映画「オズの魔法使」
「オズの魔法使」 1939年 アメリカ
初めて見たのは、小学校低学年のときにテレビで放送されてたのを見たときだと思います。それ以降、テレビで放送するのを何度か見たり、学校の授業で見たりはしたものの、通して見たのはかなり久しぶり。90年代前半くらいまでは、普通に地上波で放送されたりしてたと思うんですけど、最近、こういう名作は滅多に放送されなくなりましたね。残念です。
叔父、叔母夫妻のもとで育てられているドロシーは、ある日、近所に住むおばさんが愛犬トトを苛めると涙で叔父や叔母、農園の使用人らに訴えるも、聞き入れてもらえず、悩みの無い幸せな国を夢見て歌を口ずさむ(かの名曲「over the rainbow」です)。その後、家出を決意したドロシーだったが、偶然立ち寄った怪しげな占い師に叔母が病気になったから家に戻った方が良いと告げられ、その言葉を信じて彼女は家に戻る。しかし、そんな折、巨大竜巻が現われる。家のものは皆地下室に避難したのだが、遅れて戻ってきたドロシーとトトは、家ごと、竜巻に吹き飛ばされてしまう。こうしてドロシーはオズの国にたどりつき、家に帰る方法を求めて、脳みそが欲しいカカシ、心が欲しいブリキ男、勇気が欲しいライオンと知り合い、皆で大魔法使いオズに会いに旅に出るという物語。
約70年前に製作されたというのが信じられないくらいに、色あせない輝きを持った作品です。とりわけ、現実の世界をモノクロで、オズの国をカラーで描くのですが、オズの国の色鮮やかさはため息もの。今から見れば、確かにチープさはある映像ですが(特にまんまセットなところとか)、当時の最先端の技術をこれでもかというくらいに駆使して、「オズの国」を再現しようとしたその努力が溢れんばかりに伝わってくる映画です。
この映画、原作と比べてみると、割と違う点が沢山あるのですが、その相違点が全て、映画の持つ強いメッセージ性につながってくるあたり、製作者たちの作品に対する思いが伝わってくる変更なのだと思います。とりわけ、冒頭のカンザスでのシーンを長く描いて、さらには、オズの国で出会う人々を皆カンザスの住民との2役にすることで、ドロシーが最後に言う「There's no place like home」の重みが増してくるわけです。また、原作では、魔女を倒して、オズが気球に乗って去ってしまうくだりはまだまだ中盤の山場。その後、良い魔女のもとに向かうために、生まれ変わったメンバーで旅に出るくだりがあるのですが、映画ではその部分をごっそりカット。そうすることで、この映画の「アイデンティティの発見」という大きなテーマが際立ったわけです。
カカシもブリキもライオンも、自分が欠いていると思っているものを最初から持ち合わせているにもかかわらず、それに気づいていません。逆にドロシーという少女は彼らが欲しいと望む全てを持っています。危険な目にあえば、機転を働かせるし、感情表現豊かだし、自分が納得しなれば、どんな強いものにでも立ち向かっていきます。1930年代という時代背景を考えると、自分の持つ潜在的な能力に自信を持てずウジウジしている男たちを強気の少女が導いていくという設定もまた、女性の自立、解放などを強く訴える要素を感じさせます。
それにしても、西の魔女の怖いこと。彼女の恐さは、本当に70年の時を経ても全く色あせていません。そしてまた、良い魔女グリンダが当時50歳を越えているとはとうてい思えないほどの美しさを持つ女優さんなのです。この2人の魔女の魅力は、彼女らを主人公にしたミュージカルが、近年ブロードウェーで大ヒットしていることからも明らか。
この映画、確かに名作なんですけど、本国のアメリカでは未だに根強い人気を持つ作品のようで、どの世代の人でも子供時代にこの映画を見て育つと言っても過言ではないような状況のようです。この背景にはやはり、この作品が、原作、映画ともに純アメリカ産の数少ないファタンジー作品であるという事実があるように思います。今も昔も、ナルニアにしても、指輪にしても、ハリーにしてもイギリスの作品ですし、映画化もされた「はてしない物語」はドイツ作品ですし、純アメリカ産の児童文学&映画の傑作の第1号と言っても過言ではないのかもしれません。「there's no place like home」の「home」は彼らにとって、アメリカという国そのものなのかもしれないなぁと思ってみたり。
あと、ジュディ・ガーランドはこのときが一番良い気がする。
最後に、最近知って驚いたのですが、この映画の監督、同じ年に「風とともに去りぬ」を監督しています。とんでもない才能を持った人だったに違いありません。
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 映画「天使の分け前」(2013.06.13)
- 映画「屋根裏部屋のマリアたち」(2013.05.29)
- 映画「ハッシュパピー バスタブ島の少女」(2013.05.27)
- 映画「リンカーン弁護士」(2013.05.06)
- 映画「偽りなき者」(2013.05.05)
「ミュージカル」カテゴリの記事
- 舞台「ウェディング・シンガー」(2013.03.28)
- 舞台「ノートルダム・ド・パリ」(2013.03.18)
- 舞台「ロックオペラ モーツァルト」(2013.02.23)
- 舞台「サンセット大通り」(2012.08.19)
- 舞台「CHESS in Concert チェス・イン・コンサート」(2012.02.20)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
こないだBSを見てたらたまたまthat's entertainment Ⅲをやっていて
judy garlandのセクションでover the rainbowを聞いた
やっぱすごいね
お蔵入りしたannie get your gunも素晴らしかった
>同じ年に「風とともに去りぬ」を監督
しかも第二次世界大戦中だったっていうのがすごいよね
投稿: halcan | 2006年7月 3日 (月) 00時54分
そうそう、この数週間BSはミュージカル特集だったんだよね。
昼、夜、深夜の3つの映画枠全てがミュ-ジカル映画の日があったし
お正月に総合でやってたBBCのミュージカルのドキュメンタリーもやってたし。
judy garlandは本当に上手い!
しかも、あのときはまだ10代だしね。
子供のライザ・ミネリもかなりのカリスマ性があるから、
もはや生まれつき持った遺伝的なものもあるんだろうね。
>大戦中
国をあげて質素倹約に励んでいた国とは大違いだよね・・・。
投稿: ANDRE | 2006年7月 3日 (月) 01時03分