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2006年6月30日 (金)

映画「青い棘」

「青い棘」 2005年 ドイツ

1920年代に実際に起こり、当時ドイツ中を震撼させた事件を映画化した作品。主演は、「グッバイ・レーニン!」や「ベルリン、僕らの革命」のダニエル・ブリュール。

舞台は1927年6月。学校の親友であるギュンターとパウルは、人生について語りあい、人生で最も幸せな時間はただの一度きりとして、愛を感じなくなった瞬間には、その愛を奪ったものを殺し、自らも自殺しようと「自殺クラブ」のルールを作る。そんな2人は週末をギュンターの別荘で過ごしていた。そこでは友人達が集い、酒にタバコにドラッグにとパーティが行われていた。パウルはギュンターの妹ヒルデに恋心をいだくが、彼女は複数の男性との自由恋愛を楽しむタイプの少女であり、そのときの彼女はレストランランで働くハンスという男が一番気になる存在であった。しかし、このハンスという男、実はギュンター(ゲイ)の恋人でもあった。パウル、ギュンター、ヒルデ、ハンスの4人の恋愛のもつれはやがて悲劇に向かって走り始める・・・。という物語。

ギムナジウム、上流階級の10代の少年少女たち、週末の湖畔の別荘、酒、たばこ、ドラッグ、銃、占い、詩の朗読、美男美女が集う夜毎のパーティーと、これでもかというくらいに20世紀初頭の上流階級の若者たちの姿を雰囲気たっぷりに描いた作品。そもそもの映像と音楽がどの場面を切り取っても、絵になるような美しさがあって、ちょっと翳りのある退廃的で、純粋すぎる思春期の若者達の姿がまさにイメージどおりなのが、なんとも言えないくらいに美しい。

10代の若者のなんとも危うい精神状態が生んだ悲劇を描く作品ということで、内容はかなり暗いし、観終わった後もドンヨリとした空気で終わるんですが、この作品はとにかく「雰囲気」が良い映画なので、内容云々よりも、その空気を味わえただけでも見て良かったと思える作品です。ストーリーのほうは、悲劇に至るまでの過程を丁寧に描くこともなく、淡々と終わってしまった感じで、本当に雰囲気ばかりが印象的な作品でした。

主人公はパウルということになっていますが、彼は単なる傍観者にすぎなくて、真の主人公はギュンターとヒルデの兄妹。ちょっと世界を上から視点で見てしまい、何か人生を悟ったかたのような錯覚を覚えた青年ギュンター。まだまだ10代の若者じゃないですか。もっと広い世の中に出て行って、色々なことを見てみようよと語りかけたくなります。彼らの世界はあんなにも狭いあまりにも内輪な集まりだけなのだから。まぁ、彼らがもう少し成長する頃にはナチスが台頭するドイツになってしまうわけですが・・・。一方でヒルデは自由恋愛に走る少女ですが、彼女はまだ本当の愛を知らない少女というだけ。だって年齢だって15か16かそのくらいのはずですよ。両親が側にいない彼女、恐らくとても淋しい少女のはずです。

登場人物の中で最も印象的だったのは、ヒルデという絶対的な存在がいるのを承知の上で、それでもパウルに近づこうとする少女エリ。この物語の中では本当に隅に存在しただけの彼女だけれど、最後にテロップで出るその後の彼らの記述において、エリもまた、生涯独身を通したという事実が、妙に心に残りました。。

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