いし、観終わった後もドンヨリとした空気で終わるんですが、この作品はとにかく「雰囲気」が良い映画なので、内容云々よりも、その空気を味わえただけでも見て良かったと思える作品です。ストーリーのほうは、悲劇に至るまでの過程を丁寧に描くこともなく、淡々と終わってしまった感じで、本当に雰囲気ばかりが印象的な作品でした。

主人公はパウルということになっていますが、彼は単なる傍観者にすぎなくて、真の主人公はギュンターとヒルデの兄妹。ちょっと世界を上から視点で見てしまい、何か人生を悟ったかたのような錯覚を覚えた青年ギュンター。まだまだ10代の若者じゃないですか。もっと広い世の中に出て行って、色々なことを見てみようよと語りかけたくなります。彼らの世界はあんなにも狭いあまりにも内輪な集まりだけなのだから。まぁ、彼らがもう少し成長する頃にはナチスが台頭するドイツになってしまうわけですが・・・。一方でヒルデは自由恋愛に走る少女ですが、彼女はまだ本当の愛を知らない少女というだけ。だって年齢だって15か16かそのくらいのはずですよ。両親が側にいない彼女、恐らくとても淋しい少女のはずです。

登場人物の中で最も印象的だったのは、ヒルデという絶対的な存在がいるのを承知の上で、それでもパウルに近づこうとする少女エリ。この物語の中では本当に隅に存在しただけの彼女だけれど、最後にテロップで出るその後の彼らの記述において、エリもまた、生涯独身を通したという事実が、妙に心に残りました。。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年6月28日 (水)

「重力ピエロ」 伊坂幸太郎

「重力ピエロ」 伊坂幸太郎 新潮文庫

伊坂氏が70年代生まれの作家として初めて直木賞候補にあがった作品(ちなみにこのときの受賞作は石田氏の「4TEEN」)。文庫化するたびに追いかけているので、伊坂作品はこれで4作目です。

DNA鑑定を行う会社に務める主人公泉水(いずみ)とその弟春(はる)を中心に物語りは進む。春は母親が強姦されてできた子供だったが、泉水の父親は妻にその子供を生ませることを決意する。そんな境遇で育った兄弟が、市内で多発する放火事件とイタズラの落書きとの相関関係に気づき、その謎を調査することに。自らの生い立ちに苦悩する弟とそんな彼を本当の家族として暖かく受け入れる兄と父を描いた家族の物語。

正直、そこまでのれませんでした。それは恐らく、扱う題材の重さが原因です。伊坂氏の書く物語の上手さは今回も本当に素晴らしくて、一つの台詞も無駄にせず、全てのエピソードに意味を持たせるその文章はもはや天才的だと思います。そして、いつも通りに魅力溢れる登場人物たちがまた良い味を出しています。とりわけ、この物語のキーパーソンである春君のキャラクターがとても良いのです。ときどき描かれる彼の苦悩や、普段は見せない影の部分、自らの生い立ちを責めるかのようにして行う正義感ある行動、そして、かわいい弟っぷりがなんともいえないのです。しかし、やはり、暗い。どんなに伊坂氏の文が上手くても、この根本的な題材の重さが自分にはちょっとつらかったです。しかし、この重さがあるからこそ、最後の父親の台詞がずっしりと効いてくるのも確かですけが・・・。

それにしても伊坂作品の登場人物っていつもインテリな会話を楽しんでますよね。こういう空気、自分は結構好きです。

伊坂ファンとしては、作中にしばしば現われる他の作品とのリンクが色々と楽しめたのは嬉しかったですね。特に「ラッシュライフ」の黒澤氏が再登場してたり、カカシの話がでてきたりするのはやっぱり嬉しいものです。伊坂氏の作品ではないけれど、S・キングの「シャイニング」に触れてる場面も印象的でした。

現時点での伊坂作品好き度ランキング。オーデュボン=ラッシュライフ>陽気なギャング>重力ピエロ。といった感じですかね。最初に読んだ上位2作品は本当にインパクトが強い作品だったので、それを越える驚きと感動を期待して次回作の文庫化を待っています。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006年6月27日 (火)

映画「オズの魔法使」

「オズの魔法使」 1939年 アメリカ

初めて見たのは、小学校低学年のときにテレビで放送されてたのを見たときだと思います。それ以降、テレビで放送するのを何度か見たり、学校の授業で見たりはしたものの、通して見たのはかなり久しぶり。90年代前半くらいまでは、普通に地上波で放送されたりしてたと思うんですけど、最近、こういう名作は滅多に放送されなくなりましたね。残念です。

叔父、叔母夫妻のもとで育てられているドロシーは、ある日、近所に住むおばさんが愛犬トトを苛めると涙で叔父や叔母、農園の使用人らに訴えるも、聞き入れてもらえず、悩みの無い幸せな国を夢見て歌を口ずさむ(かの名曲「over the rainbow」です)。その後、家出を決意したドロシーだったが、偶然立ち寄った怪しげな占い師に叔母が病気になったから家に戻った方が良いと告げられ、その言葉を信じて彼女は家に戻る。しかし、そんな折、巨大竜巻が現われる。家のものは皆地下室に避難したのだが、遅れて戻ってきたドロシーとトトは、家ごと、竜巻に吹き飛ばされてしまう。こうしてドロシーはオズの国にたどりつき、家に帰る方法を求めて、脳みそが欲しいカカシ、心が欲しいブリキ男、勇気が欲しいライオンと知り合い、皆で大魔法使いオズに会いに旅に出るという物語。

約70年前に製作されたというのが信じられないくらいに、色あせない輝きを持った作品です。とりわけ、現実の世界をモノクロで、オズの国をカラーで描くのですが、オズの国の色鮮やかさはため息もの。今から見れば、確かにチープさはある映像ですが(特にまんまセットなところとか)、当時の最先端の技術をこれでもかというくらいに駆使して、「オズの国」を再現しようとしたその努力が溢れんばかりに伝わってくる映画です。

この映画、原作と比べてみると、割と違う点が沢山あるのですが、その相違点が全て、映画の持つ強いメッセージ性につながってくるあたり、製作者たちの作品に対する思いが伝わってくる変更なのだと思います。とりわけ、冒頭のカンザスでのシーンを長く描いて、さらには、オズの国で出会う人々を皆カンザスの住民との2役にすることで、ドロシーが最後に言う「There's no place like home」の重みが増してくるわけです。また、原作では、魔女を倒して、オズが気球に乗って去ってしまうくだりはまだまだ中盤の山場。その後、良い魔女のもとに向かうために、生まれ変わったメンバーで旅に出るくだりがあるのですが、映画ではその部分をごっそりカット。そうすることで、この映画の「アイデンティティの発見」という大きなテーマが際立ったわけです。

カカシもブリキもライオンも、自分が欠いていると思っているものを最初から持ち合わせているにもかかわらず、それに気づいていません。逆にドロシーという少女は彼らが欲しいと望む全てを持っています。危険な目にあえば、機転を働かせるし、感情表現豊かだし、自分が納得しなれば、どんな強いものにでも立ち向かっていきます。1930年代という時代背景を考えると、自分の持つ潜在的な能力に自信を持てずウジウジしている男たちを強気の少女が導いていくという設定もまた、女性の自立、解放などを強く訴える要素を感じさせます。

それにしても、西の魔女の怖いこと。彼女の恐さは、本当に70年の時を経ても全く色あせていません。そしてまた、良い魔女グリンダが当時50歳を越えているとはとうてい思えないほどの美しさを持つ女優さんなのです。この2人の魔女の魅力は、彼女らを主人公にしたミュージカルが、近年ブロードウェーで大ヒットしていることからも明らか。

この映画、確かに名作なんですけど、本国のアメリカでは未だに根強い人気を持つ作品のようで、どの世代の人でも子供時代にこの映画を見て育つと言っても過言ではないような状況のようです。この背景にはやはり、この作品が、原作、映画ともに純アメリカ産の数少ないファタンジー作品であるという事実があるように思います。今も昔も、ナルニアにしても、指輪にしても、ハリーにしてもイギリスの作品ですし、映画化もされた「はてしない物語」はドイツ作品ですし、純アメリカ産の児童文学&映画の傑作の第1号と言っても過言ではないのかもしれません。「there's no place like home」の「home」は彼らにとって、アメリカという国そのものなのかもしれないなぁと思ってみたり。

あと、ジュディ・ガーランドはこのときが一番良い気がする。

最後に、最近知って驚いたのですが、この映画の監督、同じ年に「風とともに去りぬ」を監督しています。とんでもない才能を持った人だったに違いありません。

| | コメント (2) | トラックバック (2)

2006年6月22日 (木)

「銃」 中村文則

「銃」 中村文則 新潮文庫

昨年、「土の中の子供」で芥川賞を受賞した中村氏のデビュー作。

大学生西川はある日、川原で倒れている男の傍らに落ちていた銃を拾う。彼は施設で育ち、大学に入ってからも、合コンの達人として知られ、女遊びにふけってはいても、実際には表面的なつきあいをするだけで、人間的な感情をほとんど持ち合わせていなかった。そんな彼が、圧倒的な存在感を持つ銃に魅せられていく過程を主人公の独白形式で描く作品。

うーん、重い。

主人公の性格がとにかく暗く重いので、彼の独白で進むこの物語はひたすらにどんよりとしていました。作者のデビュー作ということですが、やはり荒削りな部分も目立って、妙にわざとらしい文章表現が気になる箇所も多数ありました。とりわけ、主人公が他人に興味を持たないことを表すために、人名をカタカナ表記にしたり、よく知っている人のことを単に「男」と呼ぶなど、確かに伝わってくるんですけど、ちょっとわざとらしいというか、くどいというか、そんな気がしました。警察のくだりとかも。

もっと主人公の設定が「普通の大学生」で、彼の精神が崩壊していくような内容だったら、もう少し好きになれたかもしれないのですが、最初から主人公の性格に難有りなので、銃を手にしたことによる彼の変化というものが、なかなか伝わりづらかったように思います。あと、銃を手にしたことによって、初めて人間的な感情が芽生えるという視点は確かに面白いし、上手なんですけど、ラストにかけてのどうしようもない重さは、確実に読み手を選ぶ作品だと感じました。しかしながら、ラストの主人公の漏らす声が、これまで奥深くに眠っていた彼の心の声がにじみ出たようで、とても切なかったのは印象的でした。

この作品、作者が今の自分と同じ歳のときに発表した作品で、若者のこういう心理も理解できないわけではないけれど、もう少し明るく楽しい日常のほうが僕は好きですね。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年6月21日 (水)

「夏休み」 中村航

「夏休み」 中村航 河出文庫

「ぐるぐるまわるすべり台」に続いてまた中村作品が文庫化したので、早速読んでみました。

主人公の「僕」は、マンションの抽選に当たり、妻のユキと彼女の「ママ」と3人で暮らし始める。ある日、ユキの友人の舞子さんの吉田夫妻の夫が急に家出をしていなくなり、彼を探しにユキと舞子さんも家出を決行。仕事の関係で主人公の僕も遅れて家出をするのだが・・・。という物語。

旅をして、友人と語らって、みんなでゲームしてという「夏休み」を過ごす大人たちの物語。離婚をかけて真剣にゲームで対戦したり、なんとなくゆるーい感じで過ごす大人たちの姿はなかなか心地よかったです。映画「スタンド・バイ・ミー」のような少年達のひと夏の冒険を現代の大人たちが行うといった雰囲気で、なんとも言えないすがすがしさのある夏っぽい作品でした。登場人物たちそれぞれの会話も妙に印象に残るものが多かったです。

でも作品としては、「ぐるぐるまわる~」のほうが好きかな・・・。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年6月20日 (火)

映画「イン・ハー・シューズ」

「イン・ハー・シューズ」 2005年 アメリカ

キャメロン・ディアスの新境地などと話題になった作品。あまり良い評判を聞かないのでちょっと心配ではあったんですけど、気になって見てみました。

幼い頃に事故で母を失い、自分の実娘ばかりを可愛がる継母に育てれたローズとマギーの姉妹の物語。妹マギーは、抜群のスタイルと美貌を持ち合わせ、男選びには何の問題もないけれど、学習障害を持ち、自分自身に自信が持てずに、職を転々としている。一方で、姉のローズは弁護士としてのキャリアを持ちつつも容姿に自信がなくいつも恋には奥手で、買い物でストレスを発散する毎日。自分のアパートに入り浸られ、妹にいつもふりまわされっぱなしのローズは、マギーが職につけるようにと色々と世話を焼くが、ふとした問題から、2人は大喧嘩、マギーは彼女のアパートを飛び出す。やがてマギーは一人の老女と出会い、我侭放題だった自分の人生を見つめなおすようになるが・・・。180度異なる2人の姉妹が見つける自分の人生とは?という物語。

言われてるほど悪い映画ではなかったと思います。強いて言えば、ちょっと長い。もう少しコンパクトにまとめれば評価も、もっと高かったかもしれません。2人の姉妹、冬のフィラデルフィアと常夏のフロリダ、人生に迷う若者たちと達観する老人たちなどなど、様々な要素が微妙に入組んで対比されていて、それを「靴」が結んでいくというあたり、なかなかよくできた脚本だと思いました。

キャスティングでは、とりわけ、彼女達に大きな影響を与える老女シャーリー・マクレーンが大女優の貫禄たっぷりで、見事な存在感を見せていました。キャメロン・ディアスはシリアスな役に初挑戦ということでしたが、やはり彼女には笑顔が似合います。老教授の前で詩を朗読する場面で見せる改心の笑みは彼女の魅力全開でした。この場面、映画としてもかなり良い出来で、とても印象深いシーンです。姉役のトニ・コレットは、もしかしたらキャメロンよりも熱演だったかもしれません。主役は彼女と思わせるくらいの勢いを感じました。

うちは男兄弟なので、姉妹間のゴタゴタはよく分かりませんが、180度違う性格という点では恐らく共通しています。時に分かり合えなくて、相手を鬱陶しいと思うようなこともあるけれど、子供時代の様々な思い出を共有してきたし、どこか無言で通じあう部分があり、やはり、大切な存在だったりするわけです。自分に兄弟、姉妹がいる人は色々と思うところのある作品かもしれません。

タイトルの「in her shoes」は掛詞になっていて、文字通りの「彼女の靴を履いて」(これも映画では重要な要素)という意外に、「彼女の身になって考える」という意味を持つ熟語だったりします。2人姉妹、そして、シャーリー・マクレーン演じるエラの3人が他人の気持ちを理解しようとすることで初めて気づく物語という意味のタイトルなのでしょう。うん、なかなか良いじゃないですか。そして、このタイトルにあわせるかのように、「靴」や「足元」を生かした様々な演出が心憎かったです。

ちょっと退屈な場面があったり、2人の和解までの描き方が甘かったり、確かにマイナス面も感じられる映画ではあるんですけど、良い部分も沢山ある映画だと思います。ベタベタなんですけど「プラスA」のシーンは感動しましたよ・・・。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006年6月18日 (日)

銀河ヒッチハイク・ガイド

小説「銀河ヒッチハイク・ガイド」&「宇宙の果てのレストラン」 河出文庫

TVドラマ「銀河ヒッチハイク・ガイド」 1980年 イギリス

映画「銀河ヒッチハイク・ガイド」 2005年 アメリカ

この一ヶ月くらいにわたって、小説版→ドラマ版→映画版と製作された順に制覇しました。本当は一番のオリジナルのラジオ版があるんですけど、残念ながらそちらは未聴。CD出てるみたいなので、そちらも聞いてみたいですね。全てのバージョンに原作者であるダグラス・アダムズがかかわっているので、どれもが「オリジナル」と呼べるわけですが、それぞれに微妙に違いがあるのが面白いです。

物語は、主人公アーサーの自宅の真上をバイパスが通過することになったということで、立ち退きを宣告され、強引に工事が開始されるのを必死になって食い止めるところから始まる。そんな折、突如地球上空に宇宙船が出現、曰く、銀河バイパスが通過することになったので、これから地球を破壊するとのこと。突如訪れた危機だったが、アーサーは実は宇宙人だった親友のフォードに連れられて、破壊直前に、宇宙船へのヒッチハイクに成功。こうして彼らの宇宙を舞台にした大冒険が始まる。その後、彼らは宇宙大統領ゼイフォードと彼女にナンパされた地球人の女性、そして、鬱ロボットのマーヴィンらと出会い、「人生、宇宙、すべての答え」とはなにか?という究極の問いを求める大冒険が始まるという物語。

シュールというか、いかにもイギリス的というか、独特の笑いのセンスが最初はあまり面白く感じられないのだけれど、いつの間にか、それにはまってしまっている自分がいました。全体的に、脱力系のネタが多くて、「これだけ盛り上げておいて、それだけ?」とか、「それだけのことに、こんなにエネルギー費やすの?」とか、「バカ全快なのに、無茶苦茶真剣!?」みたいな笑いが多い作品。それでいて、とても頭の良い人が作ったに違いない、よくできたプロット。これは、原作やドラマのほうが強く感じられることだけれど、普通にストーリーもよくできてます。「42」が出てくる場面や、その後の、「地球」に関しての展開はかなり面白かったです。

あと作品全体に漂う、鬱っぽい感じが特徴的。しかも後半に進めば進むほどエスカレートするんですけど、映画版では、ラストを軽くまとめてしまった感があって、ちょっと残念。原作2巻やドラマでのラストに出てくるどうしようもないほどの脱力感こそがこの作品の真骨頂だと思います。

地球が破壊され、ヴォゴン人の船から脱出し、ゼイフォードの船に拾われるまでの展開はどのバージョンでも同じですが、映画版はその後、オリジナルのエピソードを加えて、かなり違ったストーリー展開を見せます。終盤になって、再び原作やドラマと合流しそうになるんですけど、ラストはまるで違うものになっていました。映画版のラストは個人的には完全に「ナシ」です。原作序盤のやや冗長な部分をコンパクトにまとめて、テンポよく見せる映画版なんですけど、時間の制約があるためか、最後のほうが駆け足になってしまい、説明不足感も否めず、オリジナルエピソードも微妙に消化不良な印象です。原作読まないと良く分からないんじゃないかと思うんですけど、どうなんでしょうか。映画ではヴォゴン人が最後まで大活躍なのがかなり意外。あと、編みぐるみが無茶苦茶可愛いです。

映画版の、アーサー、「ラブ・アクチュアリー」にも出てましたけど、「The Office」にも出てましたね!!さらに、マーヴィンの声がアラン・リックマン。やたらと豪華です。あと、映画版、タイトルバックのBGMがドラマと同じでした!これは嬉しいサービス。そして、ドラマ版の正統な映画化だということのアピールでしょうね。映画オリジナルのオープニングのミュージカルは何気にツボ。

一方、ドラマ版です。こちらは、作られた時代が古いこともあって、いかにもセットな宇宙船やとってもチープな特撮や宇宙人&ロボットなんですけど、洗練された映画版よりも、このチープな雰囲気の方が作品の空気と合ってる様な気がしました。ドラマ版のほうが、時間かけてるし、原作の2巻目までストーリーをカバーしてるので(映画は1巻目のみ)、よりディープに作品世界にひたれます。原作の2巻目にあたる部分のほうがストーリーもネタも面白いですし。あと、無限不可能性ドライブの説明とかが映画ではかなり簡単にされてるのが、ドラマのほうではしっかり説明して、そして、小説同様に、「???」な感じになってましたね・・・。

あと、肝心の「ヒッチハイクガイド」なんですけど、映画のほうのCGを駆使して、作った映像もいいんですけど、ドラマの手書きアニメーションで作ったと思われる映像のほうが何気に良かったと思います。普通にこっちのほうが面白い。

小説版は全5巻が刊行中ということで、今3巻目を読んでるんですけど、全巻読破した時点でまた感想を書こうと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年6月14日 (水)

映画「カーズ」

「カーズ」 2006 アメリカ

ピクサー×ディズニーの最新作。日本公開は7月なので、ちょっとだけ早く試写会で観る事ができました。

物語の舞台は、人間が存在せず、擬人化した車たちが暮らす世界。主人公のマックイーンはレーシングカーで、初参戦で初優勝を目指している都会育ちのクールな人気新人レーサー。そんな中、トレーラーで移動中のマックイーンはふとしたはずみで一人砂漠の真ん中に取り残されてしまい、そこで、地図から消え去った忘れられた町ラジエーター・スプリングスにたどり着く。古きよきアメリカを感じさせるさびれた田舎町には、一癖も二癖もある田舎モノの車たちがノンビリと暮らしていて、それまでレースに優勝してスターになることを夢みるだけだったマックイーンは、自分の知らない暖かなスローライフと出会い、少しずつ変わっていく。という物語。THEアメリカというようなくらいに無茶苦茶アメリカンなストーリーで(良い意味で)、アメリカの中高年なんかにはかなり受けが良いのではないかと思われるような内容でした。アメリカでは記録的ヒットになるかもしれませんね。あとは、各キャラクターの個性がまた恐ろしいまでに上手くて、ちょっとだけしか出ない脇役を使って笑いを持ってくあたりかなり感心しました。

この映画、何がすごいって、一番の感動はCGの素晴らしさ。先日、ようやくピクサーとディズニーの合併が決まりましたが、この作品を制作している段階では、この作品で契約が終了して次回作以降の配給が未定になっていたので、プロモーション目的か!?と思わせるような、特に意味も無くCGの素晴らしさをこれでもかというくらいに見せ付けるシーンがチラホラ。擬人化されてはいるものの、車も質感の再現が神業級で、目や口があるのに、ホンモノの車の実写映像に合成しているんじゃないかと思ってしまうような仕上がりです。そして、自然をCGで描くことにかけては作品ごとにレベルが上がっていて、今作では、画面のあまりの美しさに、もはやこれがCGであることなど忘れてしまって(これって結構スゴイことだと思う)、普通に実写映画を見ているような感覚にまでさせてくれるような素晴らしさがありました。ピクサー、本当にスゴイぞ!

車のキャラクターという設定そのものが、あまりにも大量のツッコミ要素を持っているんですけど、それを突っ込む隙を与えないくらいに、一気に作品世界に引き込むスピード感溢れるオープニングがなかなか印象に残る作品。そして、当初はどうなのかと思っていた車キャラクターたちも実に表情豊かで可愛く描かれていて、世の中にカーズグッズが溢れるのも時間の問題ではないかというくらいに商品展開しやすそうな作品でした。GUIDOグッズ欲しいなぁ。MATERも味があって見てるうちに好きになってきたし。

まるで桃源郷のような、美しい風景の中で暮らす暖かい人々に囲まれてスローライフを謳歌する主人公が、それまでの生き方を問いただすというテーマはピクサー作品としては新しい試み。今回はジョン・ラセター監督・脚本ということもあり、トイ・ストーリーのように、友情に重きを置いた展開もなかなか面白かったです。会場全体が笑いに包まれるようなシーンがチラホラあったり、ジーンとせたり、ハラハラさせたりと見所満載なんですけど、中盤の、暖かいんだけど作品全体を包み込む寂寥感が切ない映画でもありました。ピクサーは相変わらずこういう表現が上手いです。しかし、そのために2時間という割と長い上映時間の中盤がまったりと展開するのでやや中だるみを感じさせたのが残念。最初と最後のスピード感でなんとか持ったというイメージです。

ちなみにこの映画、エンドクレジットが何気にかなり面白いです。ありえないくらいのサプライズが待ってます。そして大爆笑です。こういうファンサービスは嬉しいです♪みんな大スターなのに、その気前の良さにビックリ!!吹替えでもちゃんとやってるんですかねぇ。大スターといえば、レーシング界の大スターも出演してましたね。これは本当に驚いた!

これまでのピクサー作品、自分としては1位トイ・ストーリー2、2位モンスターズ・インク、3位トイ・ストーリー、4位カーズといったところでしょうか。ちなみに前作「インクレディブル」は自分としては「つまらない」領域の作品で、ピクサー外部からの持ち込み企画でストーリー作りの段階からかなり揉めて製作されたと聞いたときはなるほどと納得してしまったくらいです。今回は、ピクサーの元祖ともいうべき、ジョン・ラセターの脚本・監督ということで、ジブリでいう宮崎氏が久々に直接手がけたようなワクワク感がありました。そして、期待は裏切られなかったですね。しかし、トイ・ストーリーシリーズに見られた奥深いテーマが今回は見られなかったり、モンスターズ・インクの持つ究極的なまでの暖かさも感じられず、娯楽作品としては一級品だけれど、ピクサー作品にはもっと期待したいというのが本音です。

ところで、ピクサーといえば同時上映の短編も楽しみの一つですが、今回の「One Man Band」は過去最高傑作です!!本当に面白かった!これで会場が大いに盛り上がって、本編への期待を一気に盛り上げてくれました。むしろ本編よりも印象深いくらいです。

次回作「ラタトゥイユ」、なんだか妙な邦題がついてましたね。ピクサー作品でオリジナル邦題がつくのは初めてですよね。あ、そうか、次回からはピクサー作品もオリジナルのディズニー作品にカウントされるんでしたっけ?

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2006年6月12日 (月)

映画「Mr. & Mrs. スミス」

「Mr. & Mrs. スミス」 2005年 アメリカ

記憶に新しい大ヒット作。遅ればせながら、DVD借りてきて見ました。

ジョンとジェーンのスミス夫妻は、一見すると倦怠期を迎えてはいるものの極普通の共働き夫婦。しかし、2人はお互いに決して知られてはならない秘密を持っていた。2人とも違う組織に所属するプロの殺し屋だったのだ。ひょんなことから、お互いの正体を知ってしまった2人は、組織からの指示で相手を暗殺しなくてはいけなくなってしまう。こうして2人の激しいバトルがスタートするが・・・という物語。内容なんかあってないようなもので、単なる大騒ぎお祭りアクションムービーなんですけど、設定も面白いし、これを機に本当にラブラブになってしまったブラピ&ジョリーの大スター2人のはっちゃけっぷりが楽しめる作品。

この映画、序盤が妙にテンポが悪いです。変に凝ったスタイリッシュな映像を撮ろうとして、逆に分かりづらくなってるような印象。2人が実は殺し屋だったってのは、それこそこの映画のウリで、宣伝などでも散々やってるわけで、それを明かすまでにここまで焦らす必要性はないのではないかと思いました。中盤以降は、派手なアクションで一気に見せてしまうんですけど、このアクションもここまでの映画なんだから、もっともっと派手にぶっ飛ばしても良いくらいではないでしょうか。カーチェイスを派手にするとか。でもって、もっとコメディな部分はコメディに徹したほうが楽しめたと思います。オシャレな会話も、なとなく中途半端。全体的に、主演2人がここまでやってくれたのだから、もっと面白くできそうなのに、中途半端に終わってしまった感が強かったです。ラストも普通に終わってしまって、なんかヒネリがあると嬉しかったかなぁと思います。単にこちらの期待が大きかっただけなのかもしれませんが・・・。全体的に何をやらせてもジェーンの方が強いってのが何気に面白かったですけどね。

ジェーンがワインをつかんでしまうシーンがお気に入りです♪

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年6月 9日 (金)

「日曜日たち」 吉田修一

「日曜日たち」 吉田修一 講談社文庫

吉田作品は「パレード」がとても良かったので、なんとなく気になってるんですけど、その後、なかなか良い作品に巡り合いませんねぇ。今回も期待したんですけどちょっと物足りない感じ。

東京に暮らす色々な人たちの日曜日にまつわるできごとを描いた連作短編集で、全ての作品に、謎の小学生くらいの兄弟が登場するのが共通点。全てを通して読むと、この兄弟の物語も完結するというスタイルになっているんですけど、基本的には、各作品は単独で完結しています。

現代人のかかえる悩みや、夜の世界のできごとを描く作品がほとんどだったんですけど、この手の作品は重松氏や石田氏のほうが上手いなぁということを改めて実感しました。この作者特有の視点の描き方(3人称なんだけど、視点は主人公みたいな)が苦手なのか、何故なのかははっきりとしないのですが、何かが物足りないです。あと、ラストの余韻の残し方があまり好みではないというのも一つかな。

「パレード」は、視点が変わることで物語世界がどんどん変化していくスリルを味わせてくれるような作品だったんですけどねぇ。短編よりも長編の方が面白いのかなぁ。でも「パークライフ」もどちらとも雰囲気が違う作品でしたよね。どの作品にも共通するのはリアルな現代社会を描こうとする点かもしれないけれど、それだったら自分は重松氏のほうが好きです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年6月 8日 (木)

映画「ゴーストワールド」

「ゴーストワールド」 2000年 アメリカ

先日見た「チアーズ!」とは対極をなす内容の女の子の青春を描く作品です。かなり面白かったです!今年見た映画の中でも1,2位を争うのでは?

主人公イーニドは、斜に構えて世の中を見る少女で、クラスメイトの輪から外れたところで親友のレベッカと一緒に毒舌大会を繰り広げていた。高校を卒業した夏、2人は一緒に暮らす約束をしつつも、次の進路もまだ決まらないまま、美術の補講を受けながら、ダラダラと近所のダイナーで時間をつぶしては、さえない男友達のジョシュをからかう日々を過ごしていた。ある日、2人は新聞の出会い欄を見て、からかってやろうと1人の男性をダイナーに呼び寄せて遠くから観察することに。店にやってきたのは、どうみても冴えない一人の中年男性で、2人は彼がどんな生活をしているのかが気になり、そのまま尾行を続け、やがて、イーニドは古いブルース音楽オタクのその中年男性シーモアのことが気になって仕方なくなってしまう。レベッカはそんな彼女に呆れ果て、一人でカフェでの働き口を見つけ新しい生活に向けて動き始める。どんどんすれ違っていくイーニドとレベッカ。果たしてイーニドは自分の進む道を見つけることができるのだろか・・・。という物語。

イーニドは、「チアーズ!」に出てくるような、いかにも青春してます!というような高校生を見れば「ガキっぽくて相手にしていられない」と思い、自分はクラスメイトたちとは違う「特別な存在」なのだと信じて疑わないような女の子。クラスメートも、流行の音楽も、「将来のために頑張ること」も、何もかもが子供っぽく感じるし、ダサい生き方にしか感じられず、いつも一歩上に立ったような視点で世の中を眺めては、あれやこれやと文句を言ったり、バカにしたり。しかし、彼女が一番ダサくて嫌いなのは恐らく自分自身。進路を決めなくてはいけないのも分かっているし、一緒に暮らそうといってくるレベッカは大切な友達だし、描いた絵が褒められれば嬉しいし、誰よりも可愛がってくれる父親のことも大好きに違いないのだけれど、そんな自分を受けれいれることができなくて、気づけば悪態ばかりついてしまう。頑張って髪型も色々と変えてみるし、色々な洋服もきてみる。音楽もジャンルを問わずかけてみる。一生懸命に「今」の自分を探す。これほどまでに不器用な少女をここまで正面から描いた作品もそう無いと思います。

結局、彼女は、シーモアもレベッカも自分の手の届く場所にいるときには素直に大好きな存在として認めることができるのだけれど、就職をして新しい生活を見つけたり、恋人を作ったりすると、皆が自分から遠く離れてしまうような気がしてしまい、さらに、不器用だから、ついつい悪態をついてしまって、さらに溝を深めてしまいます。だからといって、相手がぐっと距離を縮めてくると、今度は怖くなって突き放してしまったりして、そういう必死になって「自分」を探している姿が本当に印象深くて、彼女が部屋で号泣する場面は本当に切なくて、胸にぐっと迫ってきました。結局、これまでの人生で、強がって生きてこられたのは「学校」とか「女子高生」という枠の中にいたからで、いざ広い大海に出たときに、道を見失ってしまった、井の中の蛙なのだと思います。ラスト、突然、ファンタジー的にラストを迎えるのだけれど、果たして彼女の未来はどこにあるんでしょうか。いかようにでも判断できるラストシーンなのだけれど、自分はとてもとても悲しい結末のように感じました。あなたは魅力にあふれた女の子なんだよと声かをかけてあげたくなります。あなたはまだ18歳。ガキっぽくたって誰も文句は言わないんだよ。

この映画を見て、「わたしもああいう感じだったから、本当に共感できた~。この映画大好き!!」なんて言う人も沢山いるのではないかと思うんだけれど、きっとイーニドは、「あなたたちなんかと一緒にしないで!馬鹿らしい」と突っぱねて見せるんだろうなぁなんて思ってみたり。

ところで、この映画、最大の驚きは、ブラッド・レンフローが彼とは分からないくらいにダサい男に成長してしまったこと。かなりの衝撃です。「依頼人」→「マイ・フレンド・フォーエバー」→「セブンティーン」と確実にイケメン路線に成長してると思ったものの、最近あまり見なくなったのはそういう理由かぁと思ってみたり。あと、レベッカ役のスカーレット・ヨハンソンは、こういう普通の現代の女の子の役をするのは初めて見たのだけれど、なかなか可愛い感じなんですねー。ちょっと意外。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年6月 5日 (月)

映画「チアーズ!」

「チアーズ!」 2000年 アメリカ

爽やか青春チアリーダー映画!なかなか面白かったです。

主人公トーランスの所属する高校のチアリーディーング部は、全国大会で5度の優勝を誇る名門チーム。新学期、彼女はチームのキャプテンに任命され、再び全国大会を目指して練習を始めようと思った矢先、メンバーの1人がケガをしてしまう。そこで急遽オーディションを開催し、運動能力抜群の元体操選手、転校生のミッシーを勧誘する。そんな中、卒業した先輩が作ったオリジナル演技がコンテスト未出場の高校の演技の盗作だということが発覚。部内にはトーランスがキャプテンなのを良く思わない部員まで。そんな問題山積みのチアリーディング部を率いて、果たしてトーランスは無事キャプテンとしてチームを全国大会へと導けるのか!?そして、彼女のクラスに転校してきた、ミッシーの兄とは恋の予感も・・・。という物語。

主演のキルスティン・ダンストといえば、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」や「ジュマンジ」での天才的な子役っぷりが印象深く、最近は、「スパイダーマン」のヒロインでもおなじみですが、この映画では、まだあどけなさも残る元気な女子高生を本当に明るく、元気いっぱいに演じていて、彼女の新しい魅力を見せてくれます。特に、テープを聴いて、踊りまくるシーンは今まで見られなかった彼女の魅力に溢れてました。そして、転校生ミッシー役の子は、ドラマ「トゥルー・コーリング」の主役ですね。彼女もまた、「トゥルー~」とは違って元気いっぱいな姿が印象深いです。そして、この映画、他の女優さんや男優さんたちも有名俳優こそいないものの、記憶に残るような人が多く、キャラクターがしっかりと作りこまれているという印象でした。あの音楽オタクのお兄さんも、見た目はぱっとしないのに、見ているうちに親近感が湧いてくるようなキャラでした。彼の音楽Tシャツも結構注目ポイントです。

高校生部活映画といえば、日本のヒット作「ウォーター・ボーイズ」&「スウィング・ガールズ」が記憶に新しいですけど、この映画も基本は同じ。新学期になって部活をひっぱることになる主人公→新部員勧誘→ピンチ到来→皆でバイトして資金調達→クセのあるコーチが登場→大会出場という基本路線は世の東西を問わず青春部活映画の王道です。そしてこの作品は、そんな王道を行きつつも、チアリーディングという元気の良い素材が持つ明るさを最大限に生かした力作。そしてまた、ライバルチームとの白熱したバトル、友情&恋愛エピソード、最後の大会の圧倒的な演技と、「THE青春」とでも言わんばかりのエピソードの数々が、既視感があるはずなのに、いやみがなく、テンポも良いので、全く気にならず、主人公の成長を一緒になって感じ取れるような作品でした。そして、それでいて、高校生特有の悩みや、さりげなく挿入される人種問題などがスパイスとしてピリリと効いています。

エンドクレジットのNG集&出演者みんなでチアwith音楽は「MICKEY」も最後の最後までスカっと気分が良いですねー。この映画、多分何回見ても楽しめるタイプです。落ち込んだときにどうぞ♪

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006年6月 2日 (金)

「わたしたちが孤児だったころ」 カズオイシグロ

「わたしたちが孤児だったころ」 カズオイシグロ ハヤカワepi文庫

映画にもなった名作「日の名残り」のイギリスに帰化した元日本人作家カズオイシグロによる作品。「日の名残」は映画も小説も文句なしの名作で、彼の作品を読むのは2作目なので、楽しみにしてました。その割りに、ちょっと前に買ったものの、なかなか手を出せずにいたんですけど、いざ読み始めたらあまりの面白さに一気に読み終えてしまいました。

舞台は1930年台。主人公クリストファーは幼い頃を上海で過ごしたのだが、両親が相次いで失踪してしまい、その後、イギリスの親戚の家に引き取られたという過去を持つ。その後、成長した彼は探偵として成功し、ロンドン社交界ではちょっと名の知れた存在になる。そして、彼は、両親を探し出すために日中戦争のさなかの上海に渡るのだが・・・。というお話。果たして、彼は無事両親と再会できるのか、そして、この事件の裏に隠された衝撃の真実とは!?という一見すると、ミステリーか探偵小説かというような雰囲気なのですが、そういうエンターテイメントの殻を被った、壮大な純文学で、なかなか面白い作品でした。序盤ではロンドン社交界をじっくりと描き、中盤では、隣に住んでいた日本人の少年との思い出を中心に少年時代を回想し、そして、怒涛の勢いでドラマチックに展開していく後半と、様々な表情を持った作品です。

「ナイン・インタビューズ」という本の中でも、イシグロ氏が自ら語っているんですけど、この作品の最大の特徴は、語り手である主人公が「信頼できない語り手」であるという点です。過去を回想する場面が非常に多く登場するのだけれど、美化された思い出や長い年月をかけて勝手に解釈された記憶である場合が多く、そこで記述されることが「事実」であるとは限らないのです。そして、これはまた、作中の他の登場人物とのやりとりとの間でも、思い出の食い違いなどが登場することで、より一層アピールされています。そもそもの、この主人公の男がまたそこまで愛すべきキャラクタでもなく、作品の後半にいたっては、いきなりキレだして、もはや主人公(しかも語り手)にもかかわらず、手がつけられないような状況になってしまったりします。そんな「不安定な語り手」をとても上手く表現して、生かし、読者に、妙な不安感や、複雑な感情を与える作者の筆力は特筆すべきものです。

また、この作品は、少年時代をすごした上海に戻る主人公が、そこで、地獄を見るというような流れになっていて、美化された思い出、厳しい現実、そして、そこで揺れるアイデンティティが、作者であるイシグロ氏本人のバックグラウンドと重なることもあって、かなり迫真に迫ったアプローチになっています。そして、これはまた、幼少の頃を海外で過ごした僕自身にも重なってくる部分があって、なんだか他人ゴトではないような不思議な感覚に襲われました。そして、また、探偵が何かを捜し求める過程でアイデンティティの崩壊に向かい合うという設定は初期オースター作品そのもので、大分趣は違うのだけれど、オースターファンとしては、ちょっと嬉しい収穫でした。

エンターテイメントとして見たとき、後半の展開はあまりにも怒涛すぎるんですけど、個人的には、ラスト近くのシーンは結構胸にぐっとくる部分もあって、目頭が熱くなりました。あと、20世紀初頭のロンドン社交界を描く部分は、イギリス好きとしては、なかなか嬉しい場面だったし、少年時代の回想は普通に読ませるストーリーだったしで、全体的に映画とかにしてもなかなか面白くなるのではないかと思います。文学的な部分を出せなくて、ちょっと安っぽい歴史ものになる可能性も大ですが・・・。(イアン・マキューアンの「愛の続き」&映画版「Jの悲劇」とかそうだったもんね。)

| | コメント (2) | トラックバック (1)

« 2006年5月 | トップページ | 2006年7月 »