「銃」 中村文則
「銃」 中村文則 新潮文庫
昨年、「土の中の子供」で芥川賞を受賞した中村氏のデビュー作。
大学生西川はある日、川原で倒れている男の傍らに落ちていた銃を拾う。彼は施設で育ち、大学に入ってからも、合コンの達人として知られ、女遊びにふけってはいても、実際には表面的なつきあいをするだけで、人間的な感情をほとんど持ち合わせていなかった。そんな彼が、圧倒的な存在感を持つ銃に魅せられていく過程を主人公の独白形式で描く作品。
うーん、重い。
主人公の性格がとにかく暗く重いので、彼の独白で進むこの物語はひたすらにどんよりとしていました。作者のデビュー作ということですが、やはり荒削りな部分も目立って、妙にわざとらしい文章表現が気になる箇所も多数ありました。とりわけ、主人公が他人に興味を持たないことを表すために、人名をカタカナ表記にしたり、よく知っている人のことを単に「男」と呼ぶなど、確かに伝わってくるんですけど、ちょっとわざとらしいというか、くどいというか、そんな気がしました。警察のくだりとかも。
もっと主人公の設定が「普通の大学生」で、彼の精神が崩壊していくような内容だったら、もう少し好きになれたかもしれないのですが、最初から主人公の性格に難有りなので、銃を手にしたことによる彼の変化というものが、なかなか伝わりづらかったように思います。あと、銃を手にしたことによって、初めて人間的な感情が芽生えるという視点は確かに面白いし、上手なんですけど、ラストにかけてのどうしようもない重さは、確実に読み手を選ぶ作品だと感じました。しかしながら、ラストの主人公の漏らす声が、これまで奥深くに眠っていた彼の心の声がにじみ出たようで、とても切なかったのは印象的でした。
この作品、作者が今の自分と同じ歳のときに発表した作品で、若者のこういう心理も理解できないわけではないけれど、もう少し明るく楽しい日常のほうが僕は好きですね。
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