映画「ミリオンズ」
「ミリオンズ」 2005年 イギリス
「トレイン・スポッティング」(←この映画も中毒性が高いよね。かなり好きです。)の監督ダニー・ボイル氏の最新作は、なんとビックリの子供向けファンタジーでした。しかしそれでもキラリと光る抜群のセンスは健在で、映像的満足度の高い、とても楽しめる映画でした。
母親を亡くしたダミアン少年が、兄と父とともに新しい町に引っ越してくるところから物語ははじまる。ダミアンは信仰心の厚い聖人マニアというちょっと変わった少年で、空想の世界(?)で様々な聖人と会話をするような男の子。ある日、線路脇にダンボールで作った秘密基地で遊んでいた彼のもとに、どこからか、大金の詰まったボストンバッグが降ってくる。そのことを伝えると兄はそれを2人だけの秘密にして、2人で使おうと提案。物欲に走る兄とはうらはらに、ダミアンは身近な貧しい人たちにそのお金を配って歩いた。しかし、時はイギリスがポンド通貨からユーロに切り替えをしようとしている時期で、その大量のお札はユーロに両替しなければあと数日でつかえなくなってしまうことが発覚。子供だけでは、銀行での両替をすることもできず、どうしようかと迷う2人の前に、ボストンバッグに入った金を探す1人の男が現れる。はてさて、大量のポンド紙幣の行方やいかに・・・。というお話。
冒頭のシーンからとにかく凝った映像が続いて、CMのような感じのカラフルでポップでスタイリッシュな演出の数々は、途中、ちょっとお腹いっぱいになるのも事実なんですけど、流石はダニー・ボイルといったところでしょうか、映像を見ているだけでワクワクするような映画でした。また、音楽のセンスも抜群で、ミューズやクラッシュなどが効果的に使われていて、映像と音楽だけでもかなり満足度の高い作品でした。エンディングにいたっては、普通に耳に馴染んだ音楽が流れはじめたと思ったら、FEEDERがエンディング・テーマで、UK音楽好きとしては最後まで大満足でした。
突然の大金を手に入れたらあなたはどうするのかという疑問を問うてくるこの映画、監督自身が自分の子供に見せたい映画を作ったということで、いつものようなバイオレンスやドラッグが登場することもなく、とても健全な展開のストーリーでした。しかし、様々な登場人物を効果的に使うことで、様々な「お金の使い方」を提案してくる見せ方はとても上手いし、こういう話なのに、説教じみたところがないのも好感。主人公が主人公なだけに、ラストは真面目すぎる模範的な終わりかたになってしまったけれど、主人公とは対照的に物欲に走る兄の描き方も決して悪くはなくて、このラストでも不満を感じさせませんでした。この辺はちょっと納得いかない人もいそうですけど。
イギリスがポンド⇒ユーロという設定そのものが既にファンタジーなんですが、ストーリーも現代の御伽噺といった感じだし、上述の演出の素晴らしさもファンタジー要素を盛り立てていて、ダニー・ボイルの今後の動向がますます楽しみになるような1作でした。
ここ数年、ヨーロッパの子供主人公映画のクオリティの高さは一体何なのだ!?という思いをまた強くさせてくれる良い映画でした。
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コメント
TBありがとうございます。
ポンド→ユーロのフィクションに全く気付かなかった私としては、これまでの前知識なく鑑賞するスタイルの悪い面が今回出たようです。リアリティにこだわるあまり、ファンタジーに浸りきれなかった自分に腹が立ちます。
これからご覧になる方には是非楽しんでいただきたいと、声を大にして言いたいですね。
また訪れます。
投稿: lackofwords | 2006年8月18日 (金) 10時47分
>lackofwordsさん
TB&コメントどうもありがとうございました。
ポンド⇒ユーロがフィクション=ファンタジーというのは
欧州から遠く離れた日本ではなかなか気づきにくい設定かもしれませんね。
「トレイン・スイポッティング」の監督とは思えないほどの
優しさと暖かさがつまった良作だったと思います。
投稿: ANDRE | 2006年8月18日 (金) 23時26分
TBありがとうございました♪
ダニー・ボイル監督、とても不思議な魅力があります
どの作品でも、インパクトがあって・・・
この作品は優しさも暖かさも厳しさも
いろんなものが詰まっていて素敵な作品だと思いました。
投稿: D | 2006年11月 8日 (水) 17時46分
Dさん、コメントどうもありがとうございます!
ダニー・ボイル監督は、アウトローを描くイメージが強かっただけに
この作品のもつ暖かさ、優しさはとても印象的であるとともに
監督の引き出しの多さを改めて実感して、
今後の作品がますます楽しみになりました♪
投稿: ANDRE | 2006年11月 9日 (木) 00時47分
また来てしまいました。
ポンドがユーロに切り替わる(?)っていう時点で面白い設定。
しかも、1人も美男美女も出て来ず、リアリティがあるかと思えば、
要所要所はファンタジックだったり、シュールだったり・・・
そのあたりの加減がとっても好きです。
『シャロウ・グレイブ』『トレインスポッティング』と『28日後...』
どれも好きだったのですが、
これで次回作もまた楽しみになりました。
投稿: 悠雅 | 2006年12月 1日 (金) 19時29分
悠雅さま
TB&コメントどうもありがとうございます。
ボイル監督はアウトローな作品のイメージが強かったので
この映画のような暖かい作品をこんなにも魅力的に
撮れるということがとても意外で、
ますます彼の作品のファンになってしまうような映画でしたね。
投稿: ANDRE | 2006年12月 2日 (土) 01時49分