「重力ピエロ」 伊坂幸太郎
「重力ピエロ」 伊坂幸太郎 新潮文庫
伊坂氏が70年代生まれの作家として初めて直木賞候補にあがった作品(ちなみにこのときの受賞作は石田氏の「4TEEN」)。文庫化するたびに追いかけているので、伊坂作品はこれで4作目です。
DNA鑑定を行う会社に務める主人公泉水(いずみ)とその弟春(はる)を中心に物語りは進む。春は母親が強姦されてできた子供だったが、泉水の父親は妻にその子供を生ませることを決意する。そんな境遇で育った兄弟が、市内で多発する放火事件とイタズラの落書きとの相関関係に気づき、その謎を調査することに。自らの生い立ちに苦悩する弟とそんな彼を本当の家族として暖かく受け入れる兄と父を描いた家族の物語。
正直、そこまでのれませんでした。それは恐らく、扱う題材の重さが原因です。伊坂氏の書く物語の上手さは今回も本当に素晴らしくて、一つの台詞も無駄にせず、全てのエピソードに意味を持たせるその文章はもはや天才的だと思います。そして、いつも通りに魅力溢れる登場人物たちがまた良い味を出しています。とりわけ、この物語のキーパーソンである春君のキャラクターがとても良いのです。ときどき描かれる彼の苦悩や、普段は見せない影の部分、自らの生い立ちを責めるかのようにして行う正義感ある行動、そして、かわいい弟っぷりがなんともいえないのです。しかし、やはり、暗い。どんなに伊坂氏の文が上手くても、この根本的な題材の重さが自分にはちょっとつらかったです。しかし、この重さがあるからこそ、最後の父親の台詞がずっしりと効いてくるのも確かですけが・・・。
それにしても伊坂作品の登場人物っていつもインテリな会話を楽しんでますよね。こういう空気、自分は結構好きです。
伊坂ファンとしては、作中にしばしば現われる他の作品とのリンクが色々と楽しめたのは嬉しかったですね。特に「ラッシュライフ」の黒澤氏が再登場してたり、カカシの話がでてきたりするのはやっぱり嬉しいものです。伊坂氏の作品ではないけれど、S・キングの「シャイニング」に触れてる場面も印象的でした。
現時点での伊坂作品好き度ランキング。オーデュボン=ラッシュライフ>陽気なギャング>重力ピエロ。といった感じですかね。最初に読んだ上位2作品は本当にインパクトが強い作品だったので、それを越える驚きと感動を期待して次回作の文庫化を待っています。
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コメント
「感動もの」のレッテルを貼られている感のある『重力ピエロ』ですが、たしかに僕もあんまり乗れませんでしたね。
相変わらずキャラクターは魅力的だし、プロットも悪くないと思うけど、ANDREさんの書かれているように、テーマの重さがいかんともしがたい、というのも正直なところです。そういえば『アヒルと鴨のコインロッカー』も似たような雰囲気の作品で、後味がちょっと良くなかったですね。
ちなみに、僕の好きな伊坂作品は、『終末のフール』『死神の精度』『陽気なギャング…』『オーデュポン…』『グラスホッパー』というところでしょうか。
投稿: kazuou | 2006年7月 1日 (土) 07時44分
kazuouさん、コメントどうもありがとうございます!
テーマの重さはやっぱり気になりましたね。
同意していただいて、嬉しく思います。
直木賞候補になってますけど、これ以前の3作品にはない
「重さ」が候補作としての決め手になったんでしょうか・・・。
文庫で買うというのを基本にしているものの、
「チルドレン」、「終末のフール」、「死神の精度」あたりはかなり気になっています。
文庫化の時に改稿する作家ということですので、
単行本で読んで、さらに文庫で読むっていうのもありなんですけど、
何分、本棚の容量が・・・。
(↑本は買って読みたい派なのです)
投稿: ANDRE | 2006年7月 1日 (土) 14時45分